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仲間との再会

「モノクロの子ーっ!」


 叫ぶと同時にモノクロは、薄汚れた短髪の子供に細い足で蹴られた。その勢いのまま道を塞ぐ石壁に激突し、崩れ落ちた。

 私は、そんなモノクロの姿にたまらず、殿下の肩から飛び降りてかけより、蹴り上げた子供をキッと睨み付ける。

子供は私の姿を目にして、蹴り上げた子供の他に……計、三人のうちの一人が「黒……? ま、魔物!」と、気付いたようだ。他の子たちもその答えを聞くや、怖じ気づいたようだ。


 でも、そんなことは知らない。知らないし、許さない! だから、何だって言うの? モノクロが貴方たちに何をしたって言うの?

 こんなに、元々小さい生き物なのに、さらに小さいモノクロが貴方たちに、何か危害など加えたとでも言うのか!


 私はモノクロの前に立ち、怒りを目に浮かべ、目の前の三人組を睨み付けた。


 子供等はそんな私を恐怖の眼差しで見続け、何度も足をもつれさせながら、後ろへ下がる。そして、私がその子たちに向かって一歩近付けば、声にならない悲鳴を上げて、様子を見ている殿下とアルさんの隙間を強引に抜け、逃げていった。

 ふん! 悪戯で私の可愛い子たちをいじめるんじゃないっ! と、私もそんな子たちの姿が完全に消えるまで見続けていると、小さく後ろから『ねちゃ……』という声が聞こえた。


 あぁ、久しぶりに聞いた、その呼び名。(まさ)しくあのモノクロだ。その声に反応して後ろを振り返る。


『ねちゃ……? ねちゃが、見える……』


 と、意識が曖昧であり、大変体力が消耗している状態のようだ。


「モノクロの子、しっかりして! 今、助けるからっ!」


 私は今にも息が絶えそうなモノクロの体に、頭を擦りつけながら呼びかける。


 どうしよう。このままじゃ死んじゃう……! どうにか……どうにかできないのっ?! どうしよう、どうしよう、どうしようっ!

 

 ただ、私は心の中で焦りが募るばかり。自分が何もできないことに不甲斐なさを感じていると、頭を優しくポンっと、大きな手のひらが包み込んだ。


「大丈夫だ、焦るな。今から応急処置して対応する。大丈夫、コイツは助かる。そう、信じろ」

「……でんか。ありがとうございます」


 殿下から励まされ、私は落ち着きを取り戻した。そうだよね。こんな時だからこそ焦っては何もできなくなるし、失敗が多くなっちゃうもんね。だから、礼を言い、改めてモノクロと向き合う。

 あの別れた日よりも随分と痩せこけてしまっている。何故、ここにいるかは分からないが、食べ物をあまり口に出来なかったことは分かる。ところどころ、怪我を負っており、血が滲み、モノクロの毛に乾いた血が付着していた。

 とても、痛々しい。あの頃の面影がかなり薄れていた。


「クロ、お前も念じておけ。思いは力になる。だから、コイツを励ましてやってくれ」


 再び、殿下は私の頭を優しくぽんぽんすると、そう、教えてくれた。

 思いは力になるー……なら、願おう。モノクロの傷が治りますように。(もと)の元気なモノクロに戻りますように。

 強く、強く願った。もう、仲間を失うのは嫌だ。あんな悲しい思い、もうあの日だけで充分。



お願い、モノクロ……目を覚まして。



 そう、念じる。一生懸命。念じれば念じるほど、不思議と体がぽかぽか暖かい何かに包まれていくような気がした。そうして、一層熱が膨らんだとき、不意に私の顔に柔らかいものがすり寄ってきた。目を開ければー……。


『……ねちゃ、ねーちゃ! ほんとうに会えたんだっ! うぅ、ねーちゃぁ。会いたかったよぉ』


 ズビズビ泣いて、体を必死に私にこすり付けてくる、見慣れた……元気になったモノクロの姿があった。

 あぁ、この舌っ足らずな話し方……懐かしい。あの、モノクロだ。

 私の存在を確かめるように、ぎゅうぎゅうと擦りつけてくる頭を受け止めて私も応えた。


「私も……ずっと、ずぅっと会いたかったよ。久しぶりモノクロの子」

『っ! ねーちゃぁあ!』


 モノクロは私の言葉を聞くとホッとしたのか、涙声で呼び、さらに全力ですり寄ってきた。


 もう、無くしたくない、無くさない。このぬくもりを私は守ってみせる。

 そう、胸に誓った瞬間だった。


______________________


『本当におねーちゃん?!』

『わぁ、本物のおねーちゃんだ……。うぅ~、ここまで来るの長かったぁ』

『おねーちゃん? 本当にあのおねーちゃん? あの、真っ黒で日中だと、目立って離れても目印になるから便利だけど、暗くなると真っ黒同士で分かり辛くて面倒くさかった、あのおねーちゃん?』


 あれから、モノクロの子に他の仲間もいるのか聞くと、『ぼく、よんでくるー』と、てってけ行ってしまったので少し待つと、数羽の仲間が建物奥から出て来た。

 そして、私が面倒を見ていた子供たちがわらわらと私を囲んで、“おねーちゃん”を連呼してきた。……最後の薄茶の子よ、貴方、私をそんな認識でいたの? 目印代わりだったの? ちょっと、酷い言われようじゃない?


