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目隠し姫と化物さん  作者: あるまじろう
3/5

―葬式の帰り道―

 市街地―マルケス氏の家ではこの日葬式が執り行われていた。息子夫婦と住んでいたお婆さんが亡くなったことに決まった為である。

 決まったというのは、一週間ほど前からお婆さんは行方不明になっており、先日お婆さんは死亡したと国から判断され、その捜索が打ち切られたからだ。

 

 一週間。その短い期間でお婆さんは砦の国から切り捨てられた事になる。


 砦の国は国と名乗ってはいるが、他所の大国などからしたら小さな市や村の大きさである。短い期間とはいえこの小さな国をひと通り捜索して、亡骸すら見つからなかった。生死は別にしてもお婆さんはもう国内にはいないと考えられてもおかしくはない。

 砦の国から出るには門を抜けなければならないが、警備兵はお婆さんの姿を目にしていない。

 では周囲の山を超えたのか――それも不可能な話だ。他国の兵士でも山越えは不可能とされている険しい山々、とても老人に越えられるはずがない。

 更に言うならば、お婆さんと息子夫婦はただのどこにでもいるこの国の普通の住人で、他人から恨みを買うような人ではなかったし、そもそもお婆さんは数年前から体を悪くして家に引きこもり気味だった。最近になって事件に巻き込まれたとは考えにくい。


 ーならば、お婆さんはどこに消えたのかー


 まあ結局のところ、今となってはそんな事はどうでもいい事である。

 お婆さんはもう死んだ。そういうことに決まったのだ。

 この国にあった彼女の存在も、居場所ももう無くなった。

 存在しないものの事を考えたって意味がないのだ。



 葬式が終わり、参列者は各々付き合いのある物同士で帰路についていく。この三人もそうだった。

「最近になってまた多くなってきたわよねー」

「ほんとね。この前は田園地のとこの子供でしょ…あ!あと、そこの角のところの旦那さんも行方不明だったはず」

「他にも何人かいるみたいよ…ここ最近でも5人はいるんじゃないかしら」

「………」

「あら、どうしたの?さっきからずーっと黙って」

「私怖くて…やっぱり噂のバケモノの仕業なんでしょうか?」

 葬式が終わってからというもの黙っていた女性が恐れながら、二人に尋ねる。

「ナラクの?そうかもしれないわね」

「私もきっとバケモノの仕業だと思うわ」

「え……やっぱり本当にいるんですか?」

「いるわ」

 二人は声を揃えてそう言った。

「そんな…只の噂話だと思ってたのに…どうしよう。私、大変な所に来ちゃった……」

 彼女はつい最近やってきた行商隊から買われたメイドだった。砦の国は国の政策と土地柄も相まって閉鎖的な国であった為、只の商品であった彼女はこの国の内情など知らなかったのである。

「お二人は、その、怖くないんですか?」

「そりゃあ怖いわよ!」

「ええ!でもね、雨が降ってる時と夜に不用意な行動をとらなければ襲われる危険は少ないって噂よ…なんでも、行方不明者のほとんどは夜に戸締まりをしてなかったり、出かけてしまったりしていたらしいの、あと雨が降ったら外を出歩いちゃダメよ」

「雨ですか…どうして?」

「さあ、よくわかんないけど、雨が降るとバケモノの機嫌が悪くなるんじゃないの?バケモノのことなんてわからないわ。誰もわかりたくもないでしょうし」

「とは言っても、行方不明者全員がその状況でいなくなってる訳じゃないから、気をつけるにこしたことはないわよね」

「そうね。襲われる可能性が少なくなるだけで、晴れていようが、昼だろうが人を見つければナラクの底に引きずり込むって噂もあるみたいだし…」

「…あ、あの!他には何かそういう噂ってないんですか!?」

「どうしたの?急に大きな声を出して」

「私まだ死にたくないんです!気をつける事ができることは全部気をつけておきたくて…」

「うーん…あ!あとバケモノは足が遅いから、動きの鈍い人から狙われるってのも聞いたことがあるわ」

「そうそう。私達大人には追いつけないから標的にしないんですって…角のとこの旦那さんみたく、酒を飲んで泥酔してたりしたら危ないだろうけど」

「まあ、どれも噂だけどね。あなたのお屋敷はこの中じゃ一番ナラクに近いんだから気をつけなさい」

「はい…気をつけます」


 メイドがそう答えたところで分かれ道に差し掛かった。二人とはここで別れる。

 「じゃあ、またねー」

 「はい。失礼します。今日は色々教えていただきありがとうございました!」


 ――化物は本当にいるらしい――

 

 一人になった途端、私は耐え難い恐怖を感じた。

 気がついたら水槽に閉じ込められていて、顔まで水の高さがせり上がってきたような。

 あるいは、黒いドロドロしたものが足から体にどんどん纏わりついてきて、剥がせないような――今すぐ死ぬことはないけど、いつ死んでもおかしくない。そんな感じだ。

 私は気を落ち着かせる為、二人から教えてもらったのも含めて化物について知っている情報を整理する。



―ナラクの底には人を食らうバケモノが住んでいる―

―真っ暗な谷底へ人を引きずり込み、グチャグチャと音を立てて食らう―


―バケモノは雨の時と夜に活発に活動する―

―雨や夜ほど活発ではないが晴れや昼でも人を見つければナラクの底に引きずり込む―


―バケモノは足が遅く、動きの鈍い人から狙う―

―大人の足には追いつけず狙われないが、自分の体に不調があればその限りではない―



 こんなところだろう。

 少し冷静になれたことで私は落ち着くことができた。目線を前に戻すと綺麗な夕焼けが目に入る。

 見入っている場合ではない。もうすぐ夜が来る。

 私は念の為少し足早に屋敷への道を急いだ。



 

 



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