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第184話 クリスマスパーティ

 部屋の飾りつけも一段落し――というか落としどころが見つからずに延々と作業するのが飽きたので、リビングの一帯に飾りがつけられたところで完了ということになった。


 テーブルには女子たちが買ってきたケーキやお菓子の袋が置かれて、パーティのはじまりだ。


「うほつ、なにこのケーキ!? 超うめー!」

「ふふっ。駅前のケーキ屋さんで、買ったケーキだよぅ」

「あの店って、最近できたばっかの店じゃね? 弓坂マジでセンスいいじゃん!」


 チョコレートケーキに舌鼓を打つ桂が弓坂をべた褒めする。弓坂も「ありがとぉ」と、いつもの屈託のない笑顔で返す。


 あんなやつに褒められても一応は嬉しいんだな。


 そんなやつらがいる一方で、


「くそぅ、ヅラめ。ゆ、弓坂と、いっぱいしゃべりやがって」


 俺のとなりで爪を噛んでいそうな感じで木田が悪態をついている。こいつは女子と合流してから、未だに弓坂と会話できていないのだ。


 三人で作業していたときは、弓坂への未練と好意を気持ち悪く語っていたのに、肝心なことは何もできないんだよな。以前に自分で言っていたが、相変わらず残念な男だ。


「なら、お前もしゃべればいいだろ」


 俺がぼそりとつぶやくと、木田はばつの悪そうな顔で口を閉ざす。今日もどうやらアタックできないようだ。


 俺も妹原にアタックしたいんだけどな。けれど妹原は松原と話しているから、ふたりの間に入るのは難しそうだ。


「妹原さん、スケベな男たちにじろじろ見られて、大変だったでしょう?」

「ううん、そんなことないよ。接客するの、すごく楽しかったよっ」


 ふたりはどうやら文化祭の出し物について振り返っているみたいだ。


 俺は妹原の衣装をじろじろ見ていたスケベのひとりだから、話の輪に入らない方がよさそうだな。


 クリスマスパーティと言っても、みんなでケーキや菓子を食べるだけだから、特別なイベントは行われない。


 メインかつ最大のイベントであるプレゼント交換も終わってしまったので、後は夜までしゃべったり、ゲームなどをして遊ぶだけだ。


 これはこれで悪くないのだが、せっかくのクリスマスパーティなのだから、プレゼント交換に勝るイベントはないだろうか。


「山野。この後は何かやらないのか?」


 俺のゲーム機を断りもなくいじっている山野に訊ねてみたが、山野は表情のないメガネ面で首の向きだけを変えて、


「この後は特に何も予定していないが、何かしたいことでもあるのか?」


 逆に聞き返されてしまった。


「いや、特にしたいことがあるわけじゃないが、このままだらだらしてるのは微妙じゃねえか?」

「そうか? 俺はこれでいいと思っているが。だがお前が何かやりたいことがあるというのなら、付き合ってやってもいいぞ」


 こいつはどうやら本当に何も考えていないようだ。付き合ってやってもいいとか、言い方が微妙に恩着せがましいし。


 だが俺も特別にしたいことがあるわけではないから、このままだらだらしていてもいいかな。空気を読まない発言をしてみんなから嫌われるのも怖いし。


「八神。このゲーム機はどうやって起動するんだ? 使い方がわからないんだが」


 山野は家庭用ゲーム機であるワークステーションの使い方がわからないようだ。


 ワークステーションは女子でも持っているくらいメジャーなゲーム機なんだけどな。仕方ないから、ゲームのやり方をいちから教えてやるか。


 夕食はピザを頼んで、和気藹々なクリスマスパーティの時間がゆっくりとすぎていく。


 俺と山野が何気なくはじめたパーティ系のゲームに弓坂や妹原が食いついて、気づけばリビングはゲーム大会の場と化していた。


「あっ、弓坂っ、ちょっと待て!」

「ダメだよぅ。ヤガミンにさっきやられちゃったから、仕返し!」


 弓坂の操るプレイヤーがネット際まで走り込んで、強烈なスマッシュをコートの右の端へ打ち出す。


 妹原や山野はゲームがうまくないので、だれでもできるテニスのゲームでトーナメント戦を開催することにした。


 とはいえ、俺たちの中で俺と弓坂に敵うやつはいないので、必然的に俺と弓坂が順調に勝ち進んでしまった。


 桂と木田もゲームはうまい方なんだけどな。それでも弓坂の高速サーブや、意表を突くレシーブに対処することはできなかった。


「弓坂って、すげえゲームうまかったんだな」

「あいつのうまさは八神を凌駕するからな」


 舌を巻く木田に山野がつぶやく。弓坂のおっとりした見た目から想像できないだろうから、驚くのは無理もない――などと達観している場合ではないっ。


 ゲームの優勝をかけて現在進行形で弓坂と対戦しているが……強え強え。


 俺はこのゲームで同中の連中をことごとく撃退してきたが、ゲームマスターの弓坂は俺のレベルすら凌駕していた。


 ストロークやロブショットを地道に使って弓坂を左右に翻弄させたいのだが、弓坂は俺の考えを読んでいるのか、俺の予期していない方向へボールを打ち返してくるのだ。


 翻弄させるはずが逆に翻弄されて、気づけばゲームが弓坂のペースになっている。


 それでも俺は足掻いたが、善戦むなしく俺は弓坂に敗れてしまった。


「すごいっ、未玖ちゃん!」

「まったくもって想像していなかった才能だわ」


 素直に賞賛する妹原がいる一方で、松原はピザを食べるのも忘れて絶句している。桂もぽかんと口を開けて茫然としているみたいだった。


「弓坂って、すんげえんだなあ。ライトに勝っちゃうやつ、初めてみた」

「ピザのチーズがテーブルに落ちるぞ」


 山野に注意されて、桂が慌ててピザの切れ端を口へ運ぶ。


 俺はゲームのコントローラを床に置いて弓坂に言った。


「弓坂は、やっぱすげえな。お前には勝てねえわ」

「ヤガミンだって、あたしにいつも勝ってると思うけどなぁ」

「そんなことはねえだろ。この前のゲーセンの勝負と通算して、四勝六敗だ」

「あっ、記録なんて、つけてたんだぁ」


 弓坂が口もとへ手を当てて、くすくすと笑う。


 勝敗の記録なんてつけてないから、ぶっちゃけ適当に言ったけど、勝率はだいたいこんな感じだ。


 ゲームで思わず熱戦を繰り広げたけど、優勝しても景品は何もないので、必死になって優勝を目指さなくてよかったんだけどな。けど、勝負に負けると損得は関係なく悔しいな。


 弓坂と後日に対戦することもあるかもしれないから、あのテニスゲーム、こっそり練習しておこうかな。


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