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あれから一週間たちました

 皆様、ごきげんようです。

 仲間たちと再会してから一週間たちました。

そのおかげで城の中は少し、浮き足だっている感じです。私も仲間たちが帰ってきたことが嬉しく、インドア派が毎日外へ通うようになりました。これで、少しは野生の勘が戻ると良いのですが……。え? あんなので戻るのかって?

 私がうさの子としていることは、森でやっていたことと変わりない。

 芝生で日向ぼっこしたり、木陰でお昼寝したり、木を齧ったり、庭に生えている草を食べたり、穴を掘ったり……で、またお昼寝したり。

 あれ? 寝てばっかりいるような……まあ、気にしないことにしよう。え? これだから野生の勘が鈍っているって? ウサギなので気にしません。私の力は、いざとなったらきっと復活するのでしょう。


 えぇ、こう……第三の目が開くー、みたいな感じで。


 ああ、穴掘りとか木を齧るのは、ちゃんと許可を得たものを使っています。大丈夫です。そんな、王宮の庭の木々の皮をべろべろにして、怪しい森みたいにしてません。穴も決められた土地の中でバリバリやっているのでNO, problem(問題ない)です。


 そんな、逢瀬でうふふアハハしてたところをウサギの掘った穴で、膝かっくんのごとくこけて台無しなんて見たくないです。

 例えば、城に部外者が侵入してきたとして、犯人が穴に躓いて、よっしゃ! と思った兵士が自分も躓いて台無しなんて見たくないです。

 ウサギは、悪戯しがちとか先入観を抱いている方が多いですが、それ等の行動には意味があるのです。

 家具とか木を齧ったりするのは、人間で言う、爪切りや歯磨きをソファ等で代用しただけです。ウサギ自身が使える道具が無いので、仕方がないのです。

 穴掘りはこちらも爪とぎの意味もありますし、ストレス解消の意味もあります。

 決して、「主人を困らせてやろーぜ、ぎゃははは」とか、思ってやっているわけではありません。人間がお腹空いたら食事するのと一緒で、ウサギの本能なのです。


 あ、話がずれました。戻しまーす。

 そんな感じで庭に、もふもふがのんびりしている姿を見て、癒やされようとする人の姿が増えた。


「俺、ここでやっていけるかなって、落ち込んでたけど……あのもふもふをずっと見られるなら頑張ろうって思ったよ」

「お前、前回もマイナス発言あったよな。どっかの話で。……まぁ、あの毛の塊見てたらそうだよな。平和って良いよな」

「可愛い~。そうだ! 明日、とびっきり美味しい葉物系を用意しよっと」

「貴方、まさかモグモグを傍で見ようって思ってるわけじゃないでしょうね?抜け駆けは卑怯よ」

「じゃあ、先輩も一緒にうさちゃんたちの為に収穫しましょう! ね? それなら、良いでしょう?」

「………それなら、仕方ないわね。やってあげるわ」


 私には、何のことだかさっぱり分からない内容だが、少なくとも、城の中が今日も平和だと感じた。後は、どういう経緯か謎だが、友情が育まれているようだ。良いことです。


「なぁ、あそこのオーラやばくね? 誰か不法侵入者でもいるんじゃね?」

「バッカ! あれは殿下のオーラだよ。ほら、近くに呆れ顔で恐い顔を相変わらずしているアルヴァルト様がいらっしゃるではないか」


 ……そうですね。そこにいつものように殿下いますね。はい。この一週間、一番何が気になるって、殿下のストーカーがヤバいです。

 一応、傍にアルさんが見守ってくださっているので、何事もないですが。私を含めたウサギたちを凝視しています。で、すんごい小さい声で「もふもふいっぱい埋もれたい撫で回したいじゃれ合いたいモグモグまだしてない埋もれたい」を連呼している。

恐い。息継ぎいつしてるの? 恐すぎるわ。下手なホラーより思いがこもっていて、呪いの力がUPしているわ。そして、まだ、モグモグをしたいことが頭から離れてなかったか。貴方の視線が痛すぎて避けているのだ。気になって食事どころではなくなるわ。てか、食欲が激減するわ。


 だから、その視線を止めてぇええぇえ! (切実)


 仕事はどうしたんじゃー!

