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舞踏会3

「そんな流れでお前まで帰れるわけ無いだろう」

「げっ?! おや……」

「ここでは親父ではなく、父上だ。この愚息が!」


 扉を開きさあ、部屋へ向かうというところでまさかの止めが入った。……親父? 愚息? もしや、フィーの後ろ盾のヴィジョン伯爵だろうか。間違いない。フィーに素で話しているし、年配の男性もフィーをゲンコツしているし。と、いきなり手を離さないで?!

フィーが殴られた頭を相当痛かったらしく押さえるために、私を抱いていた手を緩めた。その為、私は床へと落ちる! と、本能的に体を捻らせ床への着地へ備えた。


「……こやつは何だ?」

「っててて~……」

「質問にはすぐに答えろ!」

「親父のゲンコツは力が半端ないんだから、すぐに復活できねーよ! 自分の威力が、他人にどれくらいの痛みを及ぼすのか分かれ!」

「偉そうなことをほざいてないで答えろっ!」

「いっだー?!」


 あぁ、親子だな。フィーは主にこの人から広い範囲でいろいろなことを吸収してきたんだろうと容易に想像がついた。……一瞬の出来事だったのに受け止めてくれているし。

 そう結局、珍しく発揮された本能により、床に着地するということが起こる前に、フィーのパパさんが私をキャッチしてくれた。……段々、私の本能が鈍っていくような気がする。


「だぁ! もお! 二回も叩くんじゃねー! で、そいつは別に(やま)しい奴じゃねーよ。魔力は確かにあるが、魔物じゃねー。黒いウサギだ。俺たちの話も理解できる」

「で、首に巻いてある装置はお前のか。ふん、相変わらず小さい者には優しいようだな」


ん?


「馬鹿は風邪をひかないというだけあってピンピンしてる」


んん?


「お前の造ったものは、儲かってるようだな。また新作を出したとか……暇そうだな。暇なら家に戻りまた、その緩んだ脳を鍛えなければいけないじゃないのか?」


んんんー?

これって……。一見すると愚息を叱るパパって、感じだけど……。


「では、私も殿下たちに挨拶しなければならない。お前の礼儀もどれくらいマシになったか見せてもらおう」

「は?! ちょ、おや……ち、父上?!」


パタン……。


 そのまま私は、扉の前へ放置されフィーとフィーのパパさんは殿下への挨拶に向かった。

 フィーさん、耳引っ張られて痛そー。てか、パパさん。先程の会話を振り返ると……。


「相変わらず小さい者には優しいようだな」→「昔から優しいところがあったが今もか弱い物に優しいな」


「馬鹿は風邪をひかないというだけあってピンピンしてる」→「変わらず元気で何より」


「暇そうだな。暇なら家に戻りまた、その緩んだ脳を鍛えなければな」→「時間が空いているなら、たまには帰ってきなさい。ここでの生活についての話を聞かせてくれ」的な感じかな?



 ……め、面倒くさー?! 何その会話?!フィーはこの内容に気付いているのか知らないけれど、面倒くさー! 何で素直に伝えないかな?! そんな、暗号みたいな会話のほうが頭を使って面倒くさいと思うんだけどな?!

 まさかのフィーのパパさんはツンデレでした。しかも、恐らくはパパさん自身、自覚がないと思う。


「クロ様、お待たせしました」

「部屋までお送り致します」


 と、気付けば私の護衛たちが傍に控えていた。あら、放置されていたのかと思えばいつの間に私の迎えを誰かが寄越してくれたのね。有り難い。

 そこで少し悩んだ。どちらに運んでもらおうかなーと。いや、どちらでも構わないけれど、相手もそのような受け身体勢なので私が申さないといけない。指名制って辛いわー。あ、二人に聞けば良いかしら? 別に私だけが決めなきゃいけないことではないし。


「どちらか運んでくださいますか?」


 私は先程、フィーにやったように二本足で立ち上がり、万歳の状態で聞いた。で、前足も抱っこしやすいように前へ出している。さあ、運んでくれ。

 て、あら? 二人共、目を点にした後、なぜか絶えるような、険しいような……何とも言えない表情で私を見つめ返した。お二人さーん、顔が恐いですよー。


「我々では、とても厳しい選択です」

「ここは、やはり我が主のクロ様から御決断していただいたほうが助かります」


 え? そんな、鬼気迫る感じで言われましたが、そんなに? え? いや、ちょ、混乱するわ。私的には、どっちが荷物運ぶ? 的な軽い気持ちで聞いたんだけど……。なぜ、そんな王家の宝でも運ぶような面差しなんですか。


