騎士団に行ってみた
「クロ、少し運動しないか? 」
ゴトンッ……コロコロコロ……。
今、なんと?
まさかの殿下から「少し運動しないか」=「太ってきたぞ」を言われました。
私はその衝撃で朝から贅沢に好物の人参さんを丸かじりしていたのだが、それを落とすほどの衝撃だった。まぁ、その後転がってしまった人参さんをアルさんが黙ってお皿へ戻してくれたけど。
面目ない。
「殿下、それでは太ってきたぞ、って言われたのかと勘違いさせますよ-。言葉が足りなすぎです」
「あらら、相当なショックを受けてしまったようですわ。ほら、固まって口の中に残っていた人参を飲み込んでから、全く動かないわ」
「なっ! それは、すまない。そのつもりでは……」
ダンッ!
「すまんっ!」
と、まぁ、殿下の相変わらずの言葉の足りなさにより、穏やかな朝がゆっくり進む。
アルさん曰く、殿下はどうやら騎士団に私を連れて行きたいとのこと。なぜ? と首を傾げると、殿下は「ぐはっ!」と呻きなされたがスルーする。
もお、ここ城に来て一ヶ月はたった。その間、殿下の奇妙な動きと呻きをずっと見てきたので、慣れてしまったのだ。それに、その変な動きも恐らくは持病とかなのだろうけど、すぐに立ち直っているし。周囲も冷たいか、生暖かい眼差しを送るのみで特に心配している様子はないので、私もスルーすることにしたのだ。
そんな私を見て殿下は無表情ながら、落ち込んだ空気を醸し出す。器用な男だ。
「ほら、先日クロが面接で採用した奴らがいるだろう? その中で一部は騎士団で見習いから始めてるのだが、様子を見に行こうと思ってな。そのついでに散歩でも一緒に……と、思ったのだが……行かないか?」
なんと、殿下自ら部下たちの様子を見に行くのか! 私は残念な変態筋肉しかほぼ、見てなかったので少し、見直した。見た目は相変わらず恐いけれど、こういうところで、分かる人はこの人を信頼しているのかな?
まぁ、そこは面倒見が良いんだなーって、見直すけど。
なぜに私を誘うときの言葉に、乙女が出るのかしら?
殿下は初めから本当に、部下の様子を見に行くことを予定に入れていたのだろう。しかし、私の散歩のくだりになると下を向いて段々と声も弱々しくなった。で、チラチラと私を見ながら誘ってきた。
乙女か!
そんな事はマーラさんがやると可愛くてキュンキュン来るけど、筋肉マッチョな貴方様がやると思わず、冷たい目で見てしまう。
そんな、キャラじゃないでしょ!
結局、私は行くことになった。強制的に脇に筋肉によって固定されたのだ。……筋肉、やだ。でも、本当に毎回思うが、逞しいなとは感じる。やはり、この国を守る者なんだなって。
だからって、特に何も無いけどね!
そんな、落ち着かない筋肉に挟まれながら騎士団にやって来た。それを見た瞬間、おぉ、暑苦しいと、思った。
朝から(ウサギにとっては十時も朝です。おねむです)こんな、砂埃を纏わせながら汗水たらして訓練する姿によく、やるなーと呑気に眺めた。
騎士の方は、剣の手合わせを二人一組になって行っていた。見てるこっちがはらはらして耳も自然とぴくぴく動いてしまう。
な、なんか恐いわー。あんな訓練用の剣だと言っても、当たれば痛し、怪我もする。
鎧をまとっているとはいえ、痛そうだ。そう、なんとなく自分で妄想して勝手に縮こまっていると、誰か一人の者が殿下に気付いた。
「黒い、ウサギ?」
と、長い耳が小さい誰かの呟きを拾った。どんな反応で来るかと声がしたほうへ首を伸ばしてみれば……。
え、すんごくキラッキラした目で見てくるんだが。なんだあの人は。て、あの人だけじゃない?!
気付けば、全員が私を見ていた。釘付けだ。段々と場の雰囲気が緊張感が漂う。そして
ザッッ!
全員がその場で跪き、頭を垂れ、剣を立て、騎士の礼をしていた。
え、何これ?どういうこと? ……て、あぁ、殿下がいるからか。これ、毎回やってるのかな?大変だなー。
「「黒き癒しの聖獣、クロ様! 歓迎致しますっっ!」」
は? その呼び名は……私ですか? え? だからって、なぜに? こんなに歓迎されているの?
疑問で脳内が埋め尽くされ、くらくらしてきたとき、殿下が口を開いた。
「お前等、クロが怯えてるじゃねーか。恐がらせてんじゃねーよ。あ?」
とてもドスのきいた低音で威圧しまくりました。絶対に騎士の方々は、貴方が一番恐いわ、と、ツッコんでいることでしょう。
そして、殿下は何を思ったのか私を地面へ降ろした。ひぇっ! また、視線が変わっただけで未知の世界!
とりあえず、私はすぐさま後ろにいた殿下の足の間へ身を落ち着かせる。で、その場で鼻をふがふがさせながら、辺りを見渡した。そして、ゆっーくり、前足をそろーりと出して進んで見るも、なんか恐いし、落ち着かないので、すぐに殿下の足元へ移動。で、また、キョロキョロ辺りを見渡してみた。
ひ、ひぇええぇ……何で降ろしたのよ、殿かぁ。こ、恐いじゃないのぉ!
そこで、皆がとてもなんか、それぞれが蠢いていた。殿下も顔を片手で覆い、なんか鼻息が荒い。うむ、持病が出たのか。お疲れさん。
そんなカオスな場に豪快に笑いながらとある人物が近付いてきた。
「はっ、はっ、はっ! 凄いな。黒き癒やしの聖獣様は。さまさまだな!」
「団長、邪魔してるぞ」
殿下がいつの間にか立ち直っていた。うん、大丈夫そうだ。
団長、と呼ばれた人はやはり大きな人だった。殿下とそう変わらない身長に、白髪交じりの金髪を短めに切っており、人懐っこそうなグレーの瞳を友好的な眼差しで私を見て声を掛けてきた。
そして、会って早々にいきなりカミングアウトしてきた。
「お? お主、魔力持ちか? 」
……は?
もう、今日は何なんですか? 私をドッキリさせたい日ですか? まりょくもち? 魔力、持ち? え、私が?
「……団長、それはどういうことだ?」
本当に、どういうことですか?!
こうして、私は団長に付いて行き、話を殿下と聞くことになった。
私が、魔力持ちってどういうことですか?