解説
本作で書き切れなかった箇所やわかりづらい箇所が散見していますので、本作の解説を残します。本作を完結させてから年月が経過していますので、情報が誤っていたら申し訳ありません。
この解説は本作のネタバレを含みます。閲覧は自己責任でお願いいたします。
◆透矢と上月の物語開始時の関係について
#06で透矢が言っていますが、彼と上月の関係は複雑です。本作の物語開始時のふたりの関係は、友達とも恋人とも言い難い、かなり特殊な関係となっています。兄妹(または姉弟)が一番近いのかなと思いながら執筆していました。
ふたりの関係がどうして複雑になったのか。その要因は彼らの過去にあります。
[透矢の過去]
彼の過去を時系列にすると以下の通りです。
2歳:両親が別居する。
母に連れられて日本へ帰化する。
6歳:上月から遠回しに振られる。
13歳:母と死別する。母の死因は脳卒中。
上月とふたりでいる時間が増える。
15歳:早月高校へ入学する。
幼い頃に上月に振られていると思い込んでいるため、彼の中で上月が恋人の対象外となっています。
そして両親が別居し、母親が亡くなっているため、上月とふたりでいやすい環境が出来上がっています。
透矢としては、独りで暮らすのは寂しいので、上月にそばにいて欲しいと思っています。彼女が恋愛の対象外であるかどうかは関係ありません。
また上月はごはんをつくってくれるので、そこが意外と大きな要因となっています。透矢は彼女に依存している(甘えている)のです。
[上月の過去]
彼女の過去を時系列にすると以下の通りです。
7歳:小学校のサッカークラブに入団する。
透矢の母がよく応援に来てくれた。
12歳:中学校の女子サッカー部へ入部する。
先輩から嫉妬されて執拗ないじめを受ける。
13歳:透矢の母と死別する。
中学校の女子サッカー部を辞める。
透矢の面倒を見るようになる。
15歳:早月高校へ入学する。
上月も可哀そうな子です。中学校で部活の先輩から一方的にいじめを受け、中学校で孤立してしまいます。
透矢の母の死が追い打ちをかけます。上月は透矢の母と仲が良く、透矢の母が心の支えになっていたので、この事件で彼女は一気に追い詰められます。
しかし透矢という都合のいい存在が身近にいました。彼は空気が読めるので、上月の触れられたくない心の傷を詮索しません。
彼女もまた孤独に苛まれていたため、透矢へ依存していくことになり、物語開始時の特殊な関係性が出来上がっていったのです。
[補足]
本作の執筆をはじめた頃に、透矢と上月の過去の話を番外編として上月の視点で書く予定でした。しかし内容があまりに暗く、書くのを辞めてしまったため、彼らの過去がほとんど本編に出ないまま、本作が完結してしまいました。透矢と上月の関係はかなりわかりづらかったと反省しています。
◆上月が透矢にごはんをつくるようになった理由
透矢の亡くなった母へ恩返しがしたかったというのが、当初の理由です。この時期に中学校の部活を辞めているので、暇な時間が急にできたというのも理由に挙げられます。
上月は主に透矢に対して身勝手な言動が目立ちますが、実は義理堅い子なのです。
◆上月が透矢を異性として意識しはじめた時期
透矢を異性として意識しはじめたのは、彼の面倒を見てしばらく経ってからです。とはいっても、高校へ入学するまでは、上月は透矢が自分のことを好きだと思い込んでいたため、「向こうがコクってくるなら、ちょっとくらい相手してやってもいっか」程度にしか思っていませんでした。
しかし#11で透矢から思いがけない話をされたため、彼を急速に意識することになります。#11で上月が急に切れたのは、そうした理由があったのです。
◆透矢はなぜあんなに鈍感なのか?
