初夢SS3 新年会
小ネタパート2です。
本編更新も同時に行なっておりますので、まだご覧になっていない方はそちらからどうぞ。
その人物との関わりを、どういうことばで言い表したらいいのか。
拓海は、いつも迷っていた。
そのひとは、乗り物ならどんなものでも乗りこなせるという話を……かつて母から聞いたことがある。期せずしてその一端を垣間見ることになり、遠ざかるヘリを見上げて彼は嘆息した。いくつもの顔を持つとは知っていたが、その懐の深さには一生敵わないだろう。
「やっぱり普通じゃないよね、シャンレンって」
つい昨夜には紅白という晴れの舞台に初めて立ち、全国のお茶の間にまで確実に知名度を高めた相手に言われたくない台詞である。続くカウントダウンライヴの仕事も終え、ようやく休みに入り、幻界で「早く家に帰りたい」と呻いていた奏多に、「ついでに乗りますか?」と気楽に誘った自分のことは完全に棚上げだ。
「普通の高校生ですよ。ちょっと知り合いが普通じゃないのは自覚していますけど」
苦笑を洩らす顔は、奏多のマネージャーからもスカウトを受けるレベルである。どこが普通だと内心ツッコミを入れ、奏多は慣れない眼鏡の位置を直した。度なしである。あと帽子で見た目を誤魔化しているのだが、このあと集まる面々にはおそらく不評だろうなと思う。
「で、店ってどっち? 遠いの?」
「この下に、迎えが来ているはずですから」
自分のバイト先での新年会である。無用の騒ぎを起こさないために、準備はすべて身内に頼んだ。報酬は正当な対価と、このアーティストのサインだ。口が堅いのだけは折り紙付きな面々であることが、ある意味いろいろとおかしい気はする。いずれも親の影響を受けたサラブレッド故、ということにしておこう。
ヘリポートから屋内へ入り、鍵付きのエレベーターから階下へ向かう。開いた扉の向こうには、小柄な少女が待っていた。拓海は日和に手の中の鍵を返した。
「ご協力、感謝します」
「ちゃんと利用料を払ってくれるお得意様ですからね。皇海市は大歓迎ですよ」
「これも休日出勤手当つくの?」
「もらいませんよ。いちいち報告するのが面倒ですからね」
先に車へ行っておいて下さい、と言い置いて、日和は休日深夜対応受付のほうへ歩いていく。ふたりはそのことばに従い、薄明かりの灯る廊下を進んだ。小さな玄関の前には警備員が立ち、ふたりを見て一礼する。
その向こうに、黒のやや小型な外車が待っていた。
運転席に見知った顔を見つけ、奏多は後部座席へ滑り込む。
「うわ、シリウスじゃん!」
「舞姫のお迎えには、馬車が要るだろ?」
「助かります」
拓海は助手席側へと座り、礼を口にした。そうしているあいだに、日和もまた追いついてくる。奏多のとなりに座った彼女は、鞄から薄手のファイルを出してその膝へと投げた。
「おまたせしました、まいりましょう」
「何? これ」
「本日のセットリストです」
「マジで!?」
「十曲くらいいけるでしょう。わたくしもご一緒しますから」
「う……」
日和と同じ舞台、となると俄然張り切ってしまう奏多である。ふたりのやりとりを聞きながら、拓海は肩を震わせたのだった。
これで初夢三点セットが出揃いました。
さて、みなさんはどれが初夢だと思われますか?(これ訊きたかったひと。←鬼。
書いているほうは楽しかったです! ご覧いただき、ありがとうございました^^
なお、本編が完結したタイミングで初日の出以外のふたつは短すぎるので削除予定です。
ご了承下さい。
 




