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ログイン四日目 チュートリアル4

「わかるわよね? あいつのHPが減っていないことに」

 俺は、半信半疑でビビウルフの頭上に表示されているHPバーに視線を向けた。

 少女の言うとおり、HPバーは最初に出会った時と同じままだ。

 HPバーの下にある体力の残りを表している数値を見ても、ダメージが入っていないことがよくわかる。

「なんでだよ? 確かに攻撃はあたったはずだぞ」

 めちゃくちゃな攻撃であったことは認めるが、俺の手には確かにやつを攻撃したという感覚はあった。

「当たっても無駄よ。あいつには攻撃が効かないのだから」

 少女はすらりと、衝撃のセリフを当たり前のように言い放つ。

「もしかしてあれか? よくRPGである、死なないとストーリーが進まない的なやつか?」

「違うわ。コイツは私たちプレイヤーの力では勝てないけど、倒さないとストーリーは進まない」

 おいおい、矛盾してるじゃん。

 倒せない敵なのに、倒さないと進めないって……

「そんなの運営のミスだろ?」

「いいえ。ミスなんかしていない。むしろ、これが運営の望んでいるゲームなの」

 こんな無理ゲーが運営の望んでいる形なのか?

 俺は顎に手をあてて、じっと考えた。

 考えていると、もしかするとあのキーワードがこのチュートリアルを攻略する鍵ではないかと思いついた。だが、そんなことがあり得るのか?

 でも、もしかするとって可能性もあるよな。

 こいつなら……この考えが真実であるのかどうか答えてくれるかもしれない。

 とりあえず、少女に問うてみることにした。

「まさか、だとは思うが。このチュートリアルってさ」

 今俺が考えていることが、もしも真実ならこのゲームを今すぐアンインストールするかもな。




「課金しないとクリアできないのか?」

 俺の問いを聞いた少女は驚いた表情を――

 すると思っていた。

 だが、少女は驚くどころか。感心したような顔でこちらを見ていた。

「そうよ。ようやくこのゲームをわかり始めたようね」

 最悪だ。

 予想はしていたけど、真実であるとわかった瞬間にこのゲームに対して表現することのできない感情が俺の心の中で煮え立った。

「そうなのか……ありがとうな」

 踵をかえし、ログインしたときにワープしてきた場所にむかって歩き始めることにした。

 チュートリアルをクリアすることができなかったというのは心残りではあるが、今回は特別だ。

 無理ゲーに時間をかけるのも馬鹿らしいからな。

 言葉を残しその場を去ろうとする俺の背中を捕まえるかのように、彼女の声が響いた。

「お願い。私と一緒に戦ってほしい」

 予想をかなり上回った彼女の言葉に、つい振り向いてしまった。

 あんなにおてんばって感じの女の子から急に、予想できないようなか細い声が出たのだから俺じゃなくてもほとんどのやつが振り返るに違いない。

「え? 今なんて言った?」

 意地悪をしたいわけじゃないが、一応今の声の主が彼女であるということを確認しておきたい。

「……」

 顔が茹で上がったかのように急激に赤くなり、彼女は下を向いてしまった。

 え? ちょっと待ってくださいよ。周りから見たら俺が彼女に対してなにかひどいことをしているように見えるんじゃないか?

 現実はやはり俺の想像を裏切らなかった。さっきまでは、俺と彼女とビビウルフしかいなかったのに気付いた時には囲まれているかのようにほかのユーザーたちが俺のことを見ていた。いや、睨んでいたのほうが正しいか。

 ユーザーたちはひそひそと俺の悪口を言っているようだが(雰囲気的に)、一度に何十人の声が重なるものだからあたりには俺に対する悪口の大合唱が響いた。

「こ、これはまずいって! なあ! わかった俺が悪かったから顔あげてくれよ~」

 もう泣きたい。

 再度周りに視線を向ける。するとさっきまでの大合唱は幕を閉じたらしく、再び静けさがその場に定着した。

「よ、よかった。誤解は解けたようだ……」

 しかし、今回は現実に裏切られてしまった。

 周りに取り囲むユーザーたちは、皆一斉に武器を構えたのだ。

「エリナさんを泣かせやがったな!」「マジ許さん! モンスターより腹立たしいわ!」

 と、再び大合唱が始まった。

「いやいや。アンコールとかいらないから……」

 どうする、どうすればいいんだ!

 俺は考える……ふりをした。

 なあに、迷うことはないさ。こういう時の正解ってのはな!

「逃げる!」

 踵を返し、ユーザーたちの少ない方向へ走り出した。

 が、何かに引っかかったように俺はその場で激しく転倒してしまう。

 その何かは今もなお、足にくっついている感触を残している。

「いてて……なんだよ? 雑草にでもひっかかったのか?」

 視線を自身の足のほうに下げていく。

「に、逃げないでよおおお……」

 引っかかったのは雑草ではなかった。

 いやそもそも、何かに引っかかったというわけではなく。俺のズボンのすそをつかんでいる彼女が俺を転ばせたようだった。

「お、おい! 何しやがる」

「だから、逃げないでって……」

「逃げないと死ぬだろ! もういい、離れろ!」

 必死に足を振り回してまとわりつく彼女をはがそうとしたのだが、抵抗するかのようにさらに強くからみついてきた。

 おもちゃをねだる子供よりもしつこいぞ、コイツ。

 しかし、その行動がどうやら裏目に出てしまい、殺気立つ周りのユーザーたちからは俺が彼女を蹴っているように見えたらしいのだ。

「くそか! 女の子を蹴るだなんてお前は人間か!? ああ?」「無報告でメンテナンスする運営よりもうざいぞ! メンテナンスするなら事前報告しやがれ!」

 大合唱はサビに入ったかのように、さらに燃え上がった。

 一人明らかに怒りの素が違うようにも思えるんだが……

「も、もういい! 引きずるからな! ケガしても知らないからな!」

 足にため技の如く力をためて、大きく振り上げた。

 俺の足とともに、カツオの一本釣りかのように彼女も振り上げられた。

「い、やああああああああああw」

 あ、コイツ。いま笑いやがった。

「お前、わざとやってんだろ!」

「……」

「黙るなよおおお!」

 ここぞというタイミングで黙秘権を使用してきやがった。

 

 

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