映っているモノ
「ひょっぇええぇぇ! さ、サムスティックバイオレンスキングぅう~。もぉ、お家帰る」
「もう、着いているので無理です」
「まだ着いてないよー! なんで入り口前じゃないのおぉ!」
「はぁ、ここは、規定が厳しいですからね。仕方ないです。で、さっきから大袈裟に叫んでますが、毛皮に覆われているんですから寒さなんて感じないでしょう」
「全ての冷気を遮断できるわけではないのです(キリッ)」
「それ、半分ウサギ止めてるでしょ。なんのためにあるのですか、その体中覆われている毛は。それに、そこはそんなキリッとした感じで言うところではないです」
「お前らのテンポ、段々レベルが上がっているな……と、クロ、さっき言っていたサムスティックバイオレンスキングとはなんだ」
「虐めているとしか感じないほどの最高な寒さという意味です」
皆さん、ごきげんよー。我々は只今教会に……着いてはいないな。向かう為、馬車から降りたところです。なぜ、そんなところに付いてきて……ないな。殿下の我が儘で行かなくてはならなくなったのです。はい。ことの成り行きは、アルさんのせいになります。
本日は水色ナルシーの最後の滞在日なのだが、最後の訪問で教会を訪問したいと言い出しまして。先程、アルさんが言っていたとおり、規定が厳しい為、殿下も付いていくことになりました。
てか、ここ一週間ずっと水色ナルシーのご案内しています。わざわざ殿下が付き人になっている理由は、昔の学友だから。相手がとても性格も見た目(?)もキツいので、付き合える人が限られているから=面倒くさいが主。
と、いうことで筋肉殿下が候補に上がりました(強制的に)。また、水色ナルシーは意外に勉強熱心なのか、今回のような視察をこの一週間して過ごしました。その全てに筋肉殿下は、ほぼ、付きっきりでいることになりました(強制的に)。……殿下、不便だね。そして、アルさんは殿下が城を空ける間、殿下のサインが必要な書類以外を片付け、政務の滞りを抑えるという状況であった。
つまり、すんごーーーく忙しかった。
殿下は私に会える日が、夜の就寝の時……しかも、書類仕事が残っている為、少ししか触れられない状態で仕事場に戻る日々であった。なので、殿下の顔が凄いことになった。いつもの倍に凄い。何が? って、顔の濃さ? 否、畏怖度? とりあえず殺伐としています。
立てば畏怖圧アップ、座れば凍りつく部下、歩く姿は終焉を呼ぶ魔神のごとく。と、城では恐れおののいていた。
人気者は大変だね! (他人事)
なので、今の殿下は精神的にも体力的にもダメージを受けているが、何よりも癒やしのメーターに大ダメージを受けている状態だ。おかげで、攻撃力、瞬発力は大きくアップしています。はい。返り討ちが恐いです。はい。
そんな、状態の時に最終日も付いていかなければならなくなった。私との触れ合いタイムが今日も削られる。最終日と言っても辛い。とうとう殿下が「彼奴を消すか……」と言い出した。あかん。そこでアルさんが「だったら、クロ様も連れて行かれるとよろしいのでは?」と、いらぬ提案をし、それに即行で乗っかり今に至る。あかん。
まぁ、殿下の癒やしメーターがぐんぐん上がっているようなのでいいですが。筋肉にいつもより強くプレスされていて苦しいです。ぐむー。
さらに、最悪なことに本日の天候は雪! しかも積もるなら積もれば良いのに、地面にうっすら積もっては止み、また降るという感じなので、特に寒い! 風が我等を凍らせようと、容赦なく吹いています。サムスティックバイオレンスキングです。はい。
「早くせぬか、お前たち。そんなちんたらした歩みでは凍るぞ」
水色ナルシーからそんな声がかかりました。そうです。これから目には見えますが、広ーい庭を歩ききらないと行けないのです。うぅ! 水色ナルシーに言われて悔しい! と、顔を上げた。……しかし、その気も薄れました。
部下二人が豪華な赤い神輿(椅子付き)を持ち、その上にどでーんとお座りになっている水色ナルシー。
もぉ、なんか、教会を見に行くだけでなんでこんなに疲れるのでしょうかね?
