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男性こと殿下は黒ウサギさんと触れ合いたい

「あら、殿下お早いお戻りで。お帰りなさいませ」

「あぁ、マーラ、悪いが頼みがある」


 私は男性の腕に抱かれたまま、初めて魔法で転移というものを経験し、男性の帰宅場所に来た。



帰宅場所……?


何やらシンプルな部屋だが、高級感と品の良さが溢れまくっている骨董品やら家具やらで…あれ? そういえば現実逃避しまくっていたけれど、先程からこの男性のこと殿下って皆さん、呼んでいるような……。

 

 まだ、現実逃避しておこう。

 平和と安らぎを求めているのだ、ウサギは。心の安寧も必要なことだ。


 勝手に自己完結して落ち着く黒ウサギをジッと男性が見ていることにも気付いていたが、気にしないことにした。別にこの男性は先程の話から私をペットとして飼うだけらしいし、痛いことは……きっとしないような気がするから。私は私で自由勝手に過ごさせていただきますもの。えぇ。


 相変わらず現実逃避中な黒ウサギです。


 そんな、臆病な理想を頭で考えていると、先程呼ばれていたマーラさんが、一抱え程の大きさの籠を持ってきた。中も白いクッションなものが敷かれており、居心地が良さそうだ。


 多分、私の寝床のような物だろう。


「クロ、入れ」


 ……まさか、私の名前ですか? まぁ、居心地が良さそうなので、入らせていただきますよ。


 しゃがんで促された男性の腕から降りて、籠へ向かってみる。が、視線の高さが変化しただけでなんだか恐怖を感じた。

周囲のあらゆるものが自分より大きく、なんだか落ち着かない。

暗くて、隅っこが好きな性質を持つ者としては、非常に泣きたくなるぐらい緊張感が高まる。なので、ふがふがと鼻の髭から位置を把握しながら、周囲の動きも長い耳で感知する。


 ……なんだか、異様に上が、鼻息辺りが騒がしいが、どうしたのだろう?


 上を見て確認する。

皆、手を口元に当てて震えていらっしゃる。顔も息がしづらいせいか、赤くなっている。で、目線の先は私と。

 はて、こちらは状況把握しているだけなのですが。どうされたのでしょう?

 

 そう思い、自然と皆さんの方に顔を向けながら傾ける。なぜ? と問うように。


「きゃあ!」(マーラさん)

「ふふっ」(アルさん)

「ごふっ……!」(男性)


 三者三様、変な反応を返されました。解せぬ。


「もうっ! 可愛いですわ~。首をコテンなんて傾げて!」

「今までは可愛いと感じるのは犬ぐらいのものでしたが、なるほど。小動物は癒やされますね」

「……かゎぃぃ。(ボソッ)」


 よく、分からないが癒やされたようで何よりです。男性の発言は聞こえなかったことにします。どう、反応したら良いか分からなくなるので。

 そうして、皆様の暖かい見守りの中、ちょこんと籠の中に入ることができました。

 ふぅ、やっぱり狭いところって落ち着きます。この、フィット感が良い。


「……さぁ、殿下。クロ様は無事、籠に入って大人しくしていますし、私達も仕事に専念しましょう」

「……」

「睨んでも駄目です。公務をしっかりこなしてください。さっさと片付ければクロ様とふれあう時間も早くできますから」


 そのアルさんの言葉を聞くや否や、もう何本かの腕が見えるほど素早く手を動かしていく男性。おぉ、こんな芸当もできるのか。凄いわぁ。

 と、視界の隅にオレンジ色の見慣れたものがちらついた。ハッと見れば人参さん。愛しの人参さん。しかも今まで食べてきたどの人参よりも立派な人参さん。


「どうぞ、クロ様。お召し上がりくださいませ。王宮の庭で今朝、採れた人参ですよ」


 少し小じわが出てきた暖かみのある顔を近付け、更にチョコ色の瞳を細めて、人参を勧めてくるマーラさん。

 マーラさんはメイドの格好をしていた。長年勤めているようなベテランの雰囲気がある。しかし、厳しそうな雰囲気ではなく、寧ろ物腰が柔らかく、相手を和ませるオーラがあった。見た目もチョコ色の瞳に、淡い茶色と落ち着いた感じだからかもしれない。身長は……恐らく平均かな? それもあり、出会った二人よりも低いし、(まあ、男性だし)距離感がちょうど良かった。

 そんな、優しいマーラさんから、手ずから立派な人参さんを頂く。

 うーん、美味(うま)し。王宮の庭とか気にしてはいけないだろうから突っ込まないけれど、流石は美味しいわ。モグモグ。


「モグモグ……!」

「殿下ー、頑張れー。貴方も終わればできますから」


ゴッ! と、凄い音がしたのでビクッー! と一瞬体を強ばらせ、音の方を見てみると……。

 男性が思いっきり机に頭突きをかましたようだ。うわぁ、机、へこんでいない? 男性のおでこから血が出ていない? あれ。と、思いつつ口の中に中途半端に入った人参を二回嚙んでは止め、2回また嚙んで、飲み込むことをして口の中を片付けた。


「固まるクロ様も素敵~。ふふっ」


 マーラさん、貴方、私が何しても素敵って言っちゃうでしょ。口癖かな?

 再び人参を口に含み横目で男性の様子を伺うと、鬼気迫る何かと闘っているような雰囲気で周囲の空気が染まっていた。


 ふーむ、そんなに重要な書類内容の仕事なのかなー。


 むぐむぐと呑気にそう、思いつつ立派な人参さんをいただいた。

 ごちになりました-。

黒ウサギさんはダラダラ天然平和主義な性格です。

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