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真実の先の現実

ブックマーク1800突破!そして、たくさんの感想ありがとうございます。お陰様で異世界転生ランキングにて、日間ランキング1位、週間ランキング2位になりました。皆様のおかげで私も楽しく書かせて頂いてます。

 穏やかに続くと思っていたの。いつまでも、平和な森で周囲の仲間と生活していくんだって。


 刺激が無くて物足りないと感じるものもいたけれど、結局はそこの生活は手放しがたいもので、誰もその森から出ようと思うものなどいなかった。


 暖かい日差しをたっぷりと浴びた森は、たくさんの恵みで溢れていた。

 透き通るほど綺麗で、冷たくも穏やかに流れる小川。木々にはそれぞれの木の実が色づいており、甘味(あまみ)が凝縮され、口に含めば甘い実が弾け頬が思わず緩んでしまうほど美味しいものが、あちこちにあった。それがよく、森のものと取り合いになっていたが、最後には皆で分け合ってその美味しさを共に嚙みしめた。

 お昼になれば柔らかい草花の上で寝転がって、ウトウトと瞼を閉じ、皆で寄り添いながら眠った。

 夕方になると親が子を迎え、それぞれ親と子が寄り添い、またね、と言い合って、暖かく居心地の良い場所へ帰る。


 

 そんな……そんな森の生活が変わらず明日も来ると当たり前のように思っていた。


 なのにーーー……。



 それは、無惨にもなくなってしまった。



 途方に暮れた。理解が追いつかなかった。夢であって欲しいと願った。

 でも、どんなに見続けても、どんなに願っても何も変わらなかった。

 頭の中も自分が立っている場所も、真っ暗闇に落ちたみたいに、ユラユラ不安定に揺れ、崩れそうになった。



 そんな時に来た貴方は、とても奇跡のような存在に思えた。



 貴方に会えたこと、そして、共に暮らすことを許してくれて……願ってくれて、本当に感謝の気持ちでいっぱいなんだよ?

 だから、物語の定番な流れだけど恩返しがしたい。こんな私ではできることがとても限られているけれど、一生懸命、頑張るわ。

 たとえ、どんなに酷なことを貴方が告げようとも、私の貴方に対する気持ちは変わらない。


 それも、私のために告げる言葉なのだから受け止めてみせるわ。



_____________________



「結論から言うと、森でのことは魔物の仕業だと明らかになった」


 しかし、その魔物は普通の魔物ではない。あらゆる自分の力の糧となるものを取り込み、長い眠りから覚める。覚醒した暁には地獄をその目で見ることになるだろう、という生き物。


「その魔物は禁術を使って覚醒する。現在、我が国では、あらゆる所で被害が起こっている。ある村は家々はあるが、人が全員行方不明。あるところでは作物が無くなり、そこの住民は飢饉に見舞われている。そして、数々の鉱石を含んだ山々が灰になったりしている」


 そして、私が住んでいた森……そこの森は実は、魔力が豊富に含まれていたという。その為、より豊かな森で魔力を含んだ自然が、溢れていたとのこと。そして、それらを口にしているものも、上質な魔力が血肉となった生き物へと存在していた。それらが例の魔物に目を付けられ、ことは起こってしまった。



「まだ、なぜそのような魔物が今頃、力を得ようと動いているのか我々も調査中だ。だから、現段階で分かっているのは、不可思議な被害の原因はその魔物であると分かっただけだ」

「今頃って……。その魔物は何年、眠っているのですか?」

「ざっと三千年だ。この国が建国される頃にそやつは眠りについた。否、眠りという名の封印だな」


 三千っ……。途方もない時間だ。そんな長く封印されていた魔物。それが覚醒したとき、地獄を見ることになるって言われるようなものが本当に目覚めてしまったらどうなってしまうのか?

 想像を絶する光景となるだろう。そう、考えて自然と体全体が震えた。あまりの未知なる恐怖に、耳もいつもはピンと張っているのに伏せてしまう。


 そんな、おっきいものに私の大切な仲間たちは生贄となった、と…。


「っ、本当にお前には酷な話だと思う。だが、森でのことを考えると下手な期待はしない方が良いだろうと思う。だから……お前の大切な共にいた仲間は恐らく、クロ以外のものが存在しているか、というと厳しいだろう」


 皆……皆、本当にいなくなっちゃったの? またねと別れた子たちはもう、存在していないの? 会えると思っていた仲間たちにまたねと、もう二度と言えないの?

 何となく、予想はしていたけれど……本当に最悪な考えの方が現実だって?


「私、薄茶の子にまたね、って言った」

「……あぁ」

「また、遊ぼうね、って約束した」

「……そうか」

「その子のお母さんにもまた明日もお願いねって、頼まれた。本当に助かるわって」

「……」

「殿下、これは本当に現実? もう、私は……帰る場所も……明日会えると思っていた仲間たちにも、……っ、あ、会えないのぉ?」

「……っ、すまないっ」


 私は自分で口にする言葉を聞くたびに思いが溢れ、最後には小さくなって言葉が詰まってしまう。

 そんな私に対し、殿下はなぜか謝罪してきた。別に殿下を責めていたわけではないのに。あぁ、でも言い方があれでは、勘違いもするか、この人、お人好しだなぁ。……でも、今は殿下にかけてあげられる言葉は今の私からは出ない。


 切実に堅く目を閉ざし、耐えるように、今まで以上に無表情で頭を下げてくる殿下。その姿がまた現実味を実感させた。


 仲間はもういない。死んでしまった。私以外。皆。全部。


 美味しいとモノクロが言っていたタンポポや木の実も。皆と昼寝した木陰や草花。暑い日に大はしゃぎした穏やかに流れる小川も。



 全部、全部……無くなってしまった。


 あの、暖かいぬくもりは消えてしまったのだ。




 私はウサギ。声も発達してないから出せない。涙も流せない。



 あぁ、私には何もできない。涙を流すことも。声を上げて泣くことも。

 私は身を硬く丸め、顔を伏せる。目も閉ざす。耳も張らさず、下へ下げる。

 予想はしていた。でも、受け止めるには、あまりにもこの身では耐えられなかった。

 あぁ、帰りたい。あの場所へ。

でも、今はその暖かいぬくもりのあったあの場所は消えてしまった。仲間と共に。


 ただ、ただ室内では重い押し殺した空気と、私のか細いキーキーという鳴き声だけが響いた。





 さよならも言えなかった。私には何もできない。できなかった。





 また、私は役立たずな存在になったのね。


 過去の私がそう呟いたような気がした。

挫折しながらも、懸命に小さい存在は現実を受け止めようと頑張っています。

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