帰宅してきた身内
前からちょこちょこ出て来た身内君。
むぎゅ…
「おはよう、クロ」
…はい、おはようございます。
「朝飯食べに行くぞ」
…ぶひん
殿下は私の了解の返事を受け取り、筋肉にプレスされた状態で悠々と長い廊下を渡り、殿下によって運ばれました。
そして、筋肉プレスを朝から受け、少しやつれた私の目の前にシェフ自慢の朝食を置かれる。ウサギなので熱々な物が出るわけではないが、朝取れたばかりの青野菜に付着した霜を、丁寧に拭き取り提供されたご飯は、ウサギのお腹に優しく、安心して食べることが出来る。
本日も忙しくも平和な朝である。眠気眼でむっしゃむっしゃ食べていると、いつもより城内が慌ただしく感じた。まさか、またパーティーでも開かれるのであろうか?
「あぁ、そうだ。クロ、今日俺の弟が帰ってくるから。宜しくな」
へー、弟が帰ってくるのか。それは、少しバタつくか。そうか、そうか。
もぐもぐもぐもぐもぐ…ごっくん。
何ですとー!?
弟さん、いたんだっけ?忘れてた!
相変わらず、いきなり爆弾を落としてくる殿下の発言であった。
そういえば、水色ナルシーとか、団長とかが少し話してたかも。確か…学校に行ってるんだっけ?あれ?でも、何で帰ってくるのだろうか?今までいなかったのに。
私の疑問に気付いた殿下が自ら教えてくれました。なる程、冬休みですか!その休みで十日程だが城に滞在するという。
で、殿下の弟さんって…ど、どんな人だろうか?やはり筋肉かな?殿下を縮ませた感じの…あ、でも確か殿下と見た目違って白い肌に金髪とかだっけ?でも、顔は似てるのかな?…………なんか、殿下の厳つい顔を幼くしたとかイメージ湧かないな…。うん、分からないからやーめよっと。早くも考えることを放棄する黒ウサギ。考えてもしょうがない、見に行けば良いのだ。
弟が来たら紹介する。殿下がそう告げ、ひとまずいつもの通り執務室へ向かっていった。
先程は見に行けば良いと思って落ち着いたが、むむむ、やっぱり気ーにーな―るー。マーラさんは知ってる?弟さんがどんな人か?
「あら、クロ様。弟殿下が気になるのですか?そうですね…昔はよく殿下の真似事をして、殿下の背中をくっついて歩くような方だと記憶してます。ただ、学園に通われる日が近付くようになると自立していき、殿下の背中にひっついて歩くことは無くなりました」
んー…、そうなのか。兄の真似事がしたくなるのは年下に産まれた子の性である。一般的だろう。でもやはり、その情報だけではよく分からない。しかし、マーラさんも今の弟殿下のことは接点があまりなかった為、深くは知らないと言う。
やはり、会うのが一番手っ取り早いか。黒ウサギはひとまず、相手が来るのを顔をもふもふと洗いながら待っていたー…。
「クロ、弟が来たそうだ。時期にこちらへ挨拶に来るだろう…ん?クロ?何処にいるのだ?」
「クロ様はこちらの物陰で心身を落ち着かせおいでです」
殿下が「は?」とマーラさんの示した物陰へー…タンス裏の隙間を覗くと、なる程いる。もふもふなお尻を突き出して、頭だけタンスにはめた状態で物陰にいた。大抵、黒ウサギはこのタンス裏に頭突っ込んで尻隠さずな事をする場合、自身の精神を安定させるために行動することを周囲の者は覚えた。殿下はふぅーと一つ溜息をつき、膝を曲げ、腰を低くした。
「…クロよ、落ち着いたか?」
筋肉がまた増えるなんて嫌だ!
ダンッ!(床に)
「あれは別にお前に酷いことなどしない。多少、甘えん坊な所はあるが良い奴だ」
でも、筋肉が増えることに変わりは無い!
ダンッ!(床に)
「アイツは俺と違って皆に好かれている。お前もきっと気に入るだろう」
殿下も良い人だよー!!
