床ダンッ!
あれから私は、過激な芸当を繰り広げる男性を見守る中、考えていた。
そう、いつまでも馬鹿げた現実逃避は止めて先程のー……。
一夜にして私以外の生き物がいなくなり、森が無惨な姿になってしまったことについて考えてみた。しかし、ウサギの私にはあまり知識を得られる環境ではなかった為、考えるにしても限られていた。
一番無難が魔法。その次が大型の魔物と呼ばれる魔力を持つ獣の暴走。後は自然による災害関係かと思われる。
だが、どうしてあんなことが起こったか考えは浮かばない。この件については、何かしら知っている様子の……目の前の方々から情報を何とか得たいと思う。そう、男性こと殿下か執事のアルさん、もしかしたらマーラさんも何か知っているのかもしれない。
本当は仲間達がどうなったかとか、とても知りたいけれど、まだ心が落ち着かないし、覚悟もできていない。だから、ゆっくりと向き合いながら受け止めていこうと思う。
今は……あの薄茶の子たちやその家族たちの生存を考えると、立っていられないくらい恐怖や不安、悲しみで自分を保てそうにない。
私の今後についてのあり方を考えることにした。あの森では平和で何も知らなくても、のほほんと生きていけたが、今後はそれでは厳しいだろう。
なので、無知とは無力とイコールなので、知識を身に付けたい。で、いざっというときに利用できる物があれば利用していきたい。
自分の今後の平和、安寧を目指すなら頑張ろうと思う。
ビバ、ウサギライフ!
目指せ! 平和なダラダラ生活!
あれ、違う? まぁ、ウサギだから細かいことは気にしないでくださいな。
そんな、結局辿る思考の先は変わらず情けないものだった。
と、長い耳から騒がしい動物の本能を刺激し緊張感を高まらせる音を感知した。
なんだか息が荒いし……最低でも五以上の数の物が近付いている音がした。段々と音が大きくなり、そしてーー……。
「わんっ!」
「おや、いつもは殿下の私室にいるのに珍しい。わんこ達がやってきましたが、殿下どうしますか? 私室に一旦戻りますか?」
わ、わんこ?!
「あぁ、そうだな。面倒だがあいつらのためだ。少し餌を与えてくるとしよう」
ほっ……。
どうやら、殿下一人だけで私室へ向かう様子だ。今のセリフなら。ふー、犬なんかにあったら大きさは知らないけど、下手したら食べられちゃうかもしれないし。連れて行くのはあかん。
良い判断だ、殿下。
「と、……クロ、行くぞ」
悪い判断だ、殿下!
ちょ、連れて行くのはあかんって! ねー! 聞いてる?! あかんよ! 食べられる! 美味しくいただかれちゃうー! あーかーんー!
「暴れるな。ちょっと部屋に移動するだけだ。悪いようにはせん」
悪いこと、起こっちゃう-!
と、お互いに一方通行なやりとりをしつつ、私は殿下に小脇へ抱かれ……いや、挟まれて身動きできずジタバタした。筋肉あかん!
先にアルさんが犬達を私室へ移動させたらしく、扉の先にはいなかった。私室ってどこかなーと思ったら、思ったより近いところにあった。……まぁ、近いといっても先程の部屋……恐らく執務室の隣なのだけどね。殿下の私室って。執務室がそれなりに広いから、まぁまぁ、歩くけど、一階二階とか階段を上る距離ではなかった。
つまり何が言いたいかって……。
ガチャ
「クロ、紹介する私のペットの犬だ」
心の準備が全くできていないのよ-!
そういえば殿下が、私をここに連れてくる前にアルさんから、犬は十匹いるって聞いたのを廊下を歩いている途中で思い出し、余計に冷や汗が出る思いで固まってしまった。
…ウサギだから汗はかかないけれどね。
だから、ウサギはいつでも臭くないのです。
でも、嗅覚に鋭い犬にはそんなの関係ない。僅かな匂いでも、殿下のいつもと違う物が混じっていると気付いたのだろう。
殿下が私を肩へ移動させたから、まぁ、無事っちゃあ、無事だが……。犬が殿下を囲み、果ては私へめがけてよじ登ろうとしかけていたり、ジャンプしていたり、吠えてきたり……。
殿下の周りがとても騒がしいものになった。
ひいぃいぃぃい! 今! 尻尾に爪がかすったよおぉおおぉ!
てか、てか、殿下達が犬だと言うので、犬だと思い込んで会ってみたが、犬よりでかいよ。この灰色のもふもふさん達。あかん。牙が鋭いよ。きっと、私を狙っているわ。えぇ、これは貴方達にとって犬も同然なレベルなのかもしれないけれど、私達、小動物にとっては大きな差がありますわ。えぇ。
だって、これ。
オオカミじゃんかぁああぁぁあ!
「ふむ、どうやら歓迎されているようだな。良い感じだ。……お前たち、クロはこれからお前たちと同じペットの一員だ。だから、いじめるなよ」
「殿下-」
「どうしたアル?」
「クロ様、怯えきってますよ-。すんごい震えてますよー」
「!……お前達、早速いじめたな? 覚悟は出来てんだろうなぁ? 」
「むしろ、殿下がいじめているようにしか感じられないのは私だけでしょうか……?」
アルさーん! 私もそれに同意よ!
果たしてーー……。
オオカミもとい、犬達は殿下の威圧により静かになった。そして、彼らも別に黒ウサギをいじめようだの、食べようとは微塵も思っていなかった。
ただ、好奇心が抑えられないのに、主(殿下)が高い場所へと気になる者を置いているので、そのじれったさに余計に興奮し、あんな殿下の周囲を騒がしくしてしまったのだ。
やはり、主(殿下)のせいである。
私はそんなこととは考える余裕もなく、結局オオカミに怯え、更には、殿下のオオカミたちに対しての怒りに触れて怯えきってしまい、部屋の中を暴れた。
いっても俊敏さと器用さが重なった技を使ったことにより、物が壊れたとか、物を倒したとか、ぐちゃぐちゃにしたとかはない。そこは私自身もホッとした。
で、最終的に収まったところが……。
「キャー! クロ様、頭は隠れているけどお尻が……ふふっ! 見えておりますよ?」
「……」
「怯えさせてしまったことについては本当に申し訳ないと思っている。すまなかった。だから、その……暫くそこで落ち着いてくれて構わない」
ダンッ!
「っ! 本当に申し訳ない!」
タンスの間に頭をツッコみ、なんとか落ち着いたが、お尻が丸見えという情けない姿をさらしてしまっている。
まぁ、皆、その姿に癒やされているようだが、殿下は許すまじ。謝罪しつつも、この癒やされ姿を暫くして欲しいとか、そして見たいとか!
結局反省してないじゃんか! こちとら、本当に恐かったんだぞ?!
ダンッ!
「申し訳ない!」
だから、その怒りを後ろ足で強く床を叩くことで、怒りを表している。
それは伝わっているらしく、これをすると殿下は私の尻を見ながら、床に勢いよく額をこすりつけ、大きな図体を器用に縮こまらせて謝罪している。
そして、それを冷たく鋭い眼差しで見下ろす、アルさん。
さらに部屋の隅で殿下の威圧により、伏せをしてプルプル震えて待機しているオオカミたち。
なんて、カオスな図だろうか……。
でも、本当に命の危機だという思いだったので、暫くは床ダンッ! を止めるつもりはない。
もっと、私の(小動物)気持ち、考えてよね!
頭隠して尻隠さず