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突然の来訪、突然の舞台への参加

「ねぇ、殿下。何、あの水色ナルシーは」

「あれは俺の学友だ。だが、あくまで学友であり、こんなに気軽に接してくるのはアイツだけだ」


 ほほぅ、確か、人間たちが知恵をつけるための集団行動をする場所があって、その場所で共に学んだ仲間を学友って呼ぶんだっけ? 殿下の学生時代かー。……この厳つい無表情を小さくした感じ……だと? 何その生き物。何を狙ってるんですか。恐怖を感じさせるんだったら、アンバランスすぎるのですが。ウケ狙いなら、斬新なウケ狙いだと、お腹抱えて笑ってさし上げますが。


「いや、あの、クロ様? その、みずいろなるしー、とは?」

「前にマーラさんが読んでくださった本で、自分に酔っていて周りが見えない、空気読めない人間のことをナルシスト、って呼ぶんだよね? で、髪とか特に強調された感じで水色でしょ? だから、水色ナルシスト殿下を略して水色ナルシー」

「……マーラは何をウサギに朗読してるのでしょう。そして、貴方の呼び名の付け方が日に日にレベルアップしているような……」


 あらあら、アルさんには負けますよ。呼び名の師匠はアルさんですからね。これからも宜しくお願いします。


「て、えぇ?! このウサギ、黒じゃないか! 危険だ! それに話せるとはこれは大変な魔獣だ! こんなの飼っちゃ駄目でしょ?!」

「コイツは確かに黒いがちゃんと理性がある。魔物ではない。後、話せるのはリンディが造った魔道具のおかげで会話が出来ている」

「リンディ? ……あぁ、君が自慢する最年少で天才だという、あの城のお抱え魔道士様?」


 ふーん、とか言いながら私のことを見下ろしてくる水色ナルシー。見るんじゃない! 見世物じゃないぞー。

 私は水色ナルシーの視線から逃れるべく、殿下の足の陰に隠れた。


「……クロ様、またお尻が出てますよ」

「アルさん、黙っててください」


 知ってますよ。お尻が出ていること。でも、これ以上、前に行くと今度は頭が出る。と、なれば水色ナルシーを見ることになる。水色ナルシーと視線を合わせるぐらいなら尻を見せた方がまだ、マシ。お前の視界なんて尻で埋め尽くされてしまえ!


「もう俺、幸せすぎてどうしよう。もう、足洗わない」

「何、乙女になってるんですか。ほら、水色ナ……ナラルディア殿下がいらっしゃいますからしゃきっとしてください」

「水色ナルシーなんて知らない」

「クロ様が殿下のカッコいい仕事姿を見たい、とおっしゃっております」

「ナラルディア殿下、遠路はるばるとお越しいただいたこと、嬉しく思う(キリッ)」


 ……アルさん、ほぼ言ってますよ。水色ナルシーって。殿下ー、こんな似たような感じの下り、前にもあったよ。アルさん、私をいちいちだしに使わないでください。


「あー、その荷物は僕の部屋に置いてくれたまえ。おっと君、部屋にお茶の準備をしてくれたまえ」


 水色ナルシー、内容は置いておいて、殿下よりテキパキと人を使いますな。あちらの方が忙しそうだ。先程の、殿下との馬鹿なやり取りを一切聞いてないようだ。素晴らしい。流石、ナルシー。一味違いますね。


「さぁ、ヴィリー! 僕の部屋はどこかな?! 案内しろ」


 本当にテンションが高くて面倒くさいナルシーだわ。殿下は私にカッコいいところを見せたいのか、そんな水色ナルシーにも動じない。否、動じるとかのレベルではない。目を鋭く水色ナルシーを見据え、無表情をさらに顔に力を入れて厳つさが半端ない。まるで、今から敵地を襲撃するような雰囲気を醸し出していた。


 あーもー、この人たちに囲まれるのは嫌だわー。私はその場をソロッと去り、うさの子たちのところへ行こうとした。


 ガッ!

ふひぃいいぃ?!


「どこへ行く? クロよ。俺と一緒にご案内してさしあげようではないか? な?」


 わたし、オワタ。殿下に背中からガシッと捕獲されました。アカン。

 今日、平和に過ごせるかな? ウサギは心に余裕がないとストレスたまりやすいので、平和を求む。

 そして、黒ウサギは強制的に殿下の筋肉によってプレスされた状態で運ばれていった。


アカーーーン。



「ふーん、まぁ、僕が泊まる部屋にしては合格かな。ところどころ、(うち)と似ているところがあるけど」

「城の形はあまり大差ないので馴染みがあるところもございましょう」


 アルさんを先頭に、水色ナルシーを部屋へ案内した。相変わらずの上から目線。流石、ナルシーだわ。できるだけ黒ウサギは、この水色ナルシーとは関わりを持ちたくなかった。真面目に接していたら、いちいちイラつくところを突いてきたりするからだ。こんな奴を部屋に案内とか、仕事とはいえ、こんなナルシーと関わるのは確かに敵地へ向かうような心構えも必要だろう。もー、殿下の雰囲気がピリピリしすぎて、自然と身を固まらせてしまう。


 くわばら、くわばら……。



 そうして、やっとアルさんより部屋の説明をしていただき、その場を後にした。ふぅー、これで暫くは会わないかな?


