初夢SS2 初詣
小ネタです。
もっとちゃんと書いてあげたかったけど時間なくて。
というわけで、少しだけですが、初夢パート2です。
いつもなら、術衣であっても、スーツであってもやや早足の彼が、今日はゆっくりめに歩いている。そのことに気付いて、芽衣は一気に脳内が春になったような気分だった。
「――どうした? 早いか?」
「いえっ、大丈夫です!」
朝早くから母に締め上げられた甲斐があった。髪も胸もおなかもきつくて、足袋と草履も歩きにくいことこの上ないが、真尋の気遣いでその苦痛のすべてが吹き飛ぶ気がした。気のせいである。
地下鉄の駅の出入り口は鳥居の目の前なのだが、その参道がひたすら長い。砂利道を、しかもいつになく小さめの歩幅で歩かなければならないなど、苦行以外の何者でもない。普段なら。
ちらりと隣を見上げると、いつもよりもなお無表情の師匠の姿がある。皇海では一人暮らしだと聞いていたので、てっきり年末年始は実家に帰るものと思っていたのだが、何故か年越しの夜である昨日も彼の姿は幻界にあった。一式、根性で持って帰ったという話を聞き、愛を感じたものだ。そこで、大晦日と元旦のみ実家に滞在で、すぐ皇海に戻るという情報をゲットしたのである。
そこで、一念発起して初詣に誘ってみたのだ。「帰り道についででしょうし、どうですか?」という訊き方がよかったのかもしれない。いや、荷物が多いから一旦自宅に帰ってからで、と切り返されたりしたわけだが、とにかく新年からお出掛け成功である。
午前中はちょうど芽衣も家族での初詣があったので、午後からという話は都合がよかった。殆ど午後どころか閉門間際であるが、とにかく初詣である。
案の定午前中の初詣で着崩れしたのだが、帰宅しても振袖を脱がず、母に着崩れを直してもらった。出掛けるという話に父親はぐだぐだ何かをわめいていたが、全部スルーである。とにかく、お屠蘇以外の酒も口にせず、芽衣はがんばった。
着物に合う化粧にしているにもかかわらず、頬に涙が伝いそうになる。唇を引き結び、彼女は巾着袋を握る手に力を込めた。
「――無理しなくても」
気合いを入れすぎた。
立ち止まり、小さく溜息を交えた真尋のことばに、芽衣は全力でかぶりを振った。
「全然、無理なんてしてませんけど!?」
カシャン。
きつい物言いに合わせるかのように、髪からかんざしが落ちた。気に入りの一本が外れたことに、芽衣の表情がひきつる。次いで身を屈めようとする彼女を、真尋は手で止めた。
「待てよ」
触れる、というよりも、目の前に彼の手があって、動けなかった。その間に、落ちたかんざしを真尋は拾い上げる。そして、首を傾げた。
「付けようか?」
芽衣は大きく目を見開いた。
そろそろ付き合いの長さで、いろいろ察している真尋である。その様子が嫌というわけではないと察し、彼はそのかんざしが挿さっていたあたりへと手を伸ばした。
芽衣はわずかに頭を動かした。ちゃんとかんざしが届くように、という配慮だったのだが、真尋はそれを許容と認定した。よって、更に一歩踏み込む。
――!!!!!
芽衣はそれ以上動けなかった。あらゆる意味で。
真尋は芽衣の内心の絶叫など知らない。知る気もない。ひたすら彼は、「これ、ここであってたっけ……?」といくつもの飾りのバランスを考慮しつつ、かんざしを記憶の限界にチャレンジし、元の位置に戻した。
そして、その出来映えに満足し、身を離す。
見下ろした芽衣の表情に、彼の顔は強張った。目を閉じて下を向き、両手を握っている様子は――どう見ても、真尋の行為に耐えているようだった。
「あ、悪い」
そのことばに、そして、距離を取られた事実に、一気に芽衣は息を吐き出す。呼吸すら止めるほどかと、真尋は視線を逸らした。
「それ、結構いいと思うけど……あとで、自分でも鏡見たほうがいいかもな」
「あ、りがとうございま、す……」
――あー……気をつけよう。
――褒められたーーっ!
お互いの食い違いに気付かぬまま、人の少ない参道を、魔術師師弟(師匠非公認)は進む。
そのふたりがお賽銭を投げ、柏手を打って願うこともまた……神のみぞ知る。
 