 まぁ、そんなこんなでモノクロを含め、全部で六羽の仲間が集まった。

 モノクロの子、薄茶の子、白いウサギ、グレーのウサギ、垂れ耳の濃い茶色の子、毛の長い茶色と白模様の子。

 モノクロの子は先程……そう、私の魔法で回復させた。

 なので、モノクロの体は大丈夫だが、他の仲間は大分、痩せこけていた。擦り傷や体が汚れている子もいる。


 先程、モノクロにやった魔法は治癒魔法。


 治癒能力を持っているためか、自分だけでなく、相手にも与えることができた。しかし、この治癒魔法も万能ではない。

相手の体力、気力によって回復がその分できるのだが、相手のそれらの力が低ければ、あまり、回復はできない。先程のモノクロがそうだった。

 しかし、私が無意識にモノクロへ自分の体力も分け与えたことにより、ほぼ、完全な回復ができたのだ。

 なので、今の私は結構怠い。非常に怠い。地面とべっちゃりくっついている。うごぉおお。怠いぃいい。

 本当は先程、モノクロが仲間を呼びに行くとき、自分も付いて行きたかったが、体の急激な怠さを感じ、動くことが出来なかったのだ。


 後残り、五匹……。流石に私が持たない。


 回復させるにも、自分が回復できてないため、モノクロみたいにはできそうもない。

そのことに落ち込んでさらに地面に沈んでいると、私の傍に来て跪く姿が視界に映った。


「クロ様、私も治癒魔法は多少、扱うことができます。なので、安心してください」


 アルさんはそう私に端的に告げ、安心させるように、にっこりと笑顔を向けた。いつもの裏のありそうな笑顔ではない。本当に私を心配して、仲間を助けようという意思が伝わった。


「では、アルがクロの仲間を回復させている間、俺は近い場所に馬車を持ってこよう」


 殿下はそう言うや、馬車のある方へと走り去った。



 ……筋肉が走る姿、初めて見た。



 不謹慎にもそんなことを思ってしまった。すみません。

 しかし、殿下が運動していることは知っていたが、基本、殿下の私室にいたので、あんなに動いている姿は初めて見たのだ。それに……。



 走る姿はまるで白い獅子のようだった。



 殿下の白く長い髪がなびき、勇ましい走り方を見たらそんなことも密かに思った。……まぁ、言わないけど。誰が墓穴を掘るようなことするかぁああ!

 そんな、馬鹿な思考の後、私は黒いまどろみに身を任せ、意識を手放した。





______________________




「クロ、おはよう。無事、お前の仲間等は回復していってる。アイツ等は魔力がとても低かったから今回のことに巻き込まれても、助かったようだ。なぜ、あのように痩せた体で、あの森……単騎で行っても、二週間以上はかかるはずの場所から、ここ王都まで来られたのかはまだ、分からないが」


 昼前に目覚めた私は、殿下からそう報告を受けた。


「でだ、アイツ等はお前の客人だ。丁重に迎えようと思う。かと言って俺の私室に六匹もペットを置いておけない。なので、庭にウサギ専用の屋敷を建築することになった」


 これで、仲間に毎日会えるな、ハッハッハッ! と爽やかに告げて颯爽と私室から出て行く殿下。



 ……ねぇ、最後。

 最後のあれ何? 寝起きの頭になんていうものを投げてくるんだ、あの筋肉は!

 ウサギに屋敷?! 丁重の意味分かってる? 人間なら確かに立派なところへ案内しなきゃだけど!


「ウサギは隅っこが落ち着くんですー!」


 そう私は叫びながら、出て行った殿下を追い掛けようと、扉でカジカジ音を立て、引っかいた。クロさんもなかなかにずれたツッコミだが、ここにはそれを指摘する者などいない。


「いや、そこじゃないでしょ。ツッコむのは。ウサギの為に庭に屋敷を建てる方にツッコまないといけないんじゃないの……?」


 いや、来ました。扉の向こうからやって来ました。


「あら、チンピラ君。ご無沙汰です。おはようございます」


 扉が開いたと思ったら、チンピラ君が入ってきました。何のご用で来たのかしら? お久しぶりですー。


「ち、チンピラ、く……ん?」


 と、チンピラ君は名前が気になっているご様子。そうか、この翻訳機で呼ぶのは初めてだっけ? ふむ、では説明してあげよう。


「赤髪がツンツンしてて、目つきが鋭いし、話し方がチンピラだから、チンピラ君。後は、態度とか。ほら、その椅子の座り方。敢えて普通に座らず反抗的に座り、気だるい感じがカッコいいんじゃね? と勘違いしている感じがチンピラだから、チンピラ君。ぴったりの名だよ」