「お待ちしておりました。寒い中、御足労いただきありがとうございます」
教会は、建物全体白く、なんだか神聖な雰囲気が漂っていた。出迎えてくれたのは神父様で、白い丈の長い服にローブを羽織っている。では、早速中に入ろうと殿下が一歩、踏み出すと、神父から、待ったかかりました。その、黒い生き物はなんでしょうか、と。
「色は珍しいが普通のウサギだ。否、普通のウサギ以上に利口なウサギだ。だから、問題ない」
いや、そんな親馬鹿発揮しなくていいから。普通に紹介してくれ。
「大変申し訳ございませんが、ここは教会。黒は闇や畏怖の象徴に喩えられております。どうか、御遠慮願います」
「コイツは大丈夫だ。問題ない」
いや、殿下の説明不充分すぎるでしょう。
と、いうか忘れかけていたが、私の色は恐れの対象になる。しかも今回は前回の家具屋のような所ではなく、教会だ。仮に大人しくて物を壊すとかなくても、他の目があれば協会側が示しが付かなくなってしまう。その為に、この神父は申しているのだろう。
今の殿下は、癒やしとか何とかが不充分なため頭が回らない。仕方ない、ここは私が自ら辞退するか。と、胸元を軽くタシタシ叩いてその旨を伝えようとするも逆に頭をポンポンされ、宥められた。違う。もう一度多めにタシタシするも、頭を撫でられた。その間にも神父とのやり取り(一方通行)は続けている。違う。
だぁーー! もぉーー! と、私が叫びそうなとき、中からこちらに近付く足音が聞こえた。
「何やら揉めているようですが、どうかされましたか?」
「は、え……し、司祭様っ」
司祭と呼ばれるその人は、白いローブを羽織っているうえにデザインが神父とは少し違っていた。フードが付いており、それを目深く被っている為、声が男性だということ以外に特徴は分からない。その男性がチラッと私を見たような気がした。揉めごとの発端は私だと察したようだ。
「ほう、珍しい色ですね」
「色は確かに珍しいが利口なウサギだ。問題ない」
まだ、言うか! 貴方は!
そんな、説得力のない殿下の内容にツッコむこともなく、神父の上司だろう司祭という人は口を開いた。
「本日は他に来客の予定もございませんし、参拝者も参りませんから大丈夫でしょう。教会内は申し訳ございませんが、黒を悪のイメージで表すものが多くございます。ヴィリンジ殿下が、よろしければどうぞ、中へお入りください」
殿下に目で確認され、私はそれに大丈夫だと、頷いた。それにより、やっと中へ入ることになった。
因みに水色ナルシーは既に近くを散策しているようだ。相変わらずマイペースだな。
その水色ナルシーだが、あの件以来全く会っていおらず、本日久しぶりに顔を合わせたのだが、何もなかった。私的には侮蔑とか何かしらの厭がらせでもしてくるかと思ったが、そんなことはなく、むしろ私の存在は無視されている感じだ。私はそのほうが助かるからいいが……。極端な対応に戸惑っている。しかも、こう……なんて言ったらいいか分からないが、別人なのだ。同じ人物のはずなのに、違うのだ。
水色ナルシーを危険視していることに変わらない。だから、殿下も気を遣ってくださって、馬車は二台用意して別々で行動しているし、今だって距離を置いて対応してくださっている。でも、今の水色ナルシーは大丈夫のような気がした。それに、ことの起こった日に会った水色ナルシーの感じに、前にも感じた同じものを感じたような……。
あの感じは……、何に似ているんだっけ?
