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ログイン一日目 チュートリアル

2056年。日本のインターネット技術は大きく進歩し、VRといったシステムが日常的なものとなった。スマホやゲーム機、家電用品といった、電子機器はすべて携帯電子装置ネクストとよばれる首につける小型のアクセサリーのようなものによって、操作することが可能となり、《ネクスト》がなければ生活することができないという時代に生まれ変わる。

 《ネクスト》はもともとは医療のために開発された医療器機であって、一般人の手には入らないものとされていた。しかし、《ネクスト》が開発されてから三ヶ月後、大手の電気会社が《ネクスト》を買い取り、家電用品として売り始めた。これが、ネクストを家庭に浸透させたきっかけとされている。

 《ネクスト》は次世代型VR家電器機とも呼ばれていた。


 キンコーン、カンコーン。

 学校内に授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。

 それを聞いた生徒たちは授業という拘束から解き放たれた快感を感じながら、一斉に帰るための準備を始めていた。

 この学校には、先生とよばれる人間はいない。そのため、《ネクスト》によって具現化されたアンドロイドが人間の代わりに生徒たちの教育をおこなうのだ。

 そのアンドロイドには、必要最低限の機能のみがインストールされていて、学問を教えることのみがデータとして埋め込まれている。よって俺たちは帰りの号令などといった面倒事はしない。授業が終わる合図さえ聞けば自由へと解き放たれるということだ。

 二年生に先月なったばかりのおれは、鐘がなるタイミングを完全に把握していたため誰よりも速く学校から出ることができた。

 いつもなら、ゆっくりと帰りの準備を開始するのだが今日は俺にとって特別な日で、はやくかえらなければならない。

 ずっと待ちわびていたあのゲームの配信がこのあとすぐに控えているため、いち早くダウンロードをしなければならない。ダウンロードをすることになぜか使命感を感じてしまっているのだ。

 

 ゲーム名は、《リアルジェネレーション》。自分自身がプレイヤーとなって仮想世界に具現化されるさまざまなモンスターを倒していくVRMMOである。

 俺はこのゲーム《リアルジェネレーション》については三ヶ月ほど前から知っていた。

 一年に一度、東京で大きなゲームの祭典が開かれるのだが、その祭典のビックイベントといわれているのが新作ゲームの発表なのだ。その祭典で発表されたゲームは必ず大ヒットするとまで言われている。

 実は三ヶ月ほど前にその祭典が開かれており、そこで発表されたのが《リアルジェネレーション》であった。

 《リアルジェネレーション》が事前登録を始めると、全国各地のゲーマーが競い会うように登録をした。皆が目的としているのは、β版のテストプレイ。製品が発売される日を待ちきれないというゲーマーたちが殺到した。

 俺も事前登録をした。β版のテストプレイができればいいなと期待をふくらませ、登録した。

 事前登録が締め切られた頃には、登録者数は公式サイトに設置されていた人数を示すゲージをカンストさせてしまっていたという。それほど多くの人間が、ごくわずかの人間にしかプレイすることが許されないβ版を夢見たのだろう。

 奇跡を願ったが、残念ながら俺はβ版をプレイすることができなかった。体験したプレイヤーたちは「マジですごかった」とか「革命きたぁ!」とSNS上で喜びを叫ぶ。

 正直、そのような行動をしてなにが楽しいのだろうと思った。自慢なのか? 自慢がしたくてβ版に応募したのか?

 当時の俺はよくそのようなことを考えていたものだ。

 もうそんなことを思わなくてすむんだけどな。

 そう、今日が《リアルジェネレーション》の配信日なのだから。

 事前登録が始まったときから半年。その間はしたくてもできないという地獄の時期だったなぁ。


 俺は家につくと真っ先に2階にある自室へと向かった。

 早くプレイしたいという気持ちがおれの歩みを加速させる。

 自室に入るとすぐに肩から下げていた鞄を放り投げ、着ていた上着をベットの上に投げ飛ばした。勢いを殺さないまま、勉強机の椅子に飛ぶようにして座る。

「《ネクスト》インターネットシステム起動」

 おれの声に反応した《ネクスト》は青色に光りだし、システムの稼働をはじめる。

 《ネクスト》は高性能ではあるが、だからといって動作が速いというわけではない。システムの起動には最低でも数十秒はかかる。

『インターネットシステムの起動を確認しました』

 脳内に直接語りかけるように、《ネクスト》は報告の義務を果たす。

 その言葉は視界にも表示されている。

 人差し指を前方に突き出し、慣れた手つきで視界に表示されているものを操作する。

「ダウンロード完了!」

 この短時間で、ゲームのダウンロードを完了してしまった。普通なら一時間ほどかかるが、俺ならその半分の時間があればダウンロードをすることが可能だ。

 いろんなゲームをしてきたということが大きく関わっているのだろうな。


 とりあえず、ダウンロードを終えた俺はさっそくプレイするためにもう一度 《ネクスト》に命令した。

「リアルジェネレーション起動!」

『リアルジェネレーションの起動を確認しました』

 視界には、「ようこそ、リアルジェネレーションの世界へ」と表示されていた。

 おれの心臓は天井知らずに鼓動の速度をあげていく。

 いったいどんな世界が俺を待っているのか。考えるだけで興奮が止まらない。

 高ぶるテンションのあまり大声をあげてしまいそうになる。

 先ほどから、表示されている文字の下で円がくるくると回り続けていた。

「やっぱり、初回はロード長いか」

 VRMMOなんだからしかたない、よな。

 俺は一度目を閉じた。

 目を閉じていれば、勝手に始まっているのではないかと考えたのだ。

 力を抜き椅子の背もたれに身を任せる。今日は金曜日だ。一週間の疲労が積もりに積もっていたということもあって、俺はそのまま寝てしまった。


 心地の良い温かさに俺は目が覚めた。

 ぼやけた目をこすりあたりを見渡すと、どこまでも広がっているような草原が俺の視界を占領した。空は少し赤くなっており、太陽が沈もうとしている。

 ここまで現実に寄せた世界観だとはな。さすがは最新技術の超大作といったところか。

 俺は起き上がるとすぐに体を動かした、現実世界とは違い体がとても軽い。空を飛ぶこともできるかもしれないほどに軽い。

 視界には景色のほかに青色の横線が表示されていて、横線の上にはHP/98と書かれている。この数字が俺のライフポイントを表しているのだ。

 もし、このライフポイントがなくなっても俺は死ぬことはない。

 ゲーム内での死はゲームオーバーと呼ばれ、ゲーム内で死んでも決められた場所でもう一度蘇生される。

 ゆえにライフポイントがなくなったからと言ってどうということはないんだ。ただ、持ち物を失うということはあるかもしれない。

 ライフポイントのほかにももうひとつ。視界に矢印が表示されている。

 半透明に空中に浮かんでいるそれは、微動だにせずにずっとある方向を向いていた。

 この矢印は通称『イベントナビ』と呼ばれており、現在発生しているイベントの方向を示してくれるのだ。

 

 


 


 

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