あの1 はじめまして、ファンタジィ
三話完結です。
「あの1 はじめまして、ファンタジィ」
「けんとー! いい加減に起きなさーい!」
ある朝起きると、お向かいの家の二つ年上の女の子、くみちゃんがぼくのお布団を引っぺがしてきた。
「おはよぅ、くみちゃん」
「おはよう。その不思議そうな顔はなによ」
それは不思議そうな顔もするだろう。中学生になってから急激な成長をした、このちっちゃい女の子がこんな平日の昼日中に僕の部屋にいるのだ。まったく、早起きにもほどがある。
「ほら、今日はまた遅刻するよ。もっとゆっくりしなきゃ」
そうだね、と歩きながら生返事を返しつつ空を仰ぐと、太陽はまだ天頂付近にある。急いでも一限目には間に合うだろう。
「ちょっとけんと、そっちは小学校でしょ! もう中学生になったんだからこっちよ」
「あ、ごめん。もう寝ぼけてたみたい。ありがとう」
だいいたいけんとはねえ! とぶつくさ始めたのを放っておくと、いつのまにかいなくなったようだ。くみちゃんは高校生なわけだから当然かと思いながら、校門から自席へと座ると、いつの間にか後ろにたっていた友達に声を掛けられた。
「おいけんと、いったいどうしたんだよ。今日もやたら早いじゃないか」
「人を遅刻魔みたいに言うなよ。だいたい、いつもはこんなに早くはこないだろ」
そのまま友達とくっちゃべっていようと思ったのだが、チャイムが鳴って一限目の先生が入ってきた。あれ、いったい何の科目の先生だっけ?
「えー、今日もこのクラスに転入生を市立第三高校からやってこさせます。はい、くみちゃん入って」
「やっほーけんと、くみちゃんだよー」
軽く手を上げて挨拶すると、いつも通り、くみちゃんは僕の隣の席に座る。それよりも、今日来るなんて聞いてなかった。教えてくれればいいのに。
「はい、では、今日はせっかく転入生がいるので、朗読の暗唱の試験にしましょうか。けんと君はいつも通りにくみちゃんとペアになって暗唱を始めてください。全員できっちり魔法を作り上げてみましょう!」
そうか、今日の一限目の先生は国語の先生だった。で、暗唱するのはたしか『春望』だったはず。蔦の絡まるお城をイメージして……。
「ちょっとけんと! イメージするのに目をつぶるのはいいから寝ないでよ。今日は訳の分からないものが出てきちゃってもしらないんだから」
そんなことを言われたって、眠いものは眠い。つい、うとうととしていたら、遠くで『ピピピ』と電子音が聞こえた気がした。
「けんと! 起きなさい!」
「ごめんくみちゃ……」
布団を勢いよく跳ね上げて起きてみれば、そこにいるのは母さん。
「夢でまで謝るくらいなら、いい加減に謝っちゃいなさいよ。ほらさっさと着替えてご飯食べて学校に行きなさい。遅刻するわよ」
なんだろう、物凄く恥ずかしい。夢の内容も起き抜けの第一声も。