ラック・サンストーンの祈ること
私は幼い頃、キャスト財団にスカウトされてエージェントになった。私が持っている剣が理由だ。
特別な剣。斬ったものを重くする剣。私にだけは軽い剣。遠い昔、旅の魔術師が家宝の剣にまじないをかけてくれたもの。今となっては、たった一つ残された、家族の思い出。
要するに、私は『すこし不思議なもの』の一つとして財団に確保されたも同然だった。それでもいい。ここでは私は必要とされるし、他に行くところもないから。ミス・キャンディは子供の頃から沢山遊んでくれた。大人はみんな優しくて、人間には追いつけなくて、魔族はみんな追い越して、私は財団で子供ではなくなった。
アールヴさんは、私とほとんど同じ時期に財団にやってきた人だ。それもあって、私は勝手に、アールヴさんに親近感をもっていた。彼も私と同じように、財団にとっては『すこし不思議なもの』の一つなのだとわかっていたから。何の根拠があるわけでもなしに、きっとお友達になれると信じていた。
彼の過去に何があったのかは知らないけど、なんだか、寂しそうな人だった。私が近寄っていくと、いつも一応は反応をくれたから、本当は優しいのだと思う。後になって知ったけれど、アールヴさんは、最初は人間嫌いだったらしいから。私は生粋の人間なのに、何でだか構ってくれた。たぶん、彼がいたので、私は寂しくなくて済んだ。私にとっては、強くて憧れの人で、父とか、兄のようなものだったから。彼はそんなこと思ってもみないだろうけど、でも、私は救われてたんだよね。そういう優しさに飢えていたの。
ええ――本当に、彼ったらかわいそうな人なんですよ。彼は孤独です。私のように構いにいく人がいなかったら、彼はずっと独りなんです。ミス・キャンディは何かとアールヴさんにちょっかいかけているけど、それがただの親愛だけじゃないことを、大人になった私は悟ってしまいました。そして私は、彼より先に、老いて逝きます。
アールヴさんはずっと若い頃と同じままだけど、私はどんどん年老いていく。人間と魔族は違うから当たり前のことなんだけれど、隣に立つのもどんどんつらくなっていくの。だって、彼はいつまでも若いままなのに、私だけしわくちゃのおばあちゃんになっていく一方なんだもん。隣に立つの、なんか恥ずかしいじゃない、腰も曲がってしまったら。きっと他の先輩たちも似たようなこと感じてたんじゃないかしら。アールヴさんのことがなくたって、私たちの代表は、ミス・キャンディなんだから。
これって寂しさなのかなあ。心が弱くなってしまったのかしら。ええ、下らない悩みごとだとはわかっているけど――。
――私の代わりに、誰か彼と生きる人は現れるのだろうか。




