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舞踏会1 魔道士side

魔道士さんのフィーさん視点でお送りいたします。

「……おい、さっきまでの勢いどうしたんだよ」


 ドアの外で聞いていたら、真っ黒いのがメイドとの話で、どうやら、舞踏会に行くのを渋っていた様子。しかし、何とかメイドからの励ましを受けて持ち直したらしいと思い、そのタイミングで中に入った。


 そのはずなのに……。


「なんでまた、タンスに挟まってんだよ。もふケツ見えてんぞ」

「……もふケツって?」

「あ? 毛で覆われてもふもふしたケツだから、もふケツ」

「なんか、毛深いみたいじゃない!」

「否、ウサギなんだから毛深いだろうよ」


 真っ黒いのは俺の質問には答えず、細かいワードに反応した。応えてやったら変な返しが来た。毛深いって……。お前、ウサギってこと、自分で認識していないのか? 忘れてんのか? まぁ、いいやと俺は気持ちを切り換えて、話を戻した。


「で? そこのメイドさんから励ましてもらったんだろ? お前も“一人じゃないから”とか、かっこよく言い切って、前回締め切ったじゃねーか。どこ行った、さっきのお前」

「その辺、揚げ足を取らないでくれる? 別に、かカッコよく決めて、“ドヤァ”みたいなことなんてしてないし、狙ってないし……すみません、嘘です。ただの現実逃避ですよ。だから、そんなにガン、飛ばさないでくださいませ。お願いします」

「ドヤァってして狙ってたんだな。……ふんっ、俺は元々この目つきだ。お前がそう感じるのは、お前がやましい気持ちを持っているからだろ。人のせいにすんじゃねー」


 そう、俺が言うと真っ黒いのは「こんなチンピラで十歳児に言われるなんて……」とか呟いた。は? 誰が、十歳児だって?


「まさか、十歳児って俺か?」

「すみません、本当は十二歳と思ってます。え? これも違いますか? まさかのもっと下ですか?!」


 ブチッ


 その反応に俺は、ぶち切れた音がどこからかした気がした。否、気のせいじゃねーな、切れたな。


「ちっげーーよっ! なに、勝手なことほざいてんだ! 俺はもう、十四歳だわボケッ!」


 久々に大声出した。なにをどこを見たら十歳児なんて見えるんだ?!


「……ん~?」

「なんで首傾げた?!」


 意味が分からない、とでも言いたそうに真っ黒いのは、俺を頭から足先まで何度も視線を上下に動かすがやはり、首を傾げる。なぜ?! ……て、そんな場合じゃない!


「おい! そろそろ始まるから行くぞ」


 と、俺は真っ黒いのに声を掛けた。しかし、これまたなぜか、首を傾げた。


「……なにが始まるのですか?」


 あ?


 俺は一瞬目が点になった。何? マジで言ってんのか、コイツ。え? 俺がなんか可笑しいこと、言ったか? いや、そんなことないだろう。何が始まるって、あれしかないだろ? そうだよな。コイツが馬鹿なだけだよな。よし、俺は何も可笑しくないって、ことで……。


「ーー舞踏会に決まってんだろーが! こんのボケウサギが!」


 問答無用でえり首を摑み上げ、赤いカーペットが敷かれた廊下を、早歩き選手権みたいなのがあれば優勝間違い無し! の最速で早歩きをして開催場所へ向かった。

 本当にコイツは俺のペースを狂わせる。後、世話が焼ける。お前の方が十歳児だわボケ!


「っ、はぁ、はぁ、な、なんとか間に合ったな」

「あのー、フィーさんや」

「なんだ、現実逃避はもうできねーぞ」

「私もそれくらいは知ってますよ。じゃなくて、流石にえり首摑まれた状態で入場なんてしたくないのですが」

「……あぁ、そうだな。じゃあ、下に降ろせば良いか」

「舞踏会って人が多いんでしょ? こんな黒くて小さい私では踏まれてしまう恐れが高いので、抱っこして欲しいです」

「それだと、俺が飯を食えなくなる」

「……はぁ、もう、ツッコみませんよ。じゃあ、こないだしてくれた肩車で」

「あ~それなら良いか。よし、しっかり捕まっとけよ。落ちても気づかねーかもしれないからな」


 そう告げると真っ黒いのは「なにそれこわっ!」とかほざいていたが無視だ。

 ようやく、扉の前にいる騎士から俺の名前が挙がり、中に入る。

 俺は十四歳で確かに未熟だが、世間では王宮のお抱え魔道士として何度もこういうパーティーには参加してきた。なので、場にはまあ、慣れていると言えば慣れている。しかし、あの、女が媚び売って、裏を探り合いながら鼻につく匂いをまき散らしている姿は本当に慣れない。あれは、一生慣れないだろう。男も以前はあくどい取り引きとかしてドロドロしていたが、ヴィリンジ殿下のおかげでそれはいない。本当にヴィリンジ殿下は凄い人だと思う。俺もあれぐらいの威厳と機転が働く、できる男になりたいと目標にしている。別に、王になろうとかじゃない。そういう人間になりたいだけなのだ。純粋に。


