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   1  少女と湯神

 惑星エクスペリ。


 表面積の七割が海であり、大陸のほとんどが北半球に分布している。

 大小二つの大陸と、幾つかの島々が存在する自然豊かな世界だった。


 旧文明による大戦の後、疲弊した人々の姿を見た星神は大規模魔法や科学技術を禁止した。

 未だ大地の何割かは未だ荒廃し、魔獣や魔物が跋扈する剣と魔法の世界。


 


 そんな世界の片隅、中央大陸の南、王国の田舎町で一人の少女が産声を上げた。


「――ンギャー! ンギャー!」


「おめでとうございますだよ。ん、元気な女の子ですだ」


 母親は、きれいな布に包まれた我が子を恐る恐る受け取ると、泣き笑いの表情を浮かべた。


「この子が、私達の……」

「ああ、よくやった!」


 その時、幼子は一瞬淡い光りに包まれたが、誰にも気づかれることはなかった。


「この子の名前は――」

「私もその名が――」


 耳元で囁き合う二人。


「……やっぱり、気が合ってるんだな」

「……そうね、あなた」


 偶然か、二人は同じ名を思いついていた。


「これは待ち遠しいな」

「ふふ、そうね。……元気に育ってね――”長女ちゃん”」







 時は流れ季節は春、三歳記念式の当日となった。


 三歳記念式とは古くからの慣習で、無事三歳――数え年で――になれたことを祝うとともに、技能スキル神殿――役場のようなもの――にて住民登録の儀式を行うというものだ。


 暦が改められるより遥か昔、新生児が三歳になれる確率が低かったこともあり、しっかり成長する見込みのある者だけを住民として登録していた名残なのである。


 現在では食糧事情や、保険衛生的な発達も進み、ほぼほぼ何事も無く成長できるのであるが、宗教的行事として残っているのだ。







 親子三人の住む街を早朝に出発した乗り合い馬車の中では、簡素であるがよそ行き用に用意されたドレスを纏った少女が満面の笑みを湛えていた。



「おかーちゃ! わらちかわいい?」


 にぱー! っと母親に尋ねる少女。


「うんうん、”長女ちゃん”にと~っても似合ってて可愛いわよー!」


 娘をぎゅ~っとハグしながら返す母親。


「えへへー!」


 満足そうな少女。



「ほんとによく似合ってるぞ~、”長女ちゃん”」

「おと~ちゃ!」


 父親に髪を撫でられ、幸せそうである。


 そんなやりとりを何度か繰り返した後、馬車は神殿が有る街へと到着した。


「ついたー!」


 びょーん、と飛び降りた少女に続いて両親も降車すると、両側から手を繋ぐ。


「食事を済ませたら、神殿に向かうわよ?」


「わかったー!」


「ドレスをよこさないように気をつけるんだよ?」


「はーい!」


 一行は神殿近くの食堂へと向かっていった。






 昼食を終え、技能神殿へと入っていく。


 技能神殿の儀式室には数十組の、多種多様な家族が席に着いていた。

 獣耳や尻尾、鱗の名残等いろいろである。



「えー、本日の参加者が全員揃ったようですので式を始めさせて頂きます」


「星神よ――」


 担当神官により式が始まった。

 三歳になれたことへの感謝などを星神――主神――へと捧げ、

 これからの人生に対して技能神――スキルを管理する神――へと祈る。


 ここはそう言う神が存在する世界なのだ。


「――を願う」







「それでは登録の義を開始します、申請書を持って順番に前へ進んで下さい」


 半時ほどの祈りが終わると、子供たちが親に付き添われ、順番に透明な玉――占い師が使っている水晶球ようなもの――へと列を作っていく。



「では申請書を渡してくれるかな? ふむ……」


 担当神官は内容を読み込むと玉の下にある装置を操作する。


「よし、では手をかざしてくれるかな?」


「はい!」


 その少年が手をかざすと、玉の中には赤色と茶色の光が現れた。


「ふむ、火属性の適性をお持ちのようですね」


 担当神官はそういうと、先ほどの装置から取り出した小さな楕円の板を玉に接触させて何事か呟いた。


 直後、玉の光が板に吸い込まれ、板が淡く光り、やがて治まった。


「これにてこの世界への登録が完了いたしました。のちほど詳しく説明いたしますのでしばらくあちらでお掛けになってお待ちください」


「ありがとうございます。さ、いくわよ”次男ちゃん”」

「はい!」


 少年は元いた席へと戻っていった。







 その後も同じように作業は進み、いよいよ少女の順番となった。


「ではこちらに手をかざしてくれるかな?」


「はーい!」


 ぺたっ、と手をかざす少女。


 すると、玉の中からは紫色と黒色の強烈な光が溢れ、一同は思わず目を塞いだ。


「にゃっ!? まぶしー!?」


 と同時に、少女の意識は別のところにあった。







「技能神の間へようこそ、あなたが三千二百万飛んで六十三人目の対象者です」


「んう? いったいどこのうえぶさいとです?」

(……? うえぶさいとってなんだろう?)


「ふむ、ちゃんと知識が収まっているようじゃな」

「うんうん」


 少女は首を傾げると周囲を見回す……そこは真っ白な空間だった。


「吾が技能神じゃ」

「はーい、そして私がなりたてピチピチの湯神でーす☆ キラッ」


 その目の前には老紳士おじいちゃんと妙齢の女性おねえさんが立っていた。

 片方はよくわからないポーズ――片目に横向きの∨サイン――をしていたが。


「ぎのーしん? ゆしん? ここどこ? わらち、しんでんにいたよー?」


「少しだけ確かめたかったのと、私が挨拶しておきたくて、ちょっ~とだけここに呼んでもらったのよ」


「んー?」


「ま、わからなくても大丈夫よー? ここから帰ったらすぐ忘れてしまうから」


「そうなの?」


 首を左にコテッと傾ける。


「そうなの。私はこれからあなたの中に入って、あなたを見守っていくからね、よろしくー☆」


「よろしくー?」


 今度は右にコテり。



「そろそろ時間切れじゃ、では頼んだぞ」


「はーい! じゃ、いこっか」

「んー? ばいばーい?」


 少女の意識と湯神は神殿へと帰っていった。


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