3 友達と果樹園
王国――正式名称”エテラスル王国”――の東部に位置するグラストルの街。
農業を主産業とし、またその加工品などを王国の主要都市へ提供しているとてものどかな街である。
その中心部、自由交易組合が運営する保育園。
ここに通うようになって半年、キーナは実年齢で四歳になっていた。
「せんせーおはようございます!」
「はい、おはようございます。キーナちゃんは今日も元気ね♪」
「ぎゅ~……えへへー♪」
キーナは先生に挨拶すると、あずき色のリボンで纏めた肩ほどまで伸びた黒髪を振り回す勢いで先生の太ももにしがみついた。
「この子ったら……。では、今日もよろしくお願いします」
「はい、お任せ下さい。ベアータさん。いつも助かります」
「いえいえ」
籠いっぱいの朝取りの野菜を渡すと、娘を送り届けた母親のベアータは自分の農園へと戻っていった。
「せんせーおはよーございます!」
「おはよーございます!」
次々と子供たちが集まっていく。
「キーナちゃんおはようだよ」
「おはよにゃ!」
「ガルザくん、ミーシャちゃんおはよー!」
続いて現れたのは、茶色のワイルドヘアーの熊系獣人男子ガルザ、白い柔毛が美しい猫系獣人女子ミーシャだ。
身長は高い方からガルザ、キーナ、ミーシャ。それぞれ頭半分差程である。
三人はこの半年ですっかり仲良くなっていた。
「ふたりともいっしょにいこー!」
「うん」「はいにゃ」
三人は仲良くおててつないで教室へと入っていった。
◇
午後のおやつを食べ終え、帰りのお迎えを待つ時間帯になった。
「ねーねー! キーナちゃんガルザくん、あしたいっしょにあそばにゃい?」
「いいけど、なにしてあそぶの?」
「う? うーん……?」
ミーシャは遊ぶという事だけしか考えていなかったようだ。
「ぼくは、キーナちゃんちのはたけがみてみたいんだな」
「それにゃ!」
「はたけかー。 おかーちゃがいいていったらいいよー?」
「やった!」
「きいてみるにゃ!」
しばらくして保護者達がやって来る。
「あ! おかーちゃ! あのねー?」
その後、保護者達が話し合い、そのお願いは無事に許可された。
翌日は三人で畑――正しくは農園――を散策する事となったのである。
◇
翌日の昼過ぎ、自宅前。
「こんにちわー!」
「こんにちわなのだ」
「いらっしゃーい!」
三人組は元気いっぱいに挨拶を交わす。
「今日はよろしくおねがいしますにゃ」
「お邪魔させていただくんだな」
「はい、こちらこそ。ではご案内します」
保護者組はそれはそれで楽しそうだ。
◇
歩くこと十数分、農園までやって来た一行。
「わらちがあんないしてくるー!」
「はいはい、あんまり遠いところには行かないようにね? それと、何かあったらすぐに呼ぶこと、いい?」
「わかったー! ふたりともいくよー!」
「いくにゃー!」「おー!」
ベアータの注意を聞くと、子供たちはバタバタと走って行く。
まずは果樹園へを案内する様だ。
「さて、大人組はお茶しながら見守ると致しましょうか」
持参したバスケットを二人へと向けながら、四阿へと誘導する。
バスケットにはお湯を保温する魔道具と茶道具一式、手作りの茶菓子が入っていた。
「それでお願いしますにゃ~」
「それがいいんだな」
「人参の焼き菓子が最高ですのにゃ~♪」
ママ友達のティータイムが始まるのであった。
◇
「きれーだにゃー!」
「まっかなんだな!」
「もうすぐしゅうかくするっていってた!」
果樹園の一角では、何十本もの樹々が整然と立ち並び、真っ赤に色づいた果実がたわわに実っている。
しばらく遊んでいると、優しく声をかけられる。
「……おーぅ、キーナ。それとお友達も。よく来たの」
「あ、じーちゃ! こんにちは!」
「こんにちはなのにゃ」「こんにちはなんだな」
キーナは、奥から現れた男――父方の祖父――にテテテっと駆け寄り抱きついた。
「きょうはね! わらちがあんないしてるんだよー?」
「ほほう。そうかそうか、確り案内してやるんじゃぞ?」
「あい!」
男は優しく髪を撫でる。
「あ!そうだ。じーちゃ、アレ作って! りんごをギュルギュル~ってやるやつ!」
「……ああ、あれか。ん~よし、作ってやるとするか」
男はりんごの具合を確かめるとそう答えた。
「やったー!」
ぴょんぴょんとはねて喜ぶキーナ。
「ぎゅるぎゅる?」「いったいなんなんだな?」
首を傾げる二人。
「えっとね~? つめたくてあまくてちょっとすっぱくておいしいやつだよ!」
「ますますわからないにゃ」「なんだなんだな?」
「はっはっは! まあ実物を見たほうが早いじゃろ。 では作るぞ?」
「わくわく」
男はりんごをもぎ取ると、意識を集中させる。
「――<氷結>、――<切断>、芯を抜き取って、――<切断>、――<切断>、最後に――<小旋風>っと」
手にしていたりんごが凍り、ヘタから少し下から水平に分断される。
芯の部分を切り取り引き抜くとスプーンのような形にカット、
残った大きな方は断面から順に中身が細かく刻まれていった。
皮を器にした”りんごフローズン”の完成である。
「すごいにゃ!」「おいしそうなんだな!」
男はすかさず同じ作業を繰り返し、全員に手渡す。
「さ、ゆっくりお食べ」
「いただきまーす!」
「いただきますにゃ」「いただきます」
三人は、芯で出来たスプーンをシャクシャクとりんごに差し込んでひとすくいすると、おもむろに口に入れた。
「にゃー! ちめたくておいしいにゃ!」
「あまずっぱくておいしいんだな」
「おいしーおいしー」
「こんなもので良ければいくらでも作ってやるぞ」
「ありがとうじーちゃ!」
「もぐもぐ……」
「うまうま……」
あとはひたすら夢中になって食べ進めた。
「ふぅー、ごちそーさま」
「まんぞくなのにゃ!」
「おいしかったんだな」
「では、ワシは作業に戻るでな。 お友達もまたの」
「またなのにゃ!」
「またなんだな!」
「よーし、つぎはあっちいこ!」
キーナは行く先を示すと走り始めた。
「にゃ!? まってにゃー!」
「かけっこならまけないんだな!」
二人も負けじと追いかけるのであった。
果実などは基本”地球の○○のようなもの”と思っていただければ間違いありません。
お読みいただいて有難うございますm(__)m