ぴょーん(殿下に)
最後の殿下のセリフを聞いて、黒ウサギはてーいっとタンスからぴょーんと抜け出して、殿下の足下に着地し、すりすりした。
殿下は、筋肉だけど良い人って知ってるから!他の人も誤解を解けばきっと分かってくれるよ。筋肉だけど!今はどうやってそれを伝えられるか分からないけど、殿下だって見た目は肉食動物みたいに大きくて、目が鋭くて恐く感じるし、筋肉だけど分かってくれるよ!
と、殿下を励まし(?)、うーりゃうりゃうりゃと殿下の足にすりすりし続けた。弟さんはどんな人か分からないから緊張するのよー。小さい筋肉でも恐いわ!!ダンベルとかされたらやだー(切実)
「アルよ」
「はい」
「もう、俺足洗わない」
「それ、汚いですから止めて下さい」
「弟が来ても開けないでくれ」
「弟殿下に恨まれたくないので、扉を開けますね」
「お前の主人は誰だ?」
「ヴィリンジ・ランスラー殿下ですが、その前にいらぬ恨みは買いたくないです。自分を大切にするというモットーがあるので」
「まともなモットーをここで明かすな」
あ、日常だわ。相変わらずの二人のやり取りに、幾らか気持ちが軽くなった。そして、アルさん。そろそろクビにされる発言、控えた方が良いのでは?
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コンコンコン
「入れ」
殿下が扉の先にいる者に許可を出す。扉前にいたその者は、その返事を耳にすると失礼します、と幾らか幼さが滲む声で入室してきた。
「…ご無沙汰しております。先程、学園から戻り参りました」
「面を上げよ。向こうでは優秀な成績を収め続けていると聞く。これからも精進せよ」
「はっ!ありがたきお言葉。兄上の期待に添うよう、胸に留めておきます」
「して、夕食だが、疲れているなら今夜は部屋で取るか?久々に共に食事を…って、どうした?クロ。腹でも減ったか…っていったたたた?!」
「あ、兄上…?」
お、落ち着かないよぉおおぉおぉ
何この会話!なんか、いつもの殿下らしくなくてすんごいむずむずするー!毛がぶわってなっちゃったじゃん!!そして、人前で腹減ってんのか?とか質問止めて!乙女心を大切にして!!
黒ウサギは殿下の膝に乗せられて先程の会話を聞いていた。そしたら、え?これ、誰?みたいな話の内容に一気に毛が逆立った。ふわわわわ、落ち着かないぃいぃいいぃ!!やはりタンスに戻りたー…てーいっ、放せー!!筋肉ぅうぅううぅ!我は暗くて狭くて体がフィットする場に行きたいのだー!!
「…兄上、それは?」
あ
弟さんがいること忘れて姿を見せてしまった。気分はとある所で人気ヒットの、モンスターが草むらとかから出現して、自身のモンスターと戦わせ、相手が弱った所をボール投げて狩りをする、というあれの気分だ。くっ、出会ったからには仕方ない!挑んでやろう!鼠さんでも、亀さんでも、トカゲでも、何かよく分かんない物でもバッチこーいである。
黒ウサギは、相手の…殿下と同じ星のきらめきのような輝きをした金の瞳に、白い肌、癖のついた淡い金髪をした青年を目視した。…と、なんか違和感がある。何だか、殿下の弟にしては違和感を感じる。何だろうか…。こう、面積が小さいというか、身がないというか…
……………………………………………はっ!
黒ウサギは違和感の正体に気付いた。気付いてしまった。殿下の…殿下の弟。なのにっ…!!
「あらら、両方固まってしまいましたね」
「殿下の足下で毛玉になって固まっているクロ様は…想像つきますが、弟殿下…クリストファー様は何をクロ様から感じているのでしょう」
部屋の隅でアルさんとマーラさんが温かい目で見守っているとはつゆ知らず、場の主人公化している二人は固まっていた。黒ウサギは気付いたものに衝撃が大きかった。なんて事だ…そんなことがあるのか…と。
弟さん、筋肉がない!!!!!
衝撃だった。




