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兄妹は仲良く夜会に翻弄させられる。

 人混みの中から給仕を探し出し、飲み物を調達して急いで妹の所に戻ろうとすると意外な人物に呼び止められてしまった。


 「フロイデンベルク少尉ではないか」

 「! これはバッツドルフ大将閣下。わざわざ私のような若輩にお声を掛けていただき有難うございます」


 両手にグラスがある為に敬礼も出来ずに慌ててしまうが、せめて頭だけは深々と下げる。

 相手は大将の地位にあり雲の上のような存在だが、先の戦争で何度か警護部隊を指揮した事もあり顔を憶えて頂いていた――光栄な事だ。


 「今日は無礼講、そうかしこまらんでいい」

 「お気遣い申し訳ありません」

 「それより、娘をダンスに誘ってくれないか」

 「はっ……私がですか」


 大将閣下の横には美しいご令嬢がいるのに気が付く。


 「末娘のクリスティーナだ。先程、踊っている少尉の姿を見てどうしても君と踊りたいと強請られてね」

 「お父様、そんなこと言わないで」


 大将閣下に恥ずかしげに抗議する。

 シャルロッテより年下のようで、あどけなさの残る可愛らしい小鳥のような声に容姿。金の巻き毛が美しく、スミレ色の瞳に合わせた薄紫のドレスがとても似合っている。今流行の真珠のネックレスを三重に長目にたらし、よく見ればドレスにも真珠が幾つも縫いとめられていた。


 「連れの女性には悪いが1曲踊ってやってくれんか」

 「はい光栄です閣下。しかし少々お待ち下さいませんか。妹に飲み物を届けて断りをいれたいのですが」

 「ああ、構わんよ。 他の男が娘にダンスを申し込まれないよう私がここで睨みを利かしておこう」

 「申し訳ありません。直ぐに戻って参ります」


 慌てて妹の処に戻るが椅子に所在無げに俯いて座る姿を見てしまい、大将のご令嬢と踊るのを躊躇ってしまう。しかし断れる立場では無かった。

 周囲は談笑する人々やダンスを踊って賑やかだが、妹の周囲だけはまるで人々が避けているかによう空間が空いていた。私と踊っていた時はあれ程に視線を集めていたのが嘘のような無関心さだ。


 何か不自然さを感じるが今はシャルロッテだ。


 そっと妹に近付く気配に気付いて顔を上げる。そして美しく微笑んでくれるが、どこか無理をしているように感じてしまう。


 「待たせてすまないロッテ。 喉がかわいただろうシャンパンをお飲み」

 「ありがとう、お兄様」


 グラスを受け取ると一口だけ飲むのを見てから、私は一気に酒を飲み干すと話を切り出す。


 「ロッテ、私は上官のご令嬢とダンスを踊る約束をしてしまった。悪いが1曲だけ踊って来なければならない。だから、もう少しココで待っていてくれないか」

 「まぁー、それは素晴らしいわ。 私なら大人しく座って待ってます」

 「すまない。終わったら直ぐに戻る」

 「私の事は気にせず楽しんでらしてください。そうでないと相手の方に失礼だわ」

 「わかったよ」


 妹には心苦しいが、大将閣下を待たせる訳にもいかずその場を離れた。シャルロッテの姿は直ぐに人垣で見えなくなってしまうが、心配で後ろ髪を引かれる思いで何度も振り向いてしまうのだった。



