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ウサギ、悪事を暴く

 気付いたら、寝ていました。目が覚めればほの暗い明るさで、何度かうたた寝をしていた。

 で、やっとさっき、その良い感じのフィット感で身を包んでくれた場所から離れて、辺りを見渡した。


 ……どうやら、誰もいないようだ。

 長い耳を立てて野生らしく、気を張り巡らせてみたが静かだった。はて、殿下たちは先に執務室に戻った様子だ。まだ、日が沈みかけている頃なので人間は活発に動いているだろう。


 さて、今は一人ぼっちで殿下の私室にいる。何か出来るチャンスだ。好きなことするぞー、何かないかなーと、首を巡らすが……思いつかぬ。


 それにあんまり一人でいると、先程の仲間たちのことを考えてしまう。そのことに私は再び寂しさと恐怖で、か細くキーキーと鳴いてしまう。


 うぅ、だ、誰か来ないかな。こんなまだ来て時間が経ってない、慣れていない場所にいると余計に……。


 と、勢いよく執務室の方でバタンッ! とドアが開く音がし、僅かな足音が近付いて来る音がする。そして、私が居る殿下の私室の扉が、これまた勢い良く開けられた。


「……無事か?」


 果たして、そこに姿を現したのはこの部屋の主、殿下だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「どうした? まだ、怒ってるのか?」


 私を抱きーーではなく、首根っこを摑み上げ、僅かに首を傾げて尋ねてくる。……この人、私をウサギじゃなくて猫と勘違いでもしているのかしら?


「一人でいて寂しく感じてしまったのかしら?ほら、ウサギは寂しいと死ぬと聞きますし」

「! それは、大変な危機だった。すまない、そんな殺すようなまねをして……」


 いやいや、マーラさん、確かに仲間のことを思って、寂しくて落ち込んでいたけれど、死のうとか死ぬことなんてないから。そんなにか弱くないから。野生としても生きていけないから、それ。


 だがしかし、所詮はウサギ。何も通じず、殿下たちに勘違いされてしまった。


「これから、ちょうど食事の時間になりますし、クロ様も殿下と一緒に召し上がりましょう」

「モグモグをそばで見られる……だと!」

「はーい、良かったですねー殿下。クロ様、すみませんが暫くはこの残念な筋肉殿下とお付き合いお願いします」


 残念な筋肉殿下……。


 と、確かに凄い筋肉だが……それ、本人の前で言って大丈夫なの?あ、殿下、スルーしている。否、聞こえていないのか。この無表情なのに、どこか殿下の周りがウキウキしているように感じるし。完全に自分の世界に入っているのかな?


 そんな、こんなで残念な筋肉殿下と共に私たちは食堂へ向かった。食堂と言っても王室の食堂なので、長ーいテーブルにフルコースで運ばれるようだ。まさか、ウサギの私にまでフルコースはないだろうけどれね。


 ……そのまさかでしたよ。えぇ。フルコースでした。


 前菜、と言っても全て野菜だけれど。メインがあの人参さんでした。マーラさんが気を遣ってくださったようで、料理長に進言したんだと。で、デザートがその人参さんを使ったバラの形にされたものでした。花びら一枚一枚、器用に薄ーく切って飾り付けてありました。芸術作品でした。しかも、そのバラの形の人参はマーラさんが作ったんだと。マーラさん……ウサギの気持ちまで分かるんですか? そして、芸術作品も作れちゃうのですか? 万能すぎです。


 因みに私は、殿下の足下でお行儀良く食べておりましたところ、殿下の視線を痛いほど感じ、途中途中、口の中に人参さんを入れつつも固まってしまいました。た、食べづらっ!


 その度に、傍に控えるアルさんが、


「クロ様が集中できないようなので別室に移動させましょうか」


と、言うと殿下も食事を再開させました。……殿下、子どもか。

さらに殿下の食事の量は凄かった。メイン、いくつあるんじゃぁあ!と叫びたいくらいにはありました。主に肉。もう、長ぁーいテーブルに肉、肉、肉。ぜーんぶ肉!って感じでした。草食であり、小食の私には見ただけでお腹がいっぱいな思いでした。……まさか、その中にウサギの肉はないよね?あったら、私も危機よ。


 でも、その食事はちゃんと運動したから食べているものであるようだ。その筋肉はただの筋肉ではないのですね。まぁ、脂肪など見えないですからね。

 何でも、私が寝ている間に剣の訓練をしていたとのこと。本日は部下の方々を直々に相手したとか。一体何人いるのかな?


 その後、フルコースを満喫して、食後のお茶(私にはミルク)をマーラさんではなく、別のメイドさんからいただきました。


しかし……。


 そのメイドさん、明らかに私を汚しい感じで見ている様子。獣だからですか? ミルク置いたときなんか舌打ちしてたいもんね。

それだけなら私も、知らんぷりしてミルクを飲まずに座って待っていただけで済んだだろう。


 だが、その後、隣の部屋に行った後聞こえてしまったのだ。ほら、ウサギだから耳がすんごくいいから。


「なんであんな獣をもてなさなくてはいけないのかしら? あんな獣に何ができるっていうのよ。しかも黒よ! 汚らしい! 私の方が殿下のご機嫌とることだって出来るのに」

「いやでも、あんな目が鋭いお方恐いし、野蛮らしいじゃない。何で弟のクリストファー様は色白なのに、兄のほうは肌が黒いのかしら? はぁーあ、兄より、弟様の方に仕えたかったわ」

「でも、こっちのほうが身分が高いし、給料が高いから良いじゃない? ごまをすっとけば良いのよ。そして、王妃は無理でしょうけど、殿下の愛人になれれば、ドレスや宝石がたくさん買えるのよ」


 素敵じゃない!