 と、思ったらアルさんが書類を殿下に手渡している。よくよく見ればアルさんの傍に書類がたくさん入った箱が控えていた。その中の書類を殿下はハイスピードで片付けしていた。……もう、人間って凄いね。


『ねぇちゃあぁぁあ。こ、恐いよぅ。』

『うぇーん。ほ、本当に、おねーちゃんが言っていた優しい人なのぉ?』


 ほら、殿下。逆効果ですよ。クロの仲間なら俺に懐くかもと、以前植木から出て仲間に近付いていったが、皆様文字通り脱兎のごとく逃げ、隠れました。モノクロは早く動けないので、その場でべちゃっと転んだ後、身を縮ませキーキー鳴いてた。もう、身をぷるぷる震わせてあまりの怯えように、私は傍に行って慰めた。そこで言ったのが、


「大丈夫、確かに大きくて筋肉が凄いけど優しい人だよ」


 しかし、私と殿下が会った時を思い出して欲しい。肉食動物にしか感じられない見た目だったのだ。無念である。流石に見た目はカバーできない。後は本人次第だ。頑張って肉食動物じゃないことを証明しなくちゃ!

 そう、本人に伝えたら、本人は「俺は肉食動物じゃない、雑食だ!」と言った。ウサギたちの中で、つまりは何でも食べる→ウサギも食べるってことじゃないかぁああぁ! とさらに怯える対象になったという訳だ。残念である。


 普段はこんな様子で日々を過ごしているが、私の知らないところで禁忌の魔物についての調査もしている。


 そして、こないだの仲間たちがなぜ、あんなに離れた森からこの地に来られたのか。または森での出来事を何か知っているか、聞き取りをした。本人たち……うさの子たちによると、自分たちはそれぞれ巣穴の中に帰っていたとのこと。そして、就寝中になかなか寝付けないでいたら薄茶の子の親が急に起きたという。親は「今から外に出るけど、お前は穴の中(家)にいて」と告げて外へ様子を見に行った。


 親は何を感知したのだろうか、自分たちには何も感じるものはなかった。そして、親はそれっきり帰ってこなかった。


『私たちもはっきりと何があったか分からないの。私たちは帰りが遅くなっちゃって、夜に巣穴へ向かって帰路に就いていたのだけど……』


 大人の白い雌ウサギとグレーの雄ウサギは、僅かだが森が無くなり始める部分を見たという。

 もうすぐ巣穴へ就くというときにあれは起こった。急に木々が強い風でざわめいたと思ったら、地からとても言葉では言い表せない程の闇の気配を感じたという。


『僕はすぐに彼女を巣穴に押し込んだ。それに続いて僕も中に入ろうとしたんだけど、その際に後ろを振り返ったんだ。…そしたら』


ーー地から感じる闇が、ものすごく大きな模様に浮かび上がって森を覆ったんだーー


 闇の模様は森を食らうように、高い木等から侵食していった。

 グレーは、悲鳴を上げてすぐに巣穴に入った。先程見た光景があまりにも衝撃的で、何が起こっているのか分からなくて、お互いに身を寄り添わせてその場をやり過ごした。


『でも、不思議だったんだ』

「ん? 何が?」

『穴の中に入って暫くして気付いたんだけど、穴の中に入ってから何も感じなかったのよ』


 だから、穴の中にいたウサギは気付かなかった。しかし、それなら親は何を感知したのだろうか。


『……それは、僕の悲鳴だと思う。僕の声から何かあったのだろうとアイツらが気にかけてくれたんだろう』


 しかし、そのせいで仲間たちはいなくなってしまった。


『っ、僕が悲鳴などあげていなければっ…。アイツらはっ……!』


 その後、日が高くなる頃に穴からそれぞれ顔を覗かせてみたという。そこで見たものは(まさ)しく私と同じ、無惨な森の姿であったという。

 グレーはそのことにとても胸を痛めており、今も庭で仲間たちといるが、木陰でただずんでいるだけだ。


 さらに、日を改めてどうやって離れたこの地まで着たかを聞いた。


 とりあえず、残った仲間を掻き集め、自分たちが暮らせる場所を探すことにした。しかし、幾日経っても水や食べ物がある場所にはたどり着けない。目の前はただ、枯れ果てた地が広がっているばかり。それでもひたすら、楽園を求め道を進んでいるとやっと小さな村が見えた。その村の中にあった厩舎が目に付いたので、行ってみると小さな茶色い馬が二頭、繋がれていた。最初はビクついたが、馬がウサギたちを厩舎の中に通すように避けてくれた。恐る恐る近付きながら中を覗けば、僅かな水と干からびた人参の欠片と馬の寝床用なのか、枯れた牧草が敷かれていた。

