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魔王の成りそこない  作者: 味醂味林檎
ベエル暦一七一六年 夏の終わり、そして秋
1/53

第八月三週目第一曜日

 私がキャスト財団の管理に置かれるようになって、三か月が経つ。それはつまり、私が弟との覇権争いに負けてから、それだけの時が経ったという意味でもある。

 弟によって、私の左腕は失われた。弟の魔術は今や暗黒とすら呼ばれ、祖国の誰からも魔王として認められている。私を打ち負かしたことによって、あれは英雄となり、王となった。

 あれが私が思う以上に成長していたとは、兄として喜ぶべきであるのか、それとも悔しがるべきであるのか。今となってはわからない。噂では、私の妻は戦死し、側近であった男は領地の大部分を没収されて、まさに地に落ちたような現状を暮らしているようだ。私自身、自らを自由にできているわけでもない。

 弟は私を殺したと思っているだろう。ここに匿われている=収容されている限り、私のことが知られることはまずない。

 キャスト財団の総帥であるキャンディという女は、一体何を思い私をここに置いているのだろう。外出は禁じられているが、随分と丁重な扱いを受けている。傷は癒えたとはいえ、今の死人に等しい私は、政治に影響を及ぼすこともできず、金もなく、あるのはただ魔術だけだ。それも魔王に成りそこなった、魔王となった弟より劣るような、半端な魔術だ。

 キャスト財団の職員たちの誰も彼もが、私に劣る。多くは人間であり、大した才を持たぬ魔族であり、矮小な者どもだ。私の世話係を言いつけられているキャンディの従者、ロバートとマイケルも私から見れば小物でしかない。

 されど私はここを去ることができないでいる。魔力放出を抑える特殊な構造の部屋に収容されている、というのもある。人間の科学が発達著しく、我が魔術と同じ域に達するほど、少なくとも戦闘のための技術としては形ができているというのも理由である。一人一人は矮小であろうとも、彼らの持つ道具は兵士の質を高めるそれだ。

 そもそもここを去ったとして、私には既に帰る場所はなく、向かうべき場所もない。今はただ、キャンディに気まぐれに与えられたこの日記を書くだけしか、やることがない。

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