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この3 おやすみなさい、ファンタジィ

 三話完結、三話目。


「この3 おやすみなさい、ファンタジィ」

 結果として『春望』ではく、なぜか『荒城の月』を暗唱した僕は、廊下を走る。全力疾走も長くは続かず、脚をもつれさせて砂の上に倒れると、姫路城のごとく真っ白な顔をしたくみちゃんにつかまりそうになる。

「けんと、私ってそんなに怖いのかなぁ?」

 転んだ体勢から上手く起き上がることができずに、砂を掻くようにして後ろへと這う。このまま海へ飛び込めばそのまま逃げられるかもしれない。そう思ったのも束の間、海は冷たい感触だけを残して遠くへ行ってしまう。仕方がないので、校庭を走りぬけて、そのまま走り高跳びの要領で校門を飛び越える。いつの間にか先回りしていたくみちゃんに腕をつかまれて、今度こそ逃げられないように拘束される。

「け~ん~と~?」

「くみちゃん、やめて!」

 あのときと同じように突き飛ばそうとしたが、くみちゃんがすっと身を引くと、ぼくの腕が思いっきり空を切った反動で上半身が浮き上がる。そのまま両肩を押されると、支えのない上半身は簡単に砂に埋もれる。

「けんと、よくも私を置き去りにしたわね。許さない」

「くみ、ちゃ、ん……」

 首を絞められたわけでもないのに息が苦しくなる。十年たったら結婚しようね、なんて約束したのはたしか幼稚園くらいのとき。そうか、あのときのくみちゃんは約束を果たそうとしただけだったのか。思った以上に純粋なんだな、くみちゃんは。

「そう。やっと思い出してくれたのね。だったら、この魔法を解いてあげる。おやすみなさい、けんと」

「うん。おやすみなさい」


 翌日、朝一番にくみちゃんにメールして返事を待つ。十五分後、向かいの家の窓が開いてくみちゃんと目を合わせる。すると、僕の携帯が鳴った。

『どうしたのけんと、いきなり」

「あのときのこと、あやまりたくて」

『あれは、……ううん、私が悪いの。いきなり迫ったりしたらビックリしちゃうよね。ごめん』

「ぼくこそごめん。夢で思い出したんだ。幼稚園くらいのときの約束」

『……私が、結婚しようねって言ったやつのこと? 嬉しいな』

「僕、くみちゃんの高校受験するから。そうしたら、一年だけでも一緒に通えるよね?」

『合格しないと通えないのよ。それに受験生になるのは来年でしょ? あ、もうお母さんが呼んでる。じゃあ、私は朝ごはんだから。またね』

「うん、また」

 なんだ、ちゃんと話してみれば案外あっさり解決できるものだな。でも、あの魔法のような夢を見なかったらと思うと、少しゾッとする。あんな怖い夢なんかもう見たくはないんだけど……。また何かに困ってるときにあんな夢が見られたらいいな。だから、それまでおやすみなさい。ぼくのファンタジィな夢さん。

 これにて『おやすみなさい、ファンタジィ』は完結です。お付き合いいただきありがとうございました。(2014年7月27日12時50分くらい)

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