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いつの間にか噂されてる……だと?

「……では、次の方どうぞ」


 そう、アルさんが声を掛けると扉の向こうから「失礼します」と言い、面接者が入ってきた。……これで、何人目やら。

 私は溜め息したくなる思いだったが、ぐっとこらえて相手を観察する。

 あの濃い食事をしてから翌日。最近、新しく入った人達をもう一度、私を通して確認された。その中で数人、私が足をダンッ! と叩く人物をアルさんが調べていくともう、黒い。

 叩けばほこりが出るとは、まさにこのことという真っ黒な人物たちだった。主に殿下の身分に惚れて来る人たちだったとのこと。

 自分の娘を王妃に立てようだとか、王族とつながりを得て金巡りを良くしようだとかそんな考えの人たち。


 そんな、人間たちには早急に悪事を暴き出した。そしてお暇を出し、城から追い出したとのこと。そして、私の目は確かだと確信が持てたことにより、今に至る。


 それにしても、ほとんど碌な者がいない。


 ドロドロな欲望にまみれた者たちばかりだった。そんな中で得る人材は本当に貴重な人間たちであると、実感した。


 今、第一面接が通過したのは五十人中、七名。のち、女性が四名、男性が三名である。


 本日、午前の面接はこれにて終了となる。午後からは早速、誰がどこに所属するか、相談する時間となる。これには私は参加せず、午後の面接に引き続き立ち会うことになっている。


 ウサギも立派に仕事に勤め始め、ここのところ、充実な日々を過ごしている。知らぬところでどうやら私は殿下に信頼されているようで、私としても誇らしい思いである。


 うむ、今日も城のため、国民のため頑張ります。


 因みに、誰がどこに所属するか相談するのを担当しているのは宰相である。これから殿下と私と宰相で食事がてら、顔合わせをすることになっている。

 どんな人物だろうか……あの無表情で鋭い目が通常の殿下のサポートの方と考えると少し、恐いです。ウサギは臆病な生き物なのです。はわわ、毛が逆立つ-。


「クロ様、そんなに怯えずとも宰相様は恐い方ではありませんよ。とても穏やかな人物ですので」


 現在、マーラさんに抱っこされながら顔合わせの場へ向かっているところです。マーラさんは私が落ち着かない様子からそう、告げてくださいました。


 お、穏やか? それなら大丈夫かな? で、でも! 殿下みたいに見た目が恐かったら、マーラさんの柔らかな胸に全力で顔を埋めることになるでしょう。

 そう、実はマーラさんの胸、とっーーても居心地が良いのです。見た目は分からないのですが、私の体を良い感じの弾力と柔らかさが包み込んでくれるのです!


 ……これでは私が変態みたいですが、決してそんなことはないのです。えぇ。どの動物だって居心地が良いところはずっといたくなるものです。そんな、考えであって決して変態的なことではないのです。えぇ。


 だから、アルさん。そんな目で見ないでください。「こいつ、良い趣味してんな」目で見ないで!


「…クロ様は雄でしょうか? 雄でしたら、私が変わりますが」


 だぁあぁあ! もう、ちっっっがう! れっきとした女の子です-! 乙女です-! 柔らかな胸の虜になっている女の子です-!


 アルさんに、そう、強く目で訴えていると頭上で、それは違うでしょう、と否定してくれるお言葉が聞こえた。


「この子は女の子ですよ。ウサギの雄雌の区別は確かに難しいですが、私の実家で昔、ウサギを飼っていた時期がありました。なので、雄雌の判断はできます」

「そうですか、殿下の勝手の妄想かと思いましたが女の子なのですね。……そうなると、見た目だけで性別が判断できる殿下が変態ということでしょうか? 」


 筋肉殿下ではなく、変態筋肉でしょうか?


 そう、呟くアルさん。

 え、そこ消しちゃう? 殿下のところ、消しちゃうの? そんなので良いの? この国のトップの呼び名が。

 私は城のため、国民のために面接の場にいるのに、なんだか将来が不安になりました。



 そんなこんなで、到着しました。戦の場。

 いや、違うか。もう、現実逃避したくてしょうがないです。はい。もう、ここはただのウサギなので会わなくても別に良いんじゃないの? ねぇ、会わないといけない?