 それから大将閣下のご令嬢クリスティーナ様にダンスを申込み早速踊る。ご令嬢は見た目に反し積極的なタイプで、踊りながら色々と質問されてしまった。


 「妹さんと同伴されるなんて、少尉は恋人がいらっしゃらないの?」

 「いいえ。今夜は都合がつかなかったのです」

 「まあー嘘つきですのね。最近サロンで子爵家のリーゼル様とお別れになったと専らの噂でしてよ」

 「知ってらしゃったんですか……」

 「うっふっふっふ。 オットー様は女性の間では大層人気がおありなのですよ。ですからどこのサロンでも噂が直ぐに伝わりますの」

 「それは、知りませんでした」


 冷や汗が流れる。まさか自分が女性たちの噂のタネになっているとは思わず驚く。


 「もしかすると、今度私がオットー様の次の恋人って噂されるかも。一層の事、本当にお付き合いいたしません?」


 本気か冗談ともつかないように言われてしまう。まさか妹より三才も年下の少女に口説かれるとは思わなかった。


 「私が大将閣下に殺されてしまいますのでお許しください」

 「お父様なんて関係ないわ。それに私に甘いから案外結婚させて…」

 「いけませんクリスティーナ様。私はしがない男爵家の嫡男――貴女は大変魅力的な女性ですが不幸にしたくありません。ですがこの一時だけは貴女の恋人でいさせてください」

 「オットー様……」


 まだ若いクリスティーナ様はロマンチックな恋に憧れ少女のように目をキラキラさせる。

 貴族の女性が自由な恋愛をするのは難しい。結婚相手は親が決める事が多いのだ。特に伯爵、侯爵ともなるとほぼ政略結婚で、時には父親と変わらない歳の夫を持つ事もあった。クリスティーナ様は伯爵家の令嬢で、どうみても私とは不釣り合い。それに十七歳と若く恋人にするには躊躇うし、恋人と別れたばかりで直ぐに他の女性と付き合う気にはなれなかった。二十七才にもなると色々慎重にならざるを得ない。


 そして、ダンスが終わると次もせがまれてしまった。

 一刻も早くシャルロッテの下に戻りたかったが、無碍にも断れない相手。


 「オットー様、お久しぶりですわ」


 突然女性に声を掛けられて振り向く。今夜は嫌に声を掛けられると困惑してしまう。


 「ヒルデガルト様」


 そこには真紅の艶やかなドレスに負けない美貌を持つ女性が、軍服の取り巻きを引き連れ真紅の薔薇のように佇んでいた。


 「なんだかお困りのご様子だから、お声を掛けてみましたの。余計なお世話でしたかしら」


 そしてチラリとクリスティーナ様に視線を送る。

 するとクリスティーナ様は真っ青になり「私、急に用を思い出しましたので、これで失礼させて頂きますわ」と逃げるように立ち去ってしまった。


 「全く、子供は不躾で困りますわね。どうせオットー様の事だから甘い言葉でも呟かれたのでしょう。あまり罪なことはお止めになさったらいかがです」

 「そのような事はしておりせんが」


 自分で勘違いさせる事はいっていないかと思い返してみた。


 「まあ…相変わらずご自覚が無いのですね。それより私をダンスに誘って下さいませんの」


 本来は私が声を掛けていただける相手では無い女性。

 七年前に社交界デビューしたての初々しいヒルデガルド様に、お家柄も知らずにダンスを申し込んでしまった事から始まる。後でヴィッツレーベン侯爵家の縁筋にある伯爵令嬢だと知り肝を冷やしたのだが、何故かそれ以来、お会いすればダンスを1曲踊るのが約束のようになっていたのだ。


 「も、申し訳ありません。妹を待たせていますので今宵はご容赦ください」


 それに、後ろに控えるそうそうたる男たちの顔ぶれで、とても誘うなど出来ない。何れも私と違い爵位も軍の階級も高いエリートばかりだ。


 「つれないのですね。エルンスト様も、とても不機嫌で1曲踊っただけで気疲れしてしまいましたの。貴方に慰めて欲しかったのですが」

 「!?」


 そこはかとなく秋波を送られる。これも何時もの事で男たちを煽るのが目的らしく、私はそのスケープゴートにされていた。

 思った通り、男たちが殺意を放ち始めていたので急いで話題を逸らす。


 「元帥閣下がどうかされたのですか」

 「どうやら、この夜会はエルンスト様のお見合いパーティーだったようですの。主だった貴族の令嬢を集めて、気に入った娘と結婚させようと画策したのです。お父上の侯爵様の思惑を知ったエルンスト様が珍しくご立腹成されてるのですよ」

