表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の成りそこない  作者: 味醂味林檎
幕間 肆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/53

ラック・サンストーンの祈ること

 私は幼い頃、キャスト財団にスカウトされてエージェントになった。私が持っている剣が理由だ。


 特別な剣。斬ったものを重くする剣。私にだけは軽い剣。遠い昔、旅の魔術師が家宝の剣にまじないをかけてくれたもの。今となっては、たった一つ残された、家族の思い出。


 要するに、私は『すこし不思議なもの』の一つとして財団に確保されたも同然だった。それでもいい。ここでは私は必要とされるし、他に行くところもないから。ミス・キャンディは子供の頃から沢山遊んでくれた。大人はみんな優しくて、人間には追いつけなくて、魔族はみんな追い越して、私は財団で子供ではなくなった。


 アールヴさんは、私とほとんど同じ時期に財団にやってきた人だ。それもあって、私は勝手に、アールヴさんに親近感をもっていた。彼も私と同じように、財団にとっては『すこし不思議なもの』の一つなのだとわかっていたから。何の根拠があるわけでもなしに、きっとお友達になれると信じていた。


 彼の過去に何があったのかは知らないけど、なんだか、寂しそうな人だった。私が近寄っていくと、いつも一応は反応をくれたから、本当は優しいのだと思う。後になって知ったけれど、アールヴさんは、最初は人間嫌いだったらしいから。私は生粋の人間なのに、何でだか構ってくれた。たぶん、彼がいたので、私は寂しくなくて済んだ。私にとっては、強くて憧れの人で、父とか、兄のようなものだったから。彼はそんなこと思ってもみないだろうけど、でも、私は救われてたんだよね。そういう優しさに飢えていたの。




 ええ――本当に、彼ったらかわいそうな人なんですよ。彼は孤独です。私のように構いにいく人がいなかったら、彼はずっと独りなんです。ミス・キャンディは何かとアールヴさんにちょっかいかけているけど、それがただの親愛だけじゃないことを、大人になった私は悟ってしまいました。そして私は、彼より先に、老いて逝きます。




 アールヴさんはずっと若い頃と同じままだけど、私はどんどん年老いていく。人間と魔族は違うから当たり前のことなんだけれど、隣に立つのもどんどんつらくなっていくの。だって、彼はいつまでも若いままなのに、私だけしわくちゃのおばあちゃんになっていく一方なんだもん。隣に立つの、なんか恥ずかしいじゃない、腰も曲がってしまったら。きっと他の先輩たちも似たようなこと感じてたんじゃないかしら。アールヴさんのことがなくたって、私たちの代表は、ミス・キャンディなんだから。




 これって寂しさなのかなあ。心が弱くなってしまったのかしら。ええ、下らない悩みごとだとはわかっているけど――。




 ――私の代わりに、誰か彼と生きる人は現れるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