 でだ、俺はそういう訳で慣れているから良いが……。


「おい、まっ黒いの。しがみつきすぎ。爪、当たってる」

「だ、だってフィーさん。凄いです。もう、想像してたのと全然違うし。もう、どうしよう」

「つまり?」

「混乱中ですっ! 人が多いとは聞いていたけれど、多過ぎ! 私、下に降ろされていたら踏み潰されてたの間違い無し!」


 人多過ぎーと、もふもふがさらに首や頭をぎゅっとしてしがみついてきた。ついで、すんごいマッサージのごとくブルブル震えてやがる。


 ……怯えすぎだろ。

 そして、今日は一段と絶好調なもふもふ……てっ、髪を食べんな! 禿げる! と、真っ黒いのの頭に手刀かましてやった。そしたら、「きゅっっ?!」と、鳴いて頭を抑えたらしく、バランスを崩した。とと、わりーわりー。だが、お前が俺の大切な髪を食べるのが悪い。俺の財産をウサギに無くされては困る。


「ご機嫌よう」


 と、俺に声がかかった。どうやらふざけるのもここまでらしい。仕方ない。片っ端から片付けて早く、腹を満たすぜ。と、俺も気持ちを切り替え、振り向いたが……と、コイツか。


「ご機嫌よう、侯爵令嬢のミンディリン・マリナージュ嬢。今宵も素敵な青いドレスですね」

「あら、すっかりお世辞が上手くなりましたね。リンフィディ・ヴィジョン殿」

「ハハハ、お陰様で社交の場には慣れてきました」

「フフッ、だからと言ってここで油断してはなりませんよ。親しい者だからと気を緩めてしまうのは危険なことです。まだまだね」

「おや、たまには相手の本性を知るために敢えて、挑発に乗るのも社交での礼儀だとご指導いただきましたが、間違っておりましたか?」

「……本当に相手の揚げ足を取ることがお上手なこと。ところで」


 と、そこでマリナージュ嬢の青い瞳の視線が俺の顔より上に上がった。視線の先は予想はついている。きっと、今回のパーティーでは、ツッコまれるであろうと予想はしていた。


「この、まっ黒いものは何ですの? 先程から凄くお耳を立てて震えているようですが……」

「ヴィリンジ殿下のお気に入りの一つ、黒ウサギでございます。先に申しておきますが、魔物ではありません。むしろ、野生より鈍い動きをいたしますので、ご安心を」


 そう言って紹介したら、嚙みついてきた。ついでに手足の爪も立てている。何か間違ったことなんて言ったか? 間違ってないだろーよ。て、また髪を……お前、後で覚えておけよ。


「黒いウサギですか。とても珍しいですわね。まぁ、貴方が連れてくるぐらいだから危険な生き物ではない事は予想ついてましたが……ンフフッ」


 と、珍しくマリナージュ嬢がこんな場で素で笑った。いつもは仮面を貼り付けたお手本の笑みなのに……。

 マリナージュ嬢との俺の関係を話すなら、まずは俺のことから説明しなければならない。





 俺は、元々貴族ではない。まぁ、話し方から察するだろうが、平民の出だ。しかもド田舎な村で、周りにあるのは、一部の者に鼻や目等、困らせる花粉をまき散らす木しかない。因みに俺は大丈夫だ、問題ない。


 どうやって今の立場まで来たかというと、ある日、村に騎士をぞろぞろ連れた身なりの良い教会の者が来た。そいつは体も大きければ態度も大きい奴だった。村で思いっきり悪態つきながら、使える村の者を召し使いのようにこき使いまくった。滞在の間、村を荒らしていった。そいつの目的は、魔力の高い者を見付けることだった。

 貴族でも充分魔力が高い奴がいるらしいが、昔、魔王を倒すために魔力が最も高い者を勇者とし、国を救った者がいた。その者のことを勇者と呼び、その者の出は小さい村だったと言う。

 それから、城の宮廷魔道士という職は身分や立場に関係なく、最も魔力が高い者が就くことになったという。あ、王族は別だ。王族は血筋を守るため、身内の血を途絶えさせることにはいかないからだ。そんな歴史がある為、教会の者は宮廷魔道士がそろそろいなくなると思われる頃に、国中を巡回するという。お疲れのことだ。