私は殿下に片腕で支えてもらいながら、司祭様を先頭に、後ろはアルさんに付いてもらいながら、教会内を進んだ。
外見と同じく、中も白を基調とした造りだった。そして、その白い壁に一定の間隔で芸術的な絵が飾られてあった。それは、入り口にある扉を開いた所から始まり、どうやら物語になっているようで、それを司祭様が語りながら、歩いていく。
その昔、この地には魔力を持たぬ人間と動物が平和に暮らしていた。それを見た魔界の者が羨んだ。その当時、魔界と天界は争っていたのだ。羨んだ魔界の者は人間界に悪戯を仕掛けた。欲望を増幅させ、理性を失わせる悪魔を取り込んだ美しい宝石を放った。拾った者が宝石の呪いにかかるという品物であった。
それは、一人の少女のところに落ちた。悪魔は言った。君のものを僕にくれれば願いを叶えてあげるよ、と。少女は語る。自分は人がして欲しいことはできなくて、どうでも良いことは出来る。そして、お母さんとお父さんに誉めてもらいたい。だから、人の役に立つものができるようなりたい、と。その時、悪魔に手渡したのは首にかけていたネックレスだった。
翌日、少女はできなかった縫い物ができるようになった。少女の家は雑貨屋のためそれを試しに売れば、完売した。少女は嬉しかった。早速、両親に報告した。売上金は受け取ってもらえたけれど、それだけだった。翌日はもっと誉めてもらえるようなことをしなくては、と、また悪魔を呼ぶ。悪魔は言う。僕にもっとくれるものを増やせば、その分できることが増え、いいことも増えるよ、と。少女は、自分の持ち分から半分のアクセサリーを渡した。
翌日、走ることが速くなった。配達が早くできるようになり、お客様からも喜ばれ、初めて予約まで取り付けることができた。縫い物と配達分の売上金が入った。両親に報告した。売上金を受け取り、もっと頑張れと、言葉をもらった。少女は凄く嬉しくなった。もっと、できるようになればもっと、誉めてくれる! 応援してくれる! 悪魔に今度は残りの半分のアクセサリーを渡した。
翌日もできることが増え、売上金も増え、嬉しくなった。でも、その日から両親は度々帰ってこないことがあった。でも、お金を受け取りに帰ってくることもあった。自分を頼ってくれている! 少女は嬉しくなった。もっともっと、できることを増やしたいと、欲が出てどんどん物を渡す量がエスカレートしていった。お気に入りの服も渡した。靴も全部。もう、一足も無い。ベッドも渡した。寝るところはカウンターの下になった。椅子や絵本、人形、棚、タンス等、どんどん渡した。できることが増えた。
しかし、両親はもっと帰ってこなくなった。
少女は必死にものをあげた。まだ、誉めてもらっていない。足りないんだ。なにが? 次はなにを渡したら誉めてくれる? ねぇ、なにを渡したら帰ってきてくれる? なにを渡したら居てくれる? ナニを渡したら、ナニを、ナニを、ナニかなにか……。ナニかない? あれ? ここにあったものは……渡しちゃったのか。他にないかな。あれ? こんなにこの家広かった? え、もしかしてナニもない? そんな、それじゃあナニを渡せばいいの? ナニかないと明日からできなくなっちゃう。また、できない子になっちゃう! まだ、誉めてもらっていないのに! まだ、頭撫でてもらっていないのに! まだ、笑ってもらえていないのに! そしたら、そしたらまた……自分を見てくれなくなっちゃう。
長い廊下を渡りきる前に、一つの絵があった。これが最後の絵だ。黒一色。他には何もなかった。
「最初から何度か見れば分かりますが、絵の周りは黒で囲んで塗られているのです。その黒は段々と視界を狭めて塗られています。それが闇を表しているのでしょう。その闇はこの少女の欲望でもあり、最後には自分の欲によって自滅してしまうことを物語っています」
最後の絵が飾られた先には、扉があった。司祭が迷いなく開け、私たちを導く。
「まだ、別の物語もあります。ご案内致しましょう」
我等が、黒を悪の象徴と語る理由を。
司祭が黒ウサギを目に映した。貴方には、何が映っているの?
同じ物を見ているけど、捕らえる印象は様々