「じゃあ、じゃんけんしてください」

「「?」」


 いや、そんな二人して首を傾げないで。なんか可愛いから。


「じゃんけんして、負けたほうが私を運んで下さい」


 私的には、罰ゲームで運んでもらうみたいな気持ちでいった。勝ったほうが物を運ぶなんて可笑しいからね。

 そのはずなのに……。


「くっ、こんなに勝負で負けたいと思ったことは初めてです」

「その気持ち、同意だ。しかし、負けなければクロ様を運ぶという貴重な栄誉は果たせない」

「お前に私を勝たすことはできるかな?」

「俺は……負けてみせる!」


何これ。


護衛たちが負けるために勝負するようです。









「ーーくっ!無念である……。あの時、グーを出さなければっ!」

「ふふ、では、有り難く負けをいただきます。クロ様、どうぞおいでください」


 負けたのは栗毛のポニーテールをした騎士のほうだった。さてさて……運んでもらいましょうか。


「では、お願いします。栗毛のポニーさん」


 名前を忘れた為、森の時のように見た目で呼んでみた。そうしたら、固まる呼ばれた本人、栗毛のポニーさん。滅多に表情を崩さないもう一人の騎士は瞬時に顔を覆った。

なぜに。


「失礼ですが……、その、呼び名は?」

「ごめんなさい、名前を忘れちゃいまして……。私たちウサギは名前がありません。森では見た目で名前を呼び合って区別を付けていたので……」

「なる程、しかし……」

「クロ様」


 栗毛のポニーさんとそんなやり取りをしていると、もう一人の騎士が声を掛けてきた。


「僕のことはどうお呼びになりますか?」


 んー、そーですねー……。片目を青髪で隠して、青目の人。だけどそれよりも……。


「忍者」

「……?,それはなんですか?」

「以前、東の国のお伽話をマーラさんに読んでもらったんです。その時に聞いた雰囲気が忍者というものに似ているな、と感じたので、忍者に」

「私のポニーさんというのはどこから来ましたか?」

「ポニーテールのポニーさんです」


 あらら? 二人ともいまいちな反応ですね? しょーがないなー。名前を聞いてあげますよ。覚えられるかは知らないけれど。

と、いうことで名前を聞きました。


「忍者こと、ラズリアス・インブレラーと申します」

「栗毛のぽ、ポニーさんこと、フィンリッヒ・ダントランです。クロ様、是非こちらで!呼んでいただきたいのですが……」


 むむむ……。また、オシャンティーな名前でございまして。じゃあ……ラズさんとフィン……ん? フィーとなんか似てるな。フィンじゃなくてフィリーで呼ぼうかな? そう、二人に告げるとやっとホッとした顔でいたため、それで呼ぶことになった。名前って長くなければ良いのに。




「では、もうすぐマーラが来ると思いますので、お部屋でお休みになってください」

「また、是非。いつでもクロ様をお運び致しますので、気軽にお声をお掛けください」


 それでは、と二人は私を部屋へ送り届け、扉を閉めた。ふー、長い一日だった。とりあえず、マーラが来たらお風呂に入れてもらうため、私はソファの上へ移動した。


 しかし、落ち着かない。やはり、先程の一瞬の出来事がとても気になる。単なる風邪? それならまだいい。くしゃみや鼻水が出て来るぐらいだから問題はない。では、風邪ではないとしたら? 分からない。私には考えられない。これ、一回限りなら流してもいいんだけど……。


 あんな一気に闇に落とされたような……んー、何とも言えない恐怖の塊を背中から感じた。そんなものがまた、私以外にいない時に起きたらどうすれば……。


 そう、考えたら恐くて恐くてジッとしてられず、部屋の中をぐるぐる忙しなく走った。風邪だったら運動すればなおるかもしれないしね!