「ひとまずは大丈夫だな。……クロ、今夜はアイツを歓迎するためのパーティーがあるからな。まぁ、お前が欠席するなら俺もー」

「で・ん・か?」

「すまんが、鬼畜な執事がそれを許可しないと言うから、クロも来てくれな」


は?


「クロの着飾るところ、楽しみにしている」


は?


「ではな、また夜に会おう」


は? ……て、ちょ、おま、て、へ? と、とりあえず待てやー?!


 そんな衝撃的な話を聞きながら抱えられていると、いつの間にか殿下の私室に着いていた。で、殿下はそのまま颯爽と仕事の出来る男を演じながら、去って行った。


何、私に爆弾落としてんのよー! 帰るんじゃなぁああぁい!



「あらら、それではクロ様は何もご存じないのですね。それは誠に不便な思いを……」

「マーラさんは悪くないのです。全ては殿下のせいなのです」

「なんだか、最近、そのワード聞くようになったような……まぁ、それは置いといて、私からご説明しても宜しいでしょうか?」

「……すみませんが、宜しく願いたい」


 マーラさんはそれに対し、笑って受けてくれた。あぁ、私の癒やし。

 この隣国の王太子が訪問することは、急に決まったものであったという。手紙を受けたのはつい、二日前。王宛に一通の手紙を城の者が受け取った。手紙には〈第一王太子ナラルディア・サンバスターの観光研修により、○月×日より城へ滞在する。期間は一週間。急なことに申し訳ないが、準備を頼む〉といった内容だった。


 城は、それにより慌ただしく動いた。

 王太子の泊まる部屋の模様替え、物品の整理、迎えるための歓迎パーティーのあらゆる準備、貴族の方々への招待状の送付。その、招待状の返事から出欠席の確認……等々。あらゆる対応をしてきた。


 そして、今に至る。


 そんな話をしながら以前、お出掛けのときにやったレディの嗜みを着々とマーラさんは手を休めずに進めてくれた。


 まずは、お風呂で念入りに洗われ、マーラさんの魔法により、風で乾かしてもらった。櫛で優しく、丁寧に梳かしてもらい、また、こないだと違った香水を一かけしてもらった。真珠のネックレスを首にかけ、黄色いリボンをそのネックレスに編み込まれた。で、左耳に、白く小さい花を花束にしたアクセサリーで飾った。


「さあ、できました。フフッ、本日も大変可愛らしい姿ですよ、クロ様」


前の視察の時に着たフリフリ系の雰囲気ではなく、ロマンチックな雰囲気が出た仕上がりになった。


 わーお、ウサギ相手にこんなにも雰囲気を変えられるとは……本当にマーラさんは凄いメイドです。

 再び、鏡を覗き鼻をふがふがさせながら近づきます。で、両前足上げてバンザイの体勢へ。

ふむ、やはり自分のようだ。信じられないが。


 落ち着かない服装に、そわそわしてしまい、何度も鏡の前でぐるぐる回ってしまいます。


「それと、クロ様。今回のパーティーは招待状を送るほどのものです。いろいろな貴族……人間が集まります。きっと、クロ様を罵るような方もいるかもしれません。私もそんな人物はみすみす逃しませんが、気をしっかり持って挑んでくださいませ」



 自分に自信を持て、と。

 そういうことですか、確かに先程の話で招待状のことは聞いた。うん。だから、人もそれなりに来ることも予想がついた。

 ……つまりこれ、私のお披露目会みたいなものも、含まれているのでは?


「あ、今回は正式なクロ様の紹介はしません。クロ様は殿下と別々に行動していただきます。殿下は王太子、ナラルディア・サンバスター様と挨拶回りをするでしょう。クロ様はリンディ様と一緒にご参加するような形になります」


 へ? てっきり、殿下と一緒かと思った。そうか、あのチンピラ君こと、フィーと一緒に回るのか。まぁ、それならましかな?

殿下の周りは何かと眩しすぎるし。それなら私の精神状態も安定しやすいでしょう。

 殿下はあの、水色ナルシーのサポート側に行くようなら私のことを構う暇など無いでしょう。


 そう、自分を落ち着かせ、気を静めていると、ドアの奥から騎士によって訪問者を聞く。あぁ、フィーが、来たわ。

 人の目にさらされるなんてすごく嫌だし、初めてのことだから不安しかないけど……。


「どうにかなるよね……?」


 少しの現実逃避を胸に抱えながら、扉の前に立つ本日の私のサポート役である、フィーへと視線を上げる。

 きっと、大丈夫。フィーもいるし、私は一人じゃないから。


 そして、黒ウサギは舞台の場へと短い手足で前へ進んだ。

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