 ……そうですか、また身長が高くて、筋肉もりもりだったら逃げようかな? 筋肉恐怖症になりそうです。筋肉、恐い。


 そんな、脳内で相変わらず馬鹿な現実逃避をしているとはつゆ知らず、アルさんは扉を叩き中へ入るよう私たちを、促してくる。


 ひ、ひぃいいぃ! もう、目! 目をつぶるしかないわ!


 そんな、悪足搔きをする私に殿下が近付いてきた。もう、足音で誰がどの人か分かるのです。この戦闘慣れした、素早い身のこなしをしてる感じの足音(?)は殿下だ!


「寝てるのか? おい、食事だ」


 案の定、殿下でした。先程、アルさんに悪口言われてた殿下でした。変態筋肉さん。

 そう、悪態ついていたのがいけなかったのでしょうか。急に強めの浮遊感を受けました。


ひっ?!


 思わず、目を開きました。すると、少し、顔が下にある殿下の顔が見えました。おぉ、見上げられてるー。新鮮-。成る程、先程の浮遊感は殿下が勢い良く持ち上げたせいのようでした。


「ん、目、覚ましたな。食事の時間だ」


 いや、目、覚ましたな。じゃないわよ。現実逃避してたのよ。普段は、なんだかんだ察しがいいのに、なんでこんな時だけ外すかな?!

 そんなクレームを殿下に念話で伝えつつ(一方的)、食事する席へと殿下の脇に挟まれて、運ばれた。


「おや、おや。これは、珍しいものを見させて頂きました」


 私が食事する席……床に置かれる前に、聞き慣れぬ声が聞こえた。


「初めまして、噂の黒き聖獣殿、クロ様。私はこの国の宰相を務める、エリクジョン・ラザードと申します。このような可愛らしいかたが城の人材を採用しているとは恐れ多いことでもあり、有り難く感じております」


 その人は若木色のロングヘアーでした。瞳も髪の色とバランス良く見栄えする茶色であり、若干、目元がおっとりとした感じだ。そのため、雰囲気がとても柔らかく感じた。その目には眼鏡をかけており、大人な感じが醸し出されていた。

 お、おぉおおぉ! 本当だ! 穏やかな人だ! 私、この人なら安心だわ! こーんな素敵な人に噂が知れてるの?! なんだか、恥ずかしい-! きゃー!


 て、……え? でも待って。さっき、なんか噂の? 黒き聖獣とか? 聞こえたけど? 宰相様から。え、何それ?


 どうゆうこと?!


 とりあえず、立ち話もなんだからと食事を勧めながら話をした。私は宰相様と殿下の間の床で、食事を進めている。

 ふむ、レタスが新鮮で美味しいですこと。シャキシャキと辺りに響いてますわ。


「ふふっ、流石癒やしの聖獣様ですね。お食事されている姿までも何とも可愛らしい」

「……その、先程から言っている噂だとか、癒やしの聖獣様とはなんだ? 確かに、クロはとてつもなく癒やされるし、何してもこちらの心を鷲摑みする優秀なウサギだが」


 殿下、べた惚れ過ぎでしょ。な、なんかこっちが恥ずかしいわ。何しても癒やされるって……その顔で?


「城の皆が騒いでおりましたよ。最近、殿下の雰囲気が柔らかくなったと」

「そうか? 」

「えぇ、その原因が拾ってきてからずっといる、黒いウサギだ、とね。いつもの、ピリピリした雰囲気は弱くなり、顔から険しさが和らいだと。さらにまた、肩に乗せているウサギが殿下の雰囲気を優しくしていると。……なので、下の者はクロ様のことを“黒き癒やしの聖獣”と崇めているそうですよ」

「なるほど、俺のことはさっぱり分からないが、クロは流石だな」


 そう言って、殿下は食事の終わった私を膝に乗せ頭を撫でる。

うぅ、気持ちいい。思わず顎が鳴ってしまう……。

 あ、私達、ウサギは気持ちいいと顎を噛む動きをさせて、ゴリゴリ音が鳴るの。もう、無意識だから止めることは出来ないのよねー。

 殿下の手は大きくて剣ダコがあるけど、優しく包み込むよう撫でてくれるから、すごく気持ちいいの!