 まぁ、皆が予想するどおり。俺はその教会の者に目を付けられ、王宮にあがることになった。因みに、歴代の王宮魔道士の中で二番目に魔力が高いらしい。一番は初代の勇者様だ。そんなことは気にしないがな。それに、俺は随分と幼いときに両親を流行病で亡くしてから、俺の居場所は村には無かった。俺の魔力の異常さは物心が付く頃から出ていたらしく、皆は俺を恐れ、化け物扱いした。見た目も非常に黒に近い髪色なうえに、目も紫と、暗い色をしていたから魔物を見る目で俺を見てきた。だから、ヤケクソで俺は王宮にあがった。どうせここでも居場所はないだろうと覚悟してだ。案の定、俺を見る目は村の奴と変わらなかった。

 俺が王宮にあがると同時に、後ろ盾の者が必要となった。そこで名が上がったのが、現伯爵のヴィジョン家だった。第一後継者の息子が既におり、身分もちょうど良い立場だという事だった。


 ……俺は非常に今思えば迷惑な野蛮なガキだった。


 人間に不信感しか持っていなかったあの頃の俺は、伯爵に当たった。ものすごく当たった。物理的に。しかし、伯爵はそんな俺の気が済むまで相手をしてくれたし、暫くは好きにさせてくれた。彼は、俺の方が魔力が高いが、魔力のコントロールが優れていた。その為、毎回、華麗に避けられては的確な魔力の命中により、惨敗していた。それでも俺は伯爵にぶつかった。こりもせずに。そんなある日、伯爵から声が掛かった。


「俺に勝ちたいか?」


 その日を境に厳しい訓練が始まった。気付けばどうでも良い人生だと思っていた俺に、目標ができた。


 生きる目的ができた。


 才能がそれなりにあったのだろう。魔力のコントロールを始め、いろいろな技を繰り出すことができた。その頃になると次は礼儀作法や勉学を習うことになった。勉学は城で行われた。そこで学友として共に学んでいたのが、マリナージュ嬢であった。と、言ってもマリナージュ嬢は屋敷である程度、座学は習っているらしく、俺より断然上を進んでいた。俺は無気力な奴だと自身のことを思っていたが、どうやら全く違ったようだ。そんな先を行き、見下ろす(これも勝手に思い込んでいることだが)マリナージュ嬢に勝ちたい、追い抜きたいと感じるようになった。


 マリナージュ嬢は俺にとって学友と言うより、ライバルな関係だ。今でもたまに負けてしまうことがあるが、良い立ち位置で付き合っていると思う。


 礼儀作法に関してはほぼ、マリナージュ嬢から教わった。人との駆け引き、相手の感情を引き出すやり方等。そのおかげで俺は、ただの人間不信で殻に閉じこもっているガキではなくなった。




 で、今に至る。

 本当に珍しいが……何を笑ってんだか。


 そんな、俺の呟きを読み取ったのだろう。マリナージュ嬢が、微笑ましいと言いたげに俺に目線を合わせた。


「いつもトガッタ態度を取る貴方が、頭にその子を乗せるだけで、とても印象が変わるんですもの」


 まるで兄弟でも見てるかのよう。



 ……は? コイツを頭に乗せただけでそんなに変わるもんか?


「無意識なのね。そんなところも貴方らしいけれど、その子のこと気遣っているように私は感じるわ」


 き、気遣う?


「貴方は、フィーのこととても詳しいのですね」


 と、真っ黒いのがマリナージュ嬢に話しかけてきた。少し興奮や混乱が収まり、場に慣れた様子だ。相変わらず耳は忙しなくピクピク動かしているが。


「まぁ! この子、話せるの? 凄いわ!」

「俺の開発したやつを使って話してるように感じるんだ。ほら、この首輪がその機械だ」

「ウサギの言うことが分かる翻訳器を造るなんて、相変わらず才能が生かされてるわね」


 そんな、俺達の会話に耳を立てていた貴族が、一気にわらわらと俺を囲んだ。


「ご機嫌よう、リンフィディ・ヴィジョン殿。今回はまた、我々の予想の斜めに行く物を発明されましたな!」

「ご機嫌よう、先程からこのウサギが気になるのですが……」

「うしゃー、おちゃべりしてー」

「すみません、この子まだ二歳になったばかりで礼儀が分からないので……」

「ミーちゃん、うしゃさんとあちょぶー」

「すみません、私は○×商品を扱っている者ですが、是非! リンフィディ・ヴィジョン様の発明品を我が商会で扱わせていただけないでしょうか?」

「こら! ミーちゃん、おやめ!」

「うしゃさーん、おみみがピクピクしてるよー? どうしたのー?」

「ミーちゃん!」


 あー……カオスやな。

 さて、どうやってこの場を乗り切るか。遠い目をしながら俺は、人々の中心で考えていた。

 こんなに好奇心で俺に近付く奴なんて、限られた人間しかいなかった。全てはこのまっ黒い物が呼び寄せた結果だ。こんな、人間に囲まれるなんて初めてだ。

 そんなに、俺の雰囲気は変わったのか、俺には分からなかった。


 さて、この雰囲気が変わったことで凶と出るか、吉と出るか。俺は小さく溜め息をついた。


 あー、早く飯にありつきたい。

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