 コンコンコン。


 と、弱めに扉を叩く音が室内に響いた。その音に私は動かしていた足を止める。耳を立て鼻を忙しなくひくひくさせて相手の反応を待つ。


「クロ様、フィリーです。なにやらいつもと違う様子なので気になり、窺わせていただきました」

「……五月蠅くしちゃってごめんなさい」(しょぼん)


 どうやら、バタバタしすぎて護衛たちに心配かけてしまったようだ。ごめんなさい。首を下げ、耳も下げる。で、ソローとフィリーさんの方へ目線を送る。


 ……あれ? フィリーさんいるよね? うん、いる。こちらを見てるようだけど、どした?


「どうした、なにを固まって……あぁ」


 様子がおかしいと思い、ラズさんも覗いてきたが……え、なにを納得して頷いて……って、拝んでる。なんやねん、貴方も。


「……なに?」


 あら、少しドスのきいた声が。オホホホホ。ごめんあそばせ。しかし、二人には効いたようだ。私の声に元の護衛としての意識が戻った様子でキリッとしてる。


「失礼いたしました。マーラ殿もまだ、手が空かないとのことですが、なにか我らにできることがあればと思い、声をお掛けしました」


 あ、はい。まぁ、私が五月蠅くバタバタ走っていたのでね。はい。仕方ないです。私のせいです。はい。では、教えてやろう……。いや、駄目だ。恥ずかしいわ。確かに恐くてね? まぁ、ね? 一人じゃ恐いなーとかあったよ。はい。でも、そんなこと言うのは……は、恥ずかしいじゃない? そ、それに! 彼等の仕事を仕事を邪魔したくないしぃー!


「……クロ様」


 と、ラズさんが乙女な脳内で暴れている私に声を掛けた。何だね?


「私達は貴方の護衛です。安心して日々を過ごしていただくために、サポートすることが勤めとなっております」


 ラズさんとフィリーさんは私の前に来ると跪き、いつの日にか目にした、騎士の礼をした。


「分かってますよ。だから、今日も扉の前へー……」

「しかし、それは一般的な護衛です」


 と、フィリーさんが告げ、顔を上げる。


「私たちは専属護衛……クロ様の護衛なのです」


 ラズさんもそう告げ頭を上げる。

二人の目線が交わる。


「体だけを守るだけではありません。クロ様に日々を安心して過ごしていただくために私たちはいるのです」

「えっと……それは……?」

「体だけでなく、心もお守りさせていただくのも我々の任務になります。……いえ、任務というのは間違いです。私たちはクロ様のために尽くしたいのです」

「!」

「クロ様の眠りも不安等から守り、安心してお休みいただきたいのです」

「どうか我らに」

「クロ様の不安から守らせてください」


 な、なんてことを……言うのよぉ。貴方たちはぁ……。

 鼻を忙しなくひくひくさせ、べちょっと潰れる。その反応に焦る護衛たち。私はどうも独りよがりな考えで、日々を過ごしてしまっていた。護衛は守るのが役目だが、何を守るかは本人たち次第。しかし、少なくとも彼等は殿下に任命されたから守っているとかではない。私をきちんと見てくれている人がいる。

 てか、それをこんな人たちにそんなこと言うなんて……。


「はっずかしいぃぃ……」


 そう呟きながら護衛の元へすり寄る。


「今日はなんだか恐いというか……一人でいたくないの」


 だから、傍にいて欲しいな……って。駄目かな? なるべく早くに寝るから! と、二人の様子を伺うと……。


「勿論ですよ」

「我らが安心してお休みになられるよう、お守りさせていただきます」


 もぉ! こっちが恥ずかしくなるわ!

 そんなやり取りのおかげで先程感じていた、大きな恐怖は薄れ、温かいぬくもりで心が包まれた。ふふ、なんだかくすぐったいけれど、ふんわりしてる。

 こうして、私は温かい気持ちで癒やされたのでした。



 まぁ、また私の傍に誰が付くか、じゃんけんのくだりがあったので、先程までの輝かしい護衛の姿は薄れてしまったが。疲れたのでまた今度話します。それでは、お休みなさーい。

因みにじゃんけんで勝ったのは、ラズさんでした。ラズさんとフィリーさんは性格が違えど仲良しです。

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