弟殿下side クロについて
今回、弟殿下君の語りです
僕の名前はクリストファー・ランスラー。この国の今は王の代理を務める兄上の弟に当たります。つまり、弟殿下というところです。現在、高等部の2年で、生徒会の副会長に所属しています。あ、歳は17歳です。兄上とは七つ離れていることになりますね。そんな兄上に、年に春、夏、冬の長期休みを利用し、顔を見せに城へ帰宅してます。
兄上は、素晴らしい方なんですよ!気弱な僕とは違い、色々な人を従えて、城や国を代理とはいえ、王の代わりに支え、国を守ってくれているのです!兄上はとても身長は大きいし、肌は日々日課となっている鍛錬を続けている証拠に焼け、幾つかかすり傷が刻まれています。そんな勇ましく、聡明な兄上を僕はとても尊敬しています。
だけど、その見た目が恐いと恐れ、おののく者が残念ながらいるのも事実。確かに威厳もあるし、身長が大きいから上から自然見下ろされる形になり、威圧感を感じると思うけど、それが王として相応しい姿だと僕は思っています。僕も本当は、そんな男の中の男らしい姿が羨ましくて、兄上のように毎日鍛錬を続けているが、僕の場合なかなか肌は焼けないし、筋肉も並の人よりは付いているけど、力強さは感じられない、非常に頼りない姿をしている。だからか、女性がよく僕に声を掛けてきます。
そして、立場だけの理由ではなく、性格の問題ではっきりと断れないから、気付けば囲まれているとか…。
でも、兄上はそんなつけ込まれる前にオーラというか威厳とか何とも言えない雰囲気を放っているため、誰も安易に彼には近付かないし、近付けない。
あぁ…何で僕には王の素質がないのだろう。
ある日、僕の中でそんな感情が生まれた。それと共に大好きな尊敬している兄上に、醜い感情を感じてしまった。そんな自分が信じられなくて、自分が嫌になった。だから、偶然とはいえ、兄上から離れるように僕は学園生活を過ごす事になり、感謝している。あのまま兄上の傍にいればどうなっていたか…。
しかし、学園に行っても兄上の面影はちらついていた。兄上は学生時代でも非常に優秀な成績で学園を卒業した。今でも、兄上の功績は学園の誇りとなっている。
同じ王族なのに、同じ親元から産まれたはずなのに…何もかもあべこべな僕達。
今でも劣等感が心に少しずつ積もり続けている。
そんな、複雑な感情を持ちながら久々に兄上と対面した。
重厚な扉を数回ノックし、中を伺う。
『入れ』
久々に聞いた、兄上の性格が存分に滲み出た重く低く自然と跪き、身をさし上げたくなる声が扉の先から聞こえた。一つ、生唾を飲み込み、扉を開いて一歩前に進んだ。
「…ご無沙汰しております。先程、学園から戻り参りました」
貴族の格式の礼儀を披露する。心臓がバクバクと感情と共鳴して騒ぎ出す。
「面を上げよ。向こうでは優秀な成績を収め続けていると聞く。これからも精進せよ」
!
「はっ!ありがたきお言葉。兄上の期待に添うよう、胸に留めておきます」
「して、夕食だが、疲れているなら今夜は部屋で取るか?久々に共に食事を…って、どうした?クロ。腹でも減ったか…っていったたたた?!」
久々の兄上の御尊顔を目にして、変わらずのお姿だと歓喜に似た感情と、兄上の耳にも僕の風評が流れているのかと少し、恐怖に似た感情を感じながら先程、返事したとおり今後も期待に添えるよう精進しようと胸に再度刻んだ。しかし、どうしたことだろう?あの兄上が急に声を上げた。…ん?何やら兄上の腕の中で暴れて…あ、落っこちた。
「あ、兄上…?」
それは何ですか?否、何がどうなっていますか、って所かな…?現状が上手く飲み込めず、兄上に問いかけるようにお声を掛けた。
と、その落っこちた物が目に映り込んだ。でも、それは…
「…兄上、それは?」
その、落っこちた物は真っ黒だった。反射的に魔物か、と身構えようとしたが、それは一瞬で兄上がそんな危険な物を自分の傍に置くわけ無いと考え直した。そう、兄上は以前、城の中の膿を追い出したのだ。自分の足を引っ張る存在は一切の情も無く、排除する。そんな残酷な面を持つ兄上が一つだけでも悪の物を傍に置くことを許すだろうか?
