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目隠し姫と化物さん  作者: あるまじろう
2/5

―ナラクの底の住人―

 ナラク――砦の国は円状になっており、大きく分けて南から順に田園地、市街地、領主の城となっている。

領主の城は円のほぼ中心に位置していて、それより北には森林が広がっていた。

 領主の城より北東、森林の中のナラクと呼ばれる洞窟。

入り口は高さ3メートル、幅10メートル程の横穴だが、内部を進むとすぐに竪穴にあたってしまう。その竪穴はナラクの底と呼ばれていた。

 陽の光も届かず、松明では照らしきれないほどの深さの竪穴。

 100年前の戦で多数の死者を出した昔の砦の国の住人たちは、死体の多さとその後処理に困り果て、やがてその多くをナラクの底に遺棄する事を解決策とした。

 そんな過去もあり、もともと住人たちはナラクに近づこうとしなかったが、いつからかこんな噂が流れ始める。


―ナラクの底には人を食らうバケモノが住んでいる―

―真っ暗な谷底へ人を引きずり込み、グチャグチャと音を立てて食らうのだ―


噂は今でも砦の国に蔓延っている。



「大漁だな…」

 僕は暗闇の中を進んで行く。

―ズルッ、ズルッ―

 そんな何かを引きずるような耳障りな音が響く。この音はきっと10人に聞かせたら9人が不快感を示すだろう。残りの一人は耳が不自由な人か、凶悪な犯罪者だろう――つまり、まともな精神を持っていて、音を聞く事ができる人ならば全員が不快感を示す音。


 でも今はそんな事を気にしなくてもいいのだ。


 ここに在るのは僕だけだし、この音にも慣れた。僕は不快感を示す9人のうちの一人じゃないからだ。それどころか不快に思わない一人でも無い。


 だってそもそも僕は人ですらないんだから。


 慣れたとは言うものの、僕だってこんな運び方は不本意なんだよ。

でも仕方ない。だって手が塞がっているんだもの。大漁――そういうことさ。

 しばらく何かを引きずったまま歩くと、向かいから光が差し込んでいた。

 「やっと晴れたのか」

僕は嬉しくなると同時に、両手の荷物が目に入り悲しくなって思わず呟いた。


 「なんだお婆さんだったのか」



 やるべき後始末を終えて僕は寝床に戻ってくる。

 出かける前に準備しておいた食材がちゃんと食べ物になっていた。

 火のそばを離れるのは少し心配だったけど、うまく出来がったみたいだ。僕はその食べ物をひとくち食べてみる。


「おいしい」


 誰もいないのにそんな言葉が漏れてしまって、僕は途端に悲しいような虚しいような…上手く言えないけど前向きでない気持ちになってしまった。だけど、食べ物がおいしくてやっぱり僕はすぐにまた幸せな気持ちになる。

 臭みも前回よりは少ないし、やっぱりしっかりと血抜きをしたのが良かったのかな。骨からもちゃんと出汁が出てるし、肉も柔らかい。次からこの方法で食べることにしよう――なんて考えながら食べているとあっという間に食べ物は無くなってしまった。


 食べ物を食べたら眠くなるのは人もそれ以外も変わらないみたいで、僕はだんだん眠くなってきた。

 外は今頃日が沈んだ頃かな――洞窟の底は真っ暗だから外の時間は光が差し込む場所まで出ないとわからない。そんな事を考えながら僕はまどろみの中へ溶けていくのを感じる。

 寝てしまう前にお祈りをしなくちゃ。


――明日、降りませんように――


それが僕の、毎日毎日繰り返してきたお祈り。



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