「くっ! こんなに丸くてふわふわしてて無防備とか……俺を試しているのか?!」

「ははっ、本当に変わりましたねぇ。まぁ、こちらが素だと知っておりますがね。変わったというより、戻ったが正しいかな?」


 変わった? 元に戻った? はて、どういう意味だ? 私が殿下と会ってから変わったことなんて何もないように感じるが……。

 そう、思い首を傾げる。


「おや、まるで私たちの言葉を理解しているようですね。どういう意味だ、と問い掛けているように見える」

「俺もまだ、そこは拾ってから、一週間もたってないからな。判断が出来ていない」

「そうなのですか。しかし、今回の面接では人選に関してはクロ様が行っているのでしょう? ……もしかしたら、理解しているのかもしれませんよ? 我々の言葉も」


 ぅ、おぅ……この宰相様。流石、国の財政を担っているだけあって鋭いなぁ。今の言葉のところで宰相の顔が浮かんだ。しかし、それは一瞬のこと。すぐに柔らかな雰囲気に戻った。


 この人、ぜっーーーーたい! 腹黒いわ。

 野生の勘がそう告げている。それを感知した私は少し、身震いした。


 結局、殿下の変化とやらの話は詳しく聞くことはできなかった。

 くぅー、ウサギだからな。言葉が通じないって本当に不便だな-。そう、思う場面がいくつも感じられた。

 私は無意識にこの数日で殿下を含め、この人達のことを好きになったようだ。話したい、聞きたいことがたくさん頭に浮かぶ。しかし、それだけ。簡単な催促や思いは通じてもやはり限界はある。


 私も……人だったらな。

 少し、そう思い始めてきている。ウサギである不便さに少し、憂鬱を感じつつも与えられた仕事をこなし、結果、城の人材を補充することが出来た。こうして、城は徐々に落ち着きを取り戻し始めた。一部のこと以外では。


 一部とは私のこと。やはり皆様、私を見かけると、初めは黒いことに魔物をイメージしてしまい怯えていたが、所詮は小さきウサギ。すぐに馬鹿らしくなって、見てみれば普通のウサギと変わらない行動。


 寧ろ、何しても可愛くて、ほっこりと癒やされる者が続出した。

 特に、騎士の方々は、殿下こと上司が今までピリッピリの雰囲気に誰もが怖じ気づき、直々に稽古の相手をされれば、たまったもんじゃない! と、いった日々だった。しかし、黒ウサギにより、それがかなり緩和され、無表情だが、今までのような鬼訓練はしなくなったとのこと。


 また、今回新しく就任した者達も黒ウサギに人選され頂いたことをとても喜んでいた。

 午前の面接で突破した人達は、午後の宰相との所属相談の前に部屋に入室して『君達は我が国の信頼が厚い、黒き癒やしの聖獣様により、ここにいる。その事を忘れぬように』と言われたそうだ。

 なので、騎士の方々を始め、就任した方々もいずれ、その黒き癒やしの聖獣様に礼をしたい、と感謝の旨を伝えたいと思っていた。


 だが、私はそのことは全く知らない。知らぬは本人ばかり。黒ウサギさんは多くの方に尊敬され、崇拝されていた。

 今、城内では可愛くて素晴らしい黒ウサギさんに皆、夢中なのでした。


「はぅ! 黒き癒しの聖獣、クロ様よ!」

「今日も本当に可愛らしいわ~♡」

「この、人参をあげても良いかな……?」

「く、クロ様のモグモグが見られる?!」

「うぉおおぉ! 日向ぼっこされてるクロ様、癒やされる!」

「……俺、今日も訓練、頑張ろう」


 そんな、騒がしいことに対し、相変わらずの鈍感天然を私は発揮しております。んー、最近ヤケに視線とか鼻息が荒いとか、顔が赤い人たちに会うんだよなー。

 風邪でも流行ってるのかしら?

 

 呑気な鈍感天然ウサギは今日も陰から皆様に見守られております。

鈍感天然ウサギ、発揮中。

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