 「それは知りませんでした」


 この夜会にそんな意味があったのを初めて知る。どうやら女性の方が事情通のようだ。


 「あのお方には困ってしまうわ。さっさと身を固めて頂かないと私が行き遅れになってしまいそう」

 「ヒルデガルト様ほどのお方なら、引く手数多ではありませんか」

 「否定はしませんが女は若い内が華、肝心のエルンスト様からは冷たくあしらわれている憐れな女ですのよ。我が父上もいい加減諦めて下さらないかしら」


 ヒルデガルド様はエルンスト様の従妹にあたられるが、花嫁候補の筆頭に何時も名が上がる。しかし本人はそれほど乗り気でないのを初めて知った。


 微妙な話題で言葉を差し控えていると会場にざわめきが起こる。


 「何かしら?」


 ヒルデガルト様も訝しそうに騒めく方向を見る。そこはシャルロッテのいる方向で胸騒ぎがした。


 「失礼しますヒルデガルト様」

 「オットー?」


 挨拶もそこそこに妹のいる場所に駆けつけようとするが人垣に阻まれてしまった。間をかき分けて抜けようとするとシャルロッテの今にも消え入りそうな声を聞いてしまった。


 「お目汚しをしてしまい……大変…申し訳ありません……エルンスト・フォン・ヴィッツレーベン様」


 ――シャルロッテ!? 何故元帥閣下に謝罪してるんだ??


 思わず傍にいる年配の御婦人に事情を訊いてしまう。


 「失礼ですが、一体、何があったのでしょうか」

 「あのお嬢さんが、エルンスト様にグラスのお酒を掛けてしまったらしいのよ」

 「なんですって!」

 「可哀想だけど、あのお嬢さんのご家族も大変ね」


 確かに、時の権力者であるヴィッツレーベン侯爵の次期当主であり、軍の元帥の地位にあるエルンスト様に公衆の面前で恥をかかせたのだからタダでは済まない。


 妹の失態に蒼白になる。もしかすると軍に居られなくなるかと一瞬保身が動くが、愛する妹を見捨てる訳にはいかない。直ぐに飛び出し一緒に謝罪しようとしたが、シャルロッテが蒼白になってバルコニーに飛び出して行くのを見る。


 どうやら機を失したらしい。


 自分のふがいなさに嫌になるが、今はシャルロッテを追って慰めるのが先決だ。

 妹の事だから思い詰めて自殺しないか心配になる。

 その場に居合わした人々は元帥閣下に注目しており、誰もシャルロッテの行方に気を留めている者はいなかった。

 慌てて妹の消えたガラス扉を開けてバルコーニに出るが姿は既に無かった。きっと庭園に下りたのだろうと急ぎ後を追う。

 

 侯爵家の庭園は美しく整備され広大。しかも夜で街灯があっても薄暗く、女性が一人で歩くのは危険な場所。時には男女の逢瀬の場になっているので、不埒な男が潜んでいてシャルロッテが襲われているのでは気が気ではなかった。


 「シャルロッテ! ロッテ! ロッテ!」


 何度も名を呼んでみるが現れず、庭園の奥へと進み名を呼び続けた。

 

 「ロッテ! ロッテ… 何処にいるんだ」


 そして、ようやく背後の茂みから「お兄様……」と消え入りそうな妹の声を聞きとり振り返る。

 すると茂みの中から白い人影が現れる。それは幽霊のように血の気が引いたシャルロッテが立っていた。


 「そんな所にいたのか、心配したぞ」


 直ぐに駆け寄って、怯えた子猫のように震えるシャルロッテを抱きしめる。


 「ゴメンなさい… お兄様… 私は、とんでもない事をしてしまったわ…」


 妹は私の胸にしがみ付くと泣きながら謝罪する。落ち着かせる為にも優しく背中を撫でて落ち着かせる。


 「気にしなくても大丈夫だ。 それより、何も出来なかった不甲斐ない兄を許してくれ」

 「私が悪いの……お兄様の言うとおりに椅子に座っていればあんな事は起きなかったのに……」

 「詳細を話してくれないか」

 「はい……。実は――   」


 シャルロッテは目を伏せながら、懺悔するかのように話し始めた。






 お兄様が離れて行くのを見送った後、私は一人壁際に置かれた椅子に座りながらグラスを持って周囲を眺めていました。周りには楽しそうに談笑する貴婦人や軍服を着た軍人がおり、煌びやかなドレスでダンスを華麗に踊るご令嬢たち、全てが別世界で私には夢のような空間で圧倒されて見惚れていました。


