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序章 旧5話 紅蓮の魔術師

序章旧5話、ペルソナ視点です。

炎の矢(ケオ・ヴェロス)


 どれだけ放っただろうか。

 術式を刻んだ術杖と紅蓮の仮面のおかげで、威力や連射スピードの割に、MP(マジックポイント)は減っていない。それでも、地図(マップ)からでも想定できる戦闘距離と、MPの消費量と疲労度、自然治癒力を考えた時、エネロにたどり着く頃まで二割残るかどうか、というところだ。


 そう。

 今のままであっても。


 一匹あたりで数えるとわずかしか増えないとはいえ、これほどの森狼を殲滅しているのだ。多少なりとも経験値は蓄積されていく。パワーレベリングを推奨しているのかいないのかわからない幻界(ヴェルト・ラーイ)のシステムでは、PTで分割配布される経験値を受け取るためには、ただPTに加入しているだけでは足りない。何らかの貢献が必要となる。直接攻撃、間接補助、支援回復……。

 そもそも直接攻撃しか貢献手段のないレベル二の短剣士であるユーナには、つらい状況だ。彼女を前衛として攻撃の矢面に立たせるとか、殿の剣士(シリウス)と組ませるなど論外である。即死する。

 逃亡しながらの戦闘でなければ、包囲網を潜り抜けながらでなければ、瀕死になった魔物の止めを地味に刺させてやるだけでも、安全で簡単に彼女のレベルは上がっていただろう。

 それが初心者のためになるかどうかはさておき。


「ペルソナ、ここで少し引き止めて下さい」

「――了解」


 弓手(セルヴァ)の指示がPTチャットとして耳元で聞こえた。こんなふうに声をかけてくるのは初めてかもしれないなとどこか遠くで考えながら、了承を示す。「今? ここで? 正気か?」と言いたいことはあったが、前門の魔幼虫、後門の森狼である。いくらセルヴァの腕でも、ユーナを守りながらの先行はきつい。せめて後ろからの攻撃だけは防ごうと思った。


 即ち、攻撃は最大の防御である。


 選んだ術式は、術杖に刻んだものの中でも最長。それだけでは足りず、いくつかの魔術文字を杖先で宙に描く。


「ペルソナ!?」


 少し開けた場所で足を止めたこと、術式やその範囲を理解したのか、シリウスが森狼を三匹まとめて剣風で吹き飛ばしながら、声を上げた。この直後にボスクラスの出現があれば、苦しくなるかもしれない。それでも、今は時間を稼ぎたかった。

 森狼が連携して、周囲に位置取る。最優先攻撃対象であっても距離があるユーナよりも、今は術式詠唱中の俺を狙うはずだ。シリウスと俺と自身に対して一斉攻撃が来ると予測を立てただろうアーシュは、きっとあれを選ぶ。「シリウス、来い。アーシュ、守れ」PTチャットで言い放つ。


炎舞昇華(イグニス・エクスハティオ)

聖域の加護サンクトゥアリウムをわれらに!」



 伝わる、と。

 信じたのは、いつからだろう。




 視界が紅蓮と加護の光に染まった。

 レベル二十五になって組み上げた、現時点で自分に使える最高の火炎魔術はMPの二割を奪う。この世界の魔法は旅行者プレイヤーを避けるなんて器用なことはしてくれない。攻撃範囲や方向、対象を指定することができる程度だ。発動条件を細かく設定すればするだけ、火力を犠牲にしてしまうことは経験上知っている。よって、こうなる。


 自分を中心に半径1メートルの放射円を描き、残りは灼き払う。その名の通り、舞い上がった炎が渦となり、触れたものは蒸発させる火力を誇る。包囲していた森狼が次々と砕け散るのが見えた。

 あと一歩、シリウスが下がるのが遅ければ、火だるまにしてやれたかもしれない。


「おま……っ、危ないって!」

「チッ」

「バカやってないで! 残り行っちゃうわよ!」


 相当数を確実に仕留めたにも関わらず、まだ光点は残存していた。術式発動を終え、優先対象でなくなった俺を放置して、攻撃範囲から逃れた森狼が迷わずユーナの元へと向かう。視線をそちらに向けて、既に無数の赤い目がないことに安堵した。まあ、大丈夫だろう。

 足元にあるドロップくらいは拾っていくかと回収スキルを選んだ時、フラグを立てられた。


森狼の頭ウルフヘッドが沸くかもしれないからな、これ以上派手なのは温存しとけ」


 走りながらの釘刺しに、いろいろ遅さを感じる。遠ざかるシリウスを横目に、疲労度スタミナゲージの回復を待つために、少し座り込んだ。


「――いや、もうないんだが」

「だと思ったわ」


 べしっと仮面にぶちあたった布袋が、地面に落ちる。拾い上げて中を見ると、疲労回復とMP回復の丸薬ピルラだった。小指の先ほどの黄色と青の丸薬がそれぞれ三粒入っている。

  

「ほら、アンタも行くわよ」


 同じものを口に放り込んだのだろう。苦さに顔をしかめながら、アーシュが法杖を肩に掛けて促した。


「人使いの荒さは変わらんな……」


 そのまま飲むのはさすがに無理と判断し、水筒で口の中を湿らせてから嚥下する。と、横から水筒を取り上げられた。相当苦かったらしい。殆ど空になった水筒の返却を受けつつ、思わず溜息が零れた。ほんと、女子力何とかしろ。


 道具袋インベントリに片付けているあいだに、星の光が行く先を照らし出す。周囲に敵影がないことを確認した上で、彼女の後を追った。

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