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第4話 妹原のアプローチ作戦とは

 弓坂はお婆さんがスウェーデン人で、クォーターであるらしい。ジュースを買って戻ってきた山野が聞いたら教えてくれた。


 母親がハーフで父親とお爺さんが日本人。だから外人みたいな顔立ちなのか。


「この髪も、染めてないんだよ」


 弓坂が自分の髪をつまんで教えてくれる。薬局で売っているカラー剤で染めたような色をしているから、教師にすかさず呼び止められそうだが。


「でもその髪じゃ、地毛って言っても通用しないだろ」と山野。


 弓坂も「うん」とうなずいて、


「だから、面接のときは、すっごく大変だったよぉ。面接の人に、『髪を染めてくるな』って、すっごく怒られたもん」


 それなのによく面接受かったな。点数がよくても髪の色で落とされそうだが。


「だからね、お父さんが学校に電話してくれて、なんとか学校に入れてもらったの」


 外人の血が混ざっているのも大変なんだな。俺には一生縁のない悩みだ。


「ヤガミンのお父さんとお母さんは、どんな人なのぉ?」


 今度は弓坂が質問してきた。弓坂はおっとりぽわぽわしてるから、あんまり緊張しなくなってきたな。


 しかし、親の話か。


「親父は、普通の日本人だよ。母さんは、いない」

「えっ……」


 弓坂の表情がすぐに曇った。


「離婚したのか?」


 聞いてきたのは山野だ。こっちは相変わらずの仏頂面か。


「いや、俺が中二のときに、死んだんだ。脳の病気で」

「そうだったのか」

「ごめんねぇ」


 弓坂が泣きそうな感じになっているから、弁解しておこう。


「もう昔の話だから、全然気にしてない。そんなことより、今後の話をしようぜ」

「今後の話?」


 小首をかしげる弓坂のとなりで、山野が照り焼きバーガーを持つ手を止めた。


「八神。お前、まさか」

「ああ。妹原のこと、まだ諦めていないぜ」

「妹原さんって、うちのクラスの妹原さんのことぉ?」


 しまった。弓坂にはまだ言ってなかったんだ。


「八神はどうやら妹原のことが好きになってしまったらしい」


 山野がため息まじりにこたえると、「え、ほんとに?」と弓坂の顔が明るくなった。


「それじゃあ、妹原さんに、『好きです』って告白するの?」

「えっ、告白?」


 そうか。妹原と付き合うのが目標なんだから、最終的には告白しなければいけないのか。


 でも、俺が告白するのか? 『好きです』って、少女マンガに出てくる、どこかの金持ちの御曹司みたいにか?


 ない、ない。あり得ない。告白するシーンを三秒だけ想像してみたが、あまりにあり得なすぎて顔が熱くなってきた。


「ヤガミン? どうしたの?」


 頭を抱えていると弓坂がまた心配するか。


「まあしかし――」


 俺の情けない姿を見かねたのか、山野がコーラの入ったカップを置いて、


「告白するにしても、まずは妹原に近づかないと話にならないだろ」


 実にごもっともな意見を言った。


 でも近づくと言っても、具体的に何をすればいいのだろうか。妹原に気づかれないように後ろからこっそり近づけばいいのか? しかしそれだとただのストーカーになってしまうが。


「近づくって言ってもなあ。どうすればいいんだよ」


 俺が腕組みしながら唸ると、弓坂もいっしょになって考えだした。こういうのは女子の方がいい意見を出してくれるかもしれないが。


「うーん、どうすればいいんだろうねぇ」


 どうやら妙案は浮かばなかったようだ。


「順当に考えたら、まずは会話して、仲良くなったらいっしょに遊ぶ――といったところか」


 ここはやはり山野に頼るしかないか。


「俺がクラスで声をかければいいのか?」

「まあ、そうなるな。クラス以外で声をかける場所はないからな」


 それもそうだが。


 しかし、俺がクラスで妹原に声をかけるのか。


『よ、妹原! 今日も可愛いな!』


 こんな感じか? ちょっと堅い気がするが。


 これをもっと渋谷っぽい感じに変換すると、


『よっす妹原ちゃん。今日もかわうぃーねぇ』


 ……いやないだろ絶対。


 こんなの毎朝右手をあげたりなんかしながらやっていたら、ほぼ間違いなく引かれるぞ。あれは挫折を経験したお笑い芸人だからこそ成せる業なのだ。


 いや待てよ。どこかのイタリア紳士みたいな軽快な言葉で口説くのはどうだろうか?


『ヘイ、妹原サン。今日もきれいだからこれからサ店にでも行かないカイ?』


 ……これもないな。


「八神、平気か?」


 気づくと山野がじっと俺を凝視していた。


「かなり考え込んでいるみたいだが、声をかけると言ってもナンパするわけじゃないぞ。なるべく自然に近づいて、何気ない会話でまずは切り崩していくんだ」

「そんなこと簡単にできるか? 意識するとどうしても不自然になっちまうだろ」

「まあ、そうだな。席が近ければ会話もしやすいが、入学してまだ三日目だから席替えは当分ないだろうし、教室の外でやる授業も体育ぐらいしかないだろうからな」


 体育は男女別だから、近づくのは不可能だ。当然だが。


「後は部活という線も考えられるが、妹原は部活には入らないだろうから、これもダメか」


 つまり絶望的なんじゃないか。


 妹原に近づくのがこんなに難しいなんて。これでは付き合うどころか、告白するチャンスすら与えてもらえないぞ。妹原のことはやはり諦めるしかないのか。


「妹原の友達がいれば、近づきやすくなるんだが」


 山野がポテトをつまみながら意味深なことをつぶやいた。


「友達?」

「そうだ。妹原の友達を味方につければ、その友達を中継して妹原に近づきやすくなるぞ」


 言っている意味がよくわからないが。


 山野がコーラのカップを持って、ストローを口に銜える。


「本命の女子をつかまえるためには、会話して仲良くならないといけないが、直接的に攻めると好意がバレるから、繰り返すと相手に警戒される危険性がある。だからなるべく自然を装って近づいていかないといけないのだが、自然を装うのも限度がある」


 その通りだ。だからこうして頭を悩ましているのだ。


「だから本命の近くにいる友達をつかまえて、その子と仲良くなるんだ。そしてその子と会話しながら、さりげなく本命の妹原と会話する。遊びに行くときも、八神が誘うのは友達の方で、妹原は友達から誘ってもらう。そうすれば好意を隠しながら妹原に近づくことができる」


 なにっ。よくわからないがすごい妙案じゃないか。弓坂も「わあ、ほんとだぁ」と目を丸くしてるし。


 山野って実は天才なんじゃないか? 俺、こいつと友達になってよかったぜ。


「と、俺の姉貴が言っていた」

「姉貴の教えかよ!」


 思わず突っ込んでしまったが、山野は全力でスルーだ。このジト目伊達メガネめ。


 でも、妹原の友達を巻き込む作戦はかなり効果的だな。というより今はこれしか思いつきそうにない。


 そうなると、次はその友達を早く探し出さないといけないのか。これもまた難儀そうだな。

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