 最初は遠くで眺めているだけで良かったのですが、つい、お兄様が踊っている姿を見たくなる。

 そして私は椅子から立ち上がりダンスを踊っている人々の側に行ってしまいました。その時にグラスを置いて来れば良かったのに、手に持ったままだったのです。


 踊る人たちの中から兄を見付けるのは容易で、直ぐに見つけることが出来ました。背が高くハンサムで凛々しい軍服姿の兄は一際目立っており、お相手ののご令嬢は美しい金の髪に薄紫色のドレスがとても似合う綺麗な少女で、私と違いお姫様のよう。まるで恋愛小説の恋人同士のようで見惚れてしまう。


 私もせめてあの方のように金の髪ならば、誰か一人ぐらいはダンスを申し込んでくれるのでないかと浅ましく考えてしまう。幼い頃から、この赤い髪で悲しい思いばかりして来た私。男の子たちからは赤い髪で苛められ、女の子たちからは仲間はずれにされてしまった。


 華やかなダンスを眺めている内に、自分のみすぼらしさが堪らなくなり、再び壁に引き返そうとした時でした。 ドンと肩に衝撃を受けて倒れそうになり驚きました。大きな手で支えられて倒れるのは回避できたのですが、持っていたグラスが空になっており、支えてくれた方のズボンを濡らしてしまいました。


 「きゃあっ! も、申し訳ありません。 直ぐに拭きますのでお許し下さい」


 私は急いでハンカチで拭こうとするが、冷たい声で制止されてしまった。


 「私に触れるな。無礼者」

 「!」


 相手の怒りを感じ、顔を上げると、凄まじい目で私を睨む男性が私を見下ろしていた。

 そして私は自分が粗相をしてしまった相手がとんでもないお方だと知る。


 ――エルンスト・フォン・ヴィッツレーベン様!!


 この帝国で顔を知らない国民はいないと言われる、ハノーファー帝国の英雄その人だった。

 豪奢な金髪をきっちり後ろに流し、アイスブルーの鋭い目の美丈夫。将官以上を表す黒い軍服を着て胸を飾る勲章の多さは彼の武勲を物語っていた。先の戦争を早期に終わらせ、今では三十五歳の若さで軍の全てを掌握している人物。


 私は思ってもいない相手に息が止まり、血の気が引いて固まってしまう。そして茫然とする私に更なる苛烈な言葉を投げかけられてしまう。


 「なんてみすぼらしい恰好だ。しかもその程度の容姿で我家の夜会に来るとは図々しい。早々に立ち去れ」


 その後ろでは、彼の取り巻く美しいご令嬢達が、クスクスと残酷に忍び笑いを洩らすのを更に血の気が引く思いで聞くしかなかった。でもここで気を失っては兄に迷惑を掛けると思い、気力を振り絞り謝罪するしかなかった。


 「お目汚しをしてしまい……大変…申し訳ありません……エルンスト・フォン・ヴィッツレーベン様」


 それを言うだけで精いっぱいでその場を立ち去るが、足がもつれてよろけながらダンスホールの外に出るテラスに向かい、夜会から逃げ出したのでした。


 こうやって、久しぶりの夜会で浮かれすぎてしまった私は失態を犯してしまったのです。








 シャルロッテは途切れ途切れにエルンスト様との出来事を話し終えると、今度は心配そうに私の事を気遣い始める。


 「あぁ… どうしよう……。 お兄様に類が及ばなければ良いのだけれど……うっうう……」

 「そんな心配はせずとも大丈夫だよ」


 必死に慰めるが妹は聞き入れず泣くばかり。


 「やっぱりこんな華やかな場に私など来るべきではなかったのです。 うっううう…」

 「何を言うんだ。それに無理やり誘ったのは私だよ」

 「私……知っていましたの……」

 「えっ?」

 「お兄様が、未だに恋人すら出来ない私にご友人を紹介してくれようとしていたのを……こんな私にお心遣いを示す優しいお兄様にご迷惑をしか掛けれないなんて……死んでしまいたい」

