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くらやみのこえ

作者: 薗田 朋子

世は魑魅魍魎(ちみもうりょう)の棲家なり

ぬえ 夜叉(やしゃ) 飛び交ういにしえの

闇は遠くになりしとも

おぼろに浮かぶあやし影

目隠し鬼の見る夢は

いずれ浮世の生き地獄

ゆきてかえりし神かくし

眠りほどけてうつし世も

塵にて消えゆくまぼろしか


おかあさんのおなかのなかにね

いるゆめをみたの

おさかなみたいにおよいでいたの

はやくうまれてきたかったの

わたしは はやくうまれてきたかった

にんげんになるためにね

どこかとおいところから

ずっとおよいできたの

よくおぼえているよ

なぜうまれてしまったのかは

よくわからないけれど


生きとし生けるものの

本来は闘争と殺戮

生きるために殺し

殺すために生き

呼吸をするたびに死に

死ぬために呼吸をする

髪のひとすじも細胞の死によって生み出され

生は死のために 死は生のために


ゆめのなかでね

いろんなことをおもいだすの

あついたいようのしたで

たくさんのひまわりが風にゆれていたこと

ひつじをつれてあるいていたこと

かわいた砂の中にうもれるように石のまちがあったこと

そこでたくさんの家族とくらしていたこと

としをとっておじいさんになったとき

そのまちを

ひとつのせんそうがほろぼしていったこと


いでやこの世にうまれては

さりとてくるまれ薄墨の

雲に欠けたる月に散る

世に逆らいて幾星霜

血の色したたるもみじ葉に

魂穢れ 憑きみだれ

明日のゆくえも知らぬとて

何をか ねがうべし


あさ目をあけるとね

まどから光がさしているの

おふとんがあったかくてね

ぬいぐるみをだいて

もうすこしねていたいなっておもう

そんなとき

のぞまれてうまれてきたことを

しあわせにおもうの

そうじゃないときも

あったから


影は光に

光は影に

海の向こう側で起きる貧しい国の戦争は

豊かな国の車を走らせるための手段にしかすぎない

いつも誰かがどこかで食われ

食うものの胃袋はいつも空っぽだ

尽きることのないゲーム

遠吠えをする犬たちの群れ


もっとおなかのなかにいたかったのに

おっこちできたんだね

いきものはみんな

おかあさんのからだをさいて

うまれてくるんだね

ああ

もっとあったかい水の中で

およいでいたかった


すず風わたる葦原の

浮世の闇にこぎ出でて

船のかたへににごり水

櫂にかかるる蝉しぐれ

骨まで洗う銀の月

荒くれ者の刃さえ

とけて消えゆく 川の淵


手をにぎっていてね

もう離さないでね

外はとってもこわいところだよ

おおきな車が走っているし

犬がお散歩しているし

いつまでもいつまでも

離さないでね

わたしが

離したいと

おもうときまで

手を

にぎっていてね

でないと

おっこちてしまうかもしれないから


いきるものたちの群れは

いつも同じところを通ってゆく

そして同じところに帰る

カーニバルは

続けられる

幾多の犠牲を払い

幾多の罪を背負い


うまれてきてよかった

うまれてきてよかった

うまれてきた瞬間から

くるしみがはじまっているとしても

おかあさんのこどもで

うまれてきてよかった

それだけでも

うまれてきたいみがあるんだよ

手を

つないであるこうね

手を


詩のリーディング(朗読)のとき使用した詩で、とても長いです。前世の記憶をもって生まれる子供・狂言まわし・ナレーターの3人の人の語り手をもった劇のセリフとして作りました。

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