その日は何日かぶりの食事を平らげ、馬の影に隠れて牧草の上で仲間で固まって夜を明かした。


 早朝、僅かに日のひかりが見え始めた頃、急に視界を遮られ、狭く硬いものに入れられた。どうやら木でできた箱らしい。そして、どこかへ運ばれているようだと分かったが、それだけ。どこへ向かっているか分からない。しかし、あんなに乱暴に自分たちを扱ったのだ。行く先は碌な場所ではない。幸運なことに入れられているのは木の箱。皆で齧りまくった。顎が痛かった。自慢の歯が削れていった。でも、ここでくたばるなんて絶対嫌だ。お互い必死に齧った。どれくらいたったか……ようやく、一匹出られるような穴ができたところで脱出。自分たちの他に生き物はいないみたいだが、いろいろな箱が積んであった。痩せこけた男の人間が二人いた。一人は馬を操って運んでいた。一人は荷物の中に埋もれて寝ているようだ。

 そんな、荷物から静かに飛び降り、建物の陰に奥に身を潜めた。

 再び、自分たちの楽園を求めて動きだそうとした。しかし、ボロボロな服を着た子どもが向かいの道から現れた。数は三人。また、攫われたら大変と逃げ出した。しかし、一番小さいモノクロが逃げ遅れてしまった。


「ねぇ、あそこに何かいる。……ウサギ?」

「食いもんか……食いもんが……ある!」

「捕まえるぞ!」


 子供の人間はそう言うやモノクロに飛びついてきた。もう、駄目かと思った時だ。あの、クロとの再会の時につながる。





 私は殿下にそのことを報告した。少し、仲間たちの苦労に胸を痛め泣いてしまったが。殿下は黙って聞いていた。話し終わると、少し椅子に座り続け、静かに立ち上がった。大きくて温かい手が私の頭を覆う「報告、ご苦労。後は任せろ」と言った。


 本当に、狡い人。

 ウサギ相手にこんなに真剣になって対応してくれるなんて、貴方だけだよ。

 私は自分の感情をごまかすように「ウサギ相手に何バカ真面目になってんの。そんなの殿下だけだよ」って、毒づいた。そしたら……。


「だったら、お前より大きくて、恐い奴相手に素でいてくれる小動物はお前だけだ」


ほら、お互い様だろ? って感じで、得意げな顔を私に見せた。

 本当に、狡い人! そういう人だって分かっているから、安心できるのよ……。


______________________



 それが、つい昨日の話。

 昨日のカッコいい殿下なんてどこにもいやしない。ハイスピードで人間の限界に挑戦している姿を呆れた眼差しで見ていると、一人の騎士が殿下の傍に寄ってきた。


「殿下、先程隣国の第一王太子、ナラルディア・サンバスター様がお見えなったのですが……」

「どうした、何か問題でも?」

「問題と申しますか、到着早々……」


 と、何やら面倒なことが起こった様子を私も少し不安になってそのやりとりを見つめていたとき。

コツコツという軽快な足音と、ガチャガチャと鉄がこすれ合う音と「お待ちください!」と、焦る声が聞こえてきた。それが、段々と近付きー……。


「おぉ! これが殿下を変えたという噂の獣か!」

「……ナラルディア殿下、ここまで足を運ばれるとは、何か問題でも?」

「あ! ヴィリーじゃないか。早速、噂の獣のところにいるとは……健気になったな! 早くもヴィリーの変わったところが見られるなんて嬉しいよ。アハハッ」


 水色のロングヘアーをした、なんだか失礼そうな隣国の王太子がやって来た。

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