 「シャルロッテ……そんな悲しい事を言うと怒るぞ」

 「お兄様」

 「何のための兄妹だ。家族が助け合って当たり前だろ。それに死にたいなど間違っても言ってはいけないよ。もっと兄を頼りにして欲しい」

 「はい。お兄様」

 「だからエルンスト様の件は私に任せなさい。 それに何時もは女性に優しく紳士なお方。本来は公明正大で、私から正式に謝罪をすれば、あれ以上事を荒げないだろう。今夜は機嫌が悪く、間が悪かったようだ」

 「あの方が優しい……」


 私の言葉に以外とばかりに問い返し、何かを思い出したように、更に怯えたようにぶるぶると震え始める。一体どれほどの恐怖をエルンスト様に感じたのかと思ってしまう。

 これまで部下に対しても非道な行為を行った噂など一度も聞いた事が無い。確かに冷たい印象で恐れられてはいるが、それ以上に下級兵士から将官まで全ての兵士たちから敬愛されていた。


 「あのように女性を叱責するエルンスト様の方が稀だ。 どうやら今夜の夜会はお父上の侯爵様が仕組んだ見合いの場で、大勢の令嬢の相手をさせられ機嫌が悪かったらしい」

 「まあ……そうだったのですか」


 未だ釈然としない様子のシャルロッテだが、落ち着いて来たのか涙が止まっていた。


 「それより、私は上官に挨拶をしなければならないので、まだ夜会から抜け出せそうもない。 ロッテは戻るのは嫌だろう。個室を用意して貰うから、そこでもう少し待っていてくれないかい?」


 妹にはそう言ったが、夜会に戻ってエルンスト様に謝罪できるよう、ヒルデガルト様に取り次を願い出るつもりだ。事が事だけに聞き入れて貰えるか分からないが行動するしかない。


 「はい 私の事は気にせずに軍人の務めを果たしてください」

 「すまないロッテ」


 本当は直ぐにでも帰りたいだろうシャルロッテだが無理に微笑む。可哀想だが仕方が無かった。

 それから夜会の会場に戻るが誰もシャルロッテに目を向ける事も、ひそひそと耳打ち合う様子もなく無関心。あの騒動など皆忘れたような態度だ。


 ある程度の事を覚悟していたが拍子抜けする。だがシャルロッテの方は気分が悪そうに私にもたれ掛る。


 「大丈夫か」

 「はい」


 真っ青な顔のシャルロッテは、明らかに無理をしており、矢張り帰った方が良さそうだ。


 「如何されましたか?」


 白髪の年老いた使用人が声を掛けて来た。醸し出す洗練された雰囲気から責任者クラスの使用人だろう。


 「妹の気分が優れないようなので、どこか部屋をお借りできませんか」

 「はい。直ぐにお部屋をご用意いたします。どうぞ此方に」


 妹を支えながら、小柄ながらしゃんと背筋を伸ばしながら歩く老人の案内に付いて行く。夜会の会場を出ると老人が立ち止まった。


 「お嬢様は私が責任を持って部屋にご案内しますので、貴方様は夜会にお戻りになっては如何ですか」

 「この方の言うとおりだわお兄様。私は大丈夫だからお戻りになって」

 「しかし……」

 「私の名はハンス・アーレと申します。当屋敷で長年執事を勤めておりますゆえ責任を持ってお嬢様をお預かり致します」

 「そうですか……」


 今一不安だがハンス執事にシャルロッテをお願いする事にした。

 シャルロッテも会場を出た所為か確りと一人で歩き案内されるのを見てから、夜会会場に戻る為に踵を返すのだった。






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