「……おい、それ、誉めてねーよな? あ? ぴったりの名だよ、じゃねーよ。俺には、リンフィディ・ヴィジョンって、いう名があんだ。そっちで呼べ!」


 O h……。なかなか覚えにくいですな。てか、今、呼ぶんですか。呼ばないと駄目ですか? チンピラなんて呼ばさねー? 分かりましたよ。呼びますよ。……えーと。


「……りん、っ?」

「リンフィディ」

「るんひでぃー?」

「リ、ン、フィ、ディ!」

「……フィー、じゃ駄目?」


 早くもお手上げ。駄目でした。私には覚えられない。てか、言いにくい! ウサギの世界では名前なんてなかったし、色で呼んでいたから覚える習慣がなかった。

 覚えたとしても嚙みそうだよ。嚙む自信しかない。うむ、私は絶対嚙むだろう。(キリッ)


「なんで、凜々しい態度になってんだよ。……まぁ、最初のあだ名よりは良いから……許してやろう」


 ははぁ、寛大なお言葉をありがとうございますー。ありがたいですー。


「なんか、馬鹿にしている感じしか感じねー。っと、そうだ。お前の仲間等、さっき目ぇ、覚まして庭に遊んでんだが、お前も来るか?」


 え?! もうあの子たち元気なの? 庭で遊べるぐらい元気ならもう、安心ね。久しぶりだし、私の体力も回復したことだし、構ってあげよう。何せ、おねーちゃんだし!

 そう結論しいた私は、チンピラ君こと、フィーに案内してもらい、庭で遊んでいる仲間の元へと向かった。因みに、肩車みたいにフィーの肩に乗り、前足と顎を頭に乗せた状態で向かいました。

 なぜ、このような体勢になったかというと、私がフィーの足の速さに追いつかず、思わず背中にしがみ付き、よじ登って落ち着いたところがそこだったからだ。ふぅ、これで楽だわ。


「やべー。もふもふが首回りに……」


 ほぅ、と息をこぼすがすぐに、はっ! となり元のチンピラモードに戻るフィー。……そんなに、そのキャラを保たせたいのか?


『あ! ねちゃ!』


庭に着くと、一番に私の姿に気付いたモノクロがてってけと寄ってきた。まだ、小さいので手足も短く、上手く体のバランスが取れないのだ。何とか、フィーの足下に来て私に向かって、その短い手を伸ばしてきた。


『ねちゃ、遊ぼー?』

「うっわ、クッソ可愛い……」


 フィーさん、分かりますよ、その気持ち。モノクロは一番小さいからね。何しても癒やされる行動をしてくれる年頃なのです。


「うんっ! 遊ぼー。そうだ、綺麗な花があるところに案内してあげる!こないだ庭に来たとき見付けたの」

『あっ、おねーちゃん! 私も連れてってよぉ』

『おねーちゃん、私も仲間にいーれーて!』


 私がモノクロの前に降りて、提案をすると、耳の良いうさの子たちがわらわらと寄ってきて、もみくちゃにされた。はわわわ。

つ、連れて行くから! 焦らないで~。


「……何あれ。あの塊。すんごい埋もれたくなる」

「そうですね~。あれはかなり癒やされますね。……だから、殿下、気持ち悪いです。……はぁ、せめて鼻血は垂らさないようにしてくださいね。私、シルクのハンカチしか持っていないので」


「~~~~っう、ぐぉほぉうっ! 毛玉のっ……パラダイスッッ! ヤバいっ!」

「貴方の呻き声の方がヤバいですよ、殿下」


 黒ウサギが仲間のうさの子にもみくちゃにされている様子を見て、周囲にデレた顔をしそうなことをばれないよう、必死に顔の筋肉が強ばらせて耐えるチンピラ。


 密かに後を付いていく殿下のお供をして、その癒やされるもふもふの光景に見惚れたいが、隣の残念筋肉のとても気持ち悪い悶えように我慢ならず、ブリザードを巻き上げながら悪態をつく執事。

 その執事を伴って、魔道士がクロを連れて行く気配を執務室から察したので、柱の陰に隠れながら追行してみると庭に出ていた毛玉が、クロを囲み、ふんす、ふんすと鼻を鳴らし合いながらじゃれ合う姿がたまらないっ! と、これまた器用に大きな図体を傍にあった植木の陰に隠して悶える筋肉。

 それを少し離れた位置で見守る黒ウサギの護衛たち。彼等はとても優秀なので空気を読むことに長けているのだ。


 再びカオスな世界が昼の庭で繰り広げられていた。


 今日も城は、大きな問題を抱えつつも、もふもふの毛玉と濃い面子のおかげで暖かい日々が続いておりました。

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