6/53
第九月三週目第二曜日
キャンディが何の気まぐれか、私を財団の職員として正式に雇うと言い出した。
従わなければならない理由はないが、私の現状を鑑みるに、これを断るのは今後あまりよろしくない状況を作り出しそうだ。腕が癒えたとはいえ、私は既にあらゆるものを失った身である。
何もやることがないのなら潔く死んでしまっても構わないのだが、どうにも自分はまだ死ぬ気がない。何故生きようと思うのか自分でもわからないが、いつか死ぬその時は、弟の目の届く場所でなければならぬと思っている。自分のことながら、思考が論理的でない。まだ感情面に揺らぎがあるのは、自分が弟に負けたことを割り切れていないという証明に違いなかった。
キャンディの使用人が持ってきた書類によれば、今後私の身柄は財団の預かりとして公式に扱われ、新たな戸籍が用意されるという話だ。アールヴはアールヴでも、最早かつての魔界貴族ロサフォルティとしての私は、一切失われる。もう、失っている。