幼い頃に上月に振られていると思い込んでいるのが、彼の鈍感たる所以です。上月のことは本質的に好きなのですが、幼い頃の記憶のせいで無意識的に自信が持てないのです。
上月のわかりづらい態度にも原因があります。#207で彼女自身で言っていますが、彼女は恥ずかしがり屋なので、肝心なところで自分の気持ちに素直になれないのです。
上月が弓坂みたいに素直だったら、物語はだいぶ変わっていたかもしれません。
◆#44で上月が中越のデートに応じた理由
これは透矢の気を引くためです。透矢に嫉妬させて好意を自分へ向けるという、ある種のテクニックです。
やりすぎて#53で透矢が切れてしまいましたが、彼を怒らせる気はなく、自分の気持ちを彼に気づいてもらいたかったのです。
中越に対する好意はありません。#61で宮代が言っていますが、上月は中越の正体を知っているため、デートの相手はだれでもよかったのです。
◆妹原は透矢の気持ちに気づいている
妹原は本作の終盤まで透矢の好意に気づいていないような態度をとっていますが、文化祭の頃くらいから気持ちに気づきはじめています。それでも気づいていない振りをしていたのは、上月を裏切れなかったからです。
◆妹原が上月を裏切れないのは友達が少ないから
妹原は幼い頃から英才教育を受け続けているため、友達がつくれないのは仕方ありません。彼女が上月を大事にする本心は、優しさというより、友達をなくしたくないという恐怖心がその中心です。
◆妹原が上月の気持ちを知った時期
#34で透矢が帰った後、上月に謝罪の電話をした際に気持ちを確かめたので、五月の段階で既に知っています。
◆山野が美容師にこだわっている理由
美容師という職業に対する好みや憧れが強いですが、根源的な理由として、彼が父親を嫌っているという設定があります。彼の父親は#69でちょっとだけ登場します。
山野の父親はうだつが上がらないサラリーマンなので、山野は父親のようになりたくないのです。
この件も執筆すべきでしたが、本編がややこしくなるので執筆できませんでした。
◆山野はなぜ高校一年で独立心があんなに強いのか?
これは元カノの雪村の影響です。自分を証明できるものを早く見つけないと、雪村に合わせる顔がないと思っていたためです。
バスケがうまいのに部活を中学で卒業したのも、独立心の強さが理由です。サッカー部を辞めた上月とは理由が違います。
◆弓坂は「普通ではない」ことに劣等感を持っている
弓坂は家や血のつながりが特殊であるため、普通ではないことにある種の劣等感を持っています。彼女が注文恐怖症だったり、また友達とごはんを食べに行きたがるのは、この劣等感が関係しています。
◆弓坂が山野を異性として意識しはじめた時期
ゴールデンウィークの後で席替えをして、弓坂と山野はまた席が近かったので、六月か七月くらいから意識しはじめています。ゴールデンウィークの後の席替えは、#43で書いています。
弓坂の気持ちの変化は、透矢や上月の恋愛が大きく影響しています。それは妹原も同じです。
◆弓坂は透矢を好きになっていた
#140で弓坂が透矢へ告白じみたことをしていますが、半分以上は本心です。失恋した直後に透矢から優しくしてもらったので、気持ちがぐらついていたのです。
ですが、弓坂もまた上月や妹原を裏切れないので、一線を超えないように気持ちを抑えていました。
弓坂は変わった言動から天然っぽい印象ですが、考え方は意外としっかりしています。
◆雪村は山野とよりを戻そうと考えていた
雪村は山野と別れてドイツへ渡りましたが、気持ちは揺れていました。将来のために彼と仕方なく別れたので、何かの切っ掛けでよりを戻そうと考えるのは自然な発想です。
#108で雪村が日本へ帰っていたのは、本業の絵が行き詰まっていたからです。精神的に追い詰められているときに大好きな山野と再会したので、よりを戻す選択が頭を過ぎっていました。
#151〜#153で透矢はかなり出しゃばりな行動を起こしていますが、あのタイミングで雪村を説得しなかったら、弓坂は不幸になっていたかもしれません。




