どの2 また会いましたね、ファンタジィ
三話完結、二話目。
「どの2 また会いましたね、ファンタジィ」
お向かいの家に住む僕より二つ年上の女の子、くみちゃんとは、三年前に喧嘩をして以来、顔を合わせても会釈をする程度の、気まずい関係である。
「くみちゃん……」
「誰だそれ?」
「こいつんちの向かいの姉ちゃんだよ。なあ、なんであんなに余所余所しくなっちまったんだよ」
「その人って美人か?」
「かなりの美人さんだよな。……おーいけんとー。どしたー?」
ん、今のは僕に向かって言ったのか。すまないすまない。
くみちゃんは客観的に言って美人さんであることは間違いない。中学の頃から急に伸びた背は一七〇センチくらいあるし、高校生になった今でも成長期は止まらないらしく、胸だってかなりある。くみちゃんの友達だという先輩に聞いたところ、かなりモテているらしいが、浮いた話は一つもないようだ。どうやらあのときのことを根に持っているらしいと見た。
「うーん、ちょっと喧嘩中でね……三年くらい」
「ちなみに喧嘩の原因は?」
「言いたくないし聞かせたくない。あんなことが知れたらくみちゃんにも迷惑かかるし」
「お前が無理やり迫ったのか?」
「……そのときはまだ小学生と中学生だぞ。何考えてやがる」
一瞬ドキッとした。真相はその逆なのだ。僕は無理やり迫られた方だ。昔からくみちゃんのことは無条件で信用してきた。だから、どんなに辛くても苦しくても、くみちゃんに褒めてもらいたくて、腹筋だって腕立て伏せだって続けてきた。そうして鍛えてきたのが活きたらしく、組み敷かれても力ずくで脱出できたのである。そのときに、本当に力いっぱい突き飛ばしたものだから、くみちゃんは驚いて気を失っていたらしい。僕はそんなことを気にせずにさっさと逃げたので、あとから聞いた話だ。
「なんで私のことを気にせずに逃げちゃったかなあ! あれから心配してくれてるそぶりも見せてくれないし!」
「だってくみちゃん、あのときすごく怖かったし……」
後日、話があるとくみちゃんに呼び出されて、家の近くにある親水公園に行くと、いきなり怒られた。
心配するも何も、次の日会ったら普通そうにしていたから、心配なんてしていなかったけど。怖いからしばらくは近づかないようにしようと思ったくらいだ。
一日中そんなことを思い出していたのが悪かったのだろうか。
「おっはようけんと! さあ、さっきの続きだよ。ちゃんと暗唱できる?」
僕の目の前には中学生くらいのちっちゃいくみちゃんではなく、とても美人に成長したくみちゃんが立っていた。