 三人分の嫌な声が聞こえた。私のことは本当に自分でもこんな好待遇で良いの、って疑問に感じているからいいけど……。


 殿下をそんな風に貶す発言に腹が立った。


 弟さんがどんな人か知らないけれど、色が黒いから汚らしい? 野蛮そう? でも、ごますっとけば良い? 給料が良い? 何それ……誰も、何も中身を見ていないの? 殿下の良さは身分だけだって?


 私だって会ったばかりだから人のことは言えないけれど。外しか見ない。しかも身分が良いから素敵って……。


 本当に最低な人間たち。そういう人は知ってる。そう、私は知っている。世間体ばかり気にして、周りには変なプライドを見せびらかして、とっても醜い人間を。


 だから、お返しと思いっきり体を後ろへひねり、先程のメイドが置いていったミルクの皿を勢い良く蹴り上げた。


 そして、宙を舞った皿は中身を床にこぼし、ガッシャーンと皿も打ち所が悪かったのか割れた。思ったよりも、想いを込めすぎたようだ。

 だが、その行動に後悔はない。そんな、私の様子に殿下は驚き、私を抱き上げた。


「クロ?!」


 怒られるかと思ったが、それよりも心配されている表情だった。


「どうしたのでしょう? マーラが与えていたときはこんな不機嫌なことはなかったのですが……」


 アルさんも怒ってる様子ではない。それに殿下は、アルさんの呟きを聞いて、何か勘付いたようだ。


「そうか、先程クロにミルクを与えたメイドを呼べ」


(ひっ?!)


 隣で先程の私にミルクを出したメイドが、小さく悲鳴を上げた。殿下のどす黒い殺気を感知したのだろう。アルさんにより、そのメイドは私と殿下の前に立った。


 そして、殿下は私を床に下ろし、聞いてきた。このメイドをどう思う? と。


 私はそれに対し、そのメイドに背を向け、思いっきり足を強くダンッ! と、叩いた。すると、テーブルにある皿のガチャンという音が聞こえた。


 おぉ、力を入れすぎたかな? 割れていたらごめん。


「なるほど。……こんなに感情をあらわにしたクロは初めてだ。マーラがミルクを出したときはこんなことしなかった。しかし、お前が出した物はひっくり返した。どうしてだと思う?」

「……獣の気まぐれではないでしょうか?」

「俺はまだ、クロと過ごして少ししか経ってないが他のペットと長く過ごしているおかげで、それなりにペットの言うことは分かる。それにな……」


 そこで言葉を切り一瞬こちらを見た殿下。私はそれに首を傾げて次の言葉を待つ。


「こいつは理性があるウサギだ。分かるか? このウサギは俺達の言葉は口に出来ないが、言っている言葉を理解できるのだ」


……! なんと! 殿下は私の秘密(別に秘密にしてない)を見破った。伊達にペットを育てているだけではなかったのですね。


「お前にはなにやら、裏があると言うことだろう。クロはそれを感知したと見える。現にクロはミルクを一滴も飲んでいないだろう? ……何を仕組んだ? 」

「し、仕組んだなんて滅相もございません! 私はただ、指示に従ってミルクをお運びしただけでございます!」

「クロは食べ物を粗末にせん」

「……気まぐれでしょう」


と、そんなメイドと殿下の攻防を見つめていると、いつの間にか部屋を出たマーラさんが殿下に声を掛け、なんか、ワイングラスに入った透明の液体を渡していた。


「これを見てもお前はしらを切ることが出来るか? これはミルクに毒が混入しているかどうか、分かる物だ。この水が黒になれば毒が混入したことになる。透明のままならその逆だ」


 ほう、そんな物が人間界にはあるのか。便利やなーと、のほほんと見上げながら思った。

 が、メイドは違ったらしい。顔色がさらに悪くなり顔から血の気がひいていた。そして、彼女が有無を言う前にワイングラスにミルクを入れてー……。


黒に染まった。


「さぁ、色が黒になった。何か言うことはあるか?」

「ち、ちがっ……わた、私ではないのです……。し、信じて、くださ」


 ガッタガタに震え立っていられなくなったのか、膝を床に付け殿下を上目遣い+涙目で見上げながら告げるメイド。しかし、殿下の指示により近くに控えていた騎士、二人が彼女を両脇から抱え、そのまま部屋を後にした。


 こうして、こんなことになると思いもしなかった濃い、食事は解散となった。


 その後、殿下の私室に、私は殿下に抱っこされて戻った。そして、椅子に座り私を脇から持ち上げきいてきた。


「お前、もしや本当に俺が言ったこと分かるか?」


 ……えぇえぇええ?! 知っててさっき、そう言ったんじゃなかったの-?!


 まさかのはったりでした。驚きを隠せず目を見開き、開いた間抜けな口も閉じることができません。殿下! まさかすぎでしょ!


「そうだな……少し、確認する必要があるか。それよりもお前に、確認したいことがある」


 ん? なんだい? と、私は首を傾げて待つ。

 その姿に殿下は私を抱きしめてきた。息も荒い。どうした、持病でもお持ちですか? そんな、状態のまま声を掛けてきた。


「お前、人の善悪が見抜けるか?」


 え? それは、私の判断ですが……完璧に見抜けるかは知らない。なのでさらに首を傾げておく。おぉ、首が痛いぃ……。


「…っ本当に! お前は俺をどうしたいんだ!」


 えぇ~、苦情ですか? ウサギに言っても困ります~。

 そんな質問された翌日、私はまさかの王宮の面接に立ち会うことになった。

 あれ? なぜ、こんなことに?

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