殿下side クロについて
今回は殿下側の語りになります
あれから数時間後……。
「なぁ、アル。クロの反応が鈍くないか?」
俺はこの国の長を務める、ヴィリンジ・ランスラー。そんな俺の周囲で新しいのが加わった。
黒いウサギだ。
ウサギはどこにでもいる。色は様々で白や茶色、稀に白と黒が混ざったように、二色の混じった模様を持つものもいる。
しかし、黒はどの生き物にもいない。
黒は魔物しか持たぬ色だった。なので、黒は我が国では魔物の色との位置づけてあるため、自然と避けている節がある。
最初、この変わりものを見付けたときも、魔物かと思った。
しかし、それにしては動きが鈍く、殺気も感じられない。普通のウサギのようだ。
俺は珍しい色だと思い目を細めて見つめた。しかし、こうも俺の姿を見て固まっているのは、野生として本能が鈍っているのか……。
否、それよりもだ。こんな俺を前にして小動物が固まっているのだ。
この機会は二度もそう、簡単にはないだろう。
触りたい……。
そして、やっとそこで野生の本能として逃げようとウサギが背を向けたところで、後ろから「待て」と呼びかけ、そっとすくって首根っこ摑みあげ、その初めての小動物を眺める。
「小さいな。片手で握り潰してしまいそうだ」
それくらい、とても、その生き物は小さかった。
それから、城へ転移魔法を使ってすぐに戻った。まぁ、この黒いのを連れてくるのに、ペットの一部を逃がす条件を俺の片腕のアルより出された。
本当にあいつは鬼畜だと思う。俺よりも断然、質が悪い奴だと思う。……後ろから殺気を感じたが知らん顔してやった。
確かにこの城はつい先日まで、貴族や大臣で火遊びが盛んな奴を一掃した為、人手不足だ。募集は掛けているが、なかなか、面接するにも他にもやることはある為、あまり時間は掛けられない。
その為、なかなかはかどらない。激務な日々が続いている。まぁ、体力には問題ないが。元々、書類仕事より、体を動かす方が性に合っている為、色々慣れず辛い。
そんな中に癒やしを連れてきた。
……本当にあやつは可愛すぎる。どこがとかじゃない。全てが可愛い。
こんな俺が可愛いと口をすべらせれば周囲がドン引きし、医者を呼びつける羽目になると予想はついているので、口に出しては決して言わないが。
食べれば小さな口でモグモグ食べて、満足そうに目を細めている。また、上品に手を添えて、小さい体をさらに丸めて座っている姿がまた可愛くて、悶えたい衝動に駆られる。
このウサギは俺の忍耐力までも鍛えてくれる優れた奴だ。素晴らしい。そして可愛い。
そんな、クロ……(単純に黒いウサギを省略した)を俺は先程怒らせてしまった。まぁ、怒った姿も可愛すぎて、何度も土下座しつつチラチラ見てしまったが。犬が恐かったようだ。
よく考えればクロは小さい。それに対しこの犬たちはなかなかに大きい。まぁ、オオカミだからだろうが。俺にとっては犬も同然だ。力比べで、こいつらは山から連れてきて調教してやった。だから、俺に逆らうことは絶対ない。
しかし、それでも珍しく可愛いものがいれば分かっていても興奮は抑えられないのだろう。彼等は欲望に忠実な生き物だからな。好奇心が刺激されれば満たされるまで、追いかけてくる。
途中で、奴等がクロを虐めて怯えさせたのかと勘違いして殺気を少し放ってしまった。犬はその場で身を縮め伏せをして大人しくなったが、逆にクロは逃げようと暴れ、部屋中を器用に走り回った。
で、最終的に衣装タンスの陰へ身を潜め落ち着いたが……。
もっふもふなお尻が丸見えという可愛い姿をさらしていた。
可愛すぎるっっ!
しかも、後ろ足で床をダンダン強く叩くことを始め分からずにいたが、アルから、「あーこれは、かなり怒ってますねー」と、俺の癒やしが居なくなる危機を感じ、最上級の謝罪をした。
で、ついでにその癒やしのお尻もチラチラ拝見した。
凄く……触りたい。
あの毛に埋もれたい。もふもふしたいっ! という衝動に耐えながら、懸命に謝罪を続けた。
暫くはダンダンと床を叩いていた音がしなくなった。いくら待てど音は響かない。
不安に思い前を向くもクロはそこにいた。もしや、窒息でもしてしまっているのではと焦り、冒頭のセリフが出る。
と、アルが動くその前にマーラが静かにクロに近付き様子を窺うとーー……。
「あらあら、おねむだったのね」
すぴーすぴーと小さい寝息を立て、気持ち良さそうに寝ているだけだということだった。お前はどこまで俺を悶えさせるんだ! 可愛すぎるじゃないかっっ!
こんなに可愛いのなら、きっと誘拐とかもされてしまうに違いない。余所の男に連れて行かれる前になんとか警備を増やしていかなくては! と、俺は新たな課題を胸に、今後の面接について再度、条件を見直そうと仕事に励むことにした。
あんなに苦だと感じていた仕事を、こんなにやる気にさせるなんて……。あいつは本当に優れた奴だ、と、そして拾ったことに悔いが残るようなことがなかったことに、久々に心が晴れた気持ちになった。
そして、目が覚めた暁には、是非! マーラがやっていた手ずからご飯を与えて、モグモグを堪能したい!
そして、クロのおかげで一月分の仕事がその日のうちに終わった。
もふもふの下心が満載な殿下でした