しかし、これはどう見ても魔物の色。これは、何だろうか?
訝しげにその物体を見ていると、黒いのが右に傾いた。否、首を傾げてるのか。だが、何故?
僕もその行動の意味が分からず、首を傾げる。今度は左に傾いた。僕も左に首を傾げる。別に真似しているわけではないが、その物の行動を知りたいがために自然と同じ行動を取ってしまう。
暫く、その物をそうやって観察していると急に黒い突起が二つ出て来た。ん?この形は…ウサギ?
目が何処にあるのか、否、そもそもあるのか分からないが、どうやら驚いている様子だ。黒い突起…耳をピーンと張ってから微動だにしない。
…………………動き、鈍いなぁ。
魔物ではないのかな?こんなに微動だにしない魔物はいない。奴らは、自分又は自分の同族以外は全て敵と認識している。その為、すぐに別の種を見付けると攻撃を仕掛ける。
「兄上、あのこれは…?」
もう一度兄上に問い掛ける。兄上はその声に黒いウサギ?から、僕に視線を移した。
「…やらんぞ」
「いえ、欲しくはないです」
あ、反射的に答えてしまった。しかし、その返答に兄上は気にしていないようで「そうか。なら大丈夫か」と独り言のように言いながら、その黒い物を抱き上げた。あ、バタついてる。
「黒いウサギで名前はクロ。メスだ。誘惑するなよ。とても利口な奴だぞ。今は翻訳機がないなら喋られないが、我々の言葉も理解できる」
と、黒い物の両脇に手を差し込んで持ち上げ、紹介してくれた。
「はあ…て、ではなくてそのウサギは黒ですが魔物ではないのですか?」
「魔物ではないから安心しろ。魔力は確かに豊富に持っているが害はない」
「…………………そうですか」
魔力が豊富にある?言葉を理解できる?それでも害はない?…………あまり、よく分からないがふむ、僕の方からもその物について調べる必要があるか。
と、検討していると、急に黒いのが兄上の手からバタついて逃げ、机からダイブして僕の所に跳んできた。一瞬身構えてしまったが、観察の機会であるため大人しくその場に留まった。
まぁ、何かされたら返り討ちにすればいいし…。と、警戒心を放ちながらその物の行動を観察した。
…………………………………………何やってるのでしょうか、これは。
それは、僕の足下に来たと思ったら、短い足でたしたし叩いてきた。鼻息も荒い。ふんが、ふんが鼻から息を漏らしながら、ひたすらに僕の足下でぐるぐる回り、たしたし叩いてくる。
え?何やってるのだろうか、本当にこれは。
その答えが聞きたくて、周囲を見渡すと兄上の右腕の執事が目に入った。しかし、顔を背けて手を顔を隠すように覆っている。おかしい。その隣のメイドも顔を隠すように覆って俯いている。少しおかしい。扉前に護衛として立っている者も見たが、おかしい。何故顔をやはり隠すように手で覆っているのだろうか。もう、最後の頼みの網だと兄上を見ると…もっとおかしな事になっていた。兄上…、体調でも崩されたのでしょうか?顔を覆って机に突っ伏しているのだが…。吐きそうなのかな?
でも、兄上がこんなになるとは産まれて初めて目にした。余程、体調が優れないのかもしれない。と、思ったところで、下から僅かな重みがかかった。下を見るとー…
「…ですから、何しているのですか?貴方は」
よじ登ってきた。まぁ、体の重みで床にすぐべちょっとお尻が付いてしまっているが、それを負けじにと、僕によじ登ってきた。
確かに害はなさそうだけど………
変な黒ウサギ。
それが僕とその黒ウサギとの出会いで有り、僕の感じた第一印象だった。
少し、城に戻らなかっただけでこのような状態になるなんて…でも、久々に愉快に感じ、素の笑みが思わず漏れた。
何か、この先が楽しそうな事になりそうだとこの時、そう、直感が告げていたのかもしれない。




