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第183話 プレゼント交換

 クリスマスパーティに参加するみんなが浮かれている中、ただひとり、部屋の隅でうつむいているやつがいた。


 上月だ。あいつは三角座りで膝を抱えて、うつろな目でテーブルの一点を見つめている。


 俺と喧嘩しているから、今日は来ないんだろうなと思っていた。けれど、こいつのこんな姿を見ても、俺はなんて声をかけたらいいのかわからない。


 他のみんなも声をかけづらいようで、だれも上月に話しかけていない。せっかくのクリスマスパーティなのに、あいつだけ仲間はずれになっちまう。


「えへへぇ、ライトっちゃんなにしてんのぉ?」


 思案する俺の肩に桂が腕をまわしてくる。となりにいる弓坂もすっかり上機嫌だ。


「ヤガミンはぁ、プレゼントは何を買ったのぉ?」

「俺か? 俺は、ええと……って、それを今言ったらダメだろっ」


 俺がはっとして突っ込むと、桂と弓坂がすかさず爆笑する。今の俺はそんな気分じゃないっていうのに。


 妹原も松原や木田と仲良く紙飾りをつくっていて、だれも上月をかまおうとしない。このまま放っておいていいのだろうか。


「いよっしゃあ! それじゃあもう、プレゼント交換やっちまおうぜぇ!」

「うん! やろぉやろぉ!」


 桂が調子に乗って腕を突き上げる。弓坂が飛び跳ねそうなテンションで賛同した。


 だがまだ些か冷静な木田と松原が顔をしかめて、


「あれ、もうプレゼント交換をやってしまうのか?」

「そうよ。飾りつけもまだ終わってないのに、気が早いわよっ」


 現状を静かに分析すると、桂が露骨に嫌そうな顔をした。


「ええっ、飾りつけなんて、もうどうでもいいじゃん。さっさとプレゼント交換して、クリスマスの気分を味わおうぜぇ」

「クリスマスの気分は存分に味わってると思うがな」


 山野がさらに追い討ちをかけたものだから、桂は口を尖らせて拗ねてしまった。


「なんだよなんだよ。みんなして、つれねえなあ」

「お前がわがまま言ってるだけだろっ」

「うるせえうるせえ! だったらお前らで、楽しく紙飾りでもつくってればいいだろっ。へんだ!」


 へんだって、お前は小学生かっ。桂は泣き出しそうな顔で、ついにへそを曲げやがった。


「桂くんもああいう風に言ってるし、プレゼント交換やっちゃおうよ」


 妹原が見かねて助け舟を出す。あんなやつのわがままなんて相手にしなくていいのに、妹原は真面目だなあ。


 それに、よくよく考えると、プレゼント交換を先にやってしまっても弊害はないし、正直に告白すると俺も紙飾りをつくるのが飽きているから、妹原の厚意を素直に受け取ろう。


「ぶっちゃけ紙飾りをつくるの飽きてるしな。プレゼント交換やっちまうか」

「そうしよう」


 すると部屋の隅でみっともなく拗ねていた桂が急に元気を取り戻した。俺と妹原の肩を両手で抱えて、


「さすがライトにクラス一の優等生ちゃんの妹原ちゃんだぜっ。話がわかるぅ!」

「調子に乗るなっ」


 俺が桂を押しのけると、妹原と弓坂が声を出して笑った。


 一方の木田と松原は、思わぬ展開に困惑していたが、


「家主のライトくんがそう言うなら、仕方ないか」

「そうね。桂が調子に乗ってるのは気に入らないけど」


 不満は残るが俺たちに賛同してくれた。


 残るは山野と上月だが、上月には聞けないな。


「山野、お前もいいよな」

「俺はそれでいいぞ」


 知らぬ間にソファでくつろいでいた山野がテレビを観ながら相づちを打った。っていうか、今日の幹事はお前だろ。なに勝手にテレビをつけてるんだっ。


 夏休みのときなんかもそうだったけど、みんな計画性がないというか、うちのクラスの連中は全体的に適当だよな。


 いや、こんなことで頭を悩ます俺が神経質なのか? 俺の考えは世界標準でスタンダードかつグローバルな発想だと思っていたのに。


 なんていう俺のくだらない誇大妄想はこの辺りで切り捨てて、プレゼント交換だ。


 プレゼントはランダムかつ公平に交換されるように、くじ引きでもらえるものを選ぶらしい。


 それぞれで用意したプレゼントを一箇所にまとめて、一番から八番までの番号を適当に割り当てる。プレゼントはラッピングされているので、今は中身を知ることができない。


「ううっ、楽しみだぜぇ」

「なんだか、どきどきするねっ」


 唸る桂に妹原が相づちを打つ。俺も少しずつ緊張してきた。


 テーブルの上に散らかっている色紙やゴミを片して、みんなでテーブルを囲む。


 ティッシュの空箱をくじ引きの抽選箱に見立てて、一番から八番までのくじを入れる。中でぐちゃぐちゃにかき混ぜて、プレゼント交換の抽選会のはじまりだ。


「じゃあプレゼント交換をはじめるぞ。だれのが当たっても返品ややり直しはなしだからな」

「自分のが当たっちまっても、返品できないのか?」


 抽選箱をもって音頭をとる山野に木田が質問する。山野がしばし口を噤む。


「む、それは考慮していなかったな。その場合はすまないがやり直しだ」


 木田にしてはいいところに目をつけたな。自分の用意したプレゼントなんて、もらってもこれっぽっちも嬉しくないもんな。


「それじゃあ、妹原から反時計回りにまわすぞ」

「うんっ」


 山野が抽選箱を妹原へ渡す。反時計回りだと、俺は三番目にくじを引けそうだ。順番は、まずまずだ。


 ああどうか、妹原のプレゼントが当たりますように。


「いよっし! これだあ!」

「いちいちうるさいわよ」

「ヅラ、少しだまれっ」


 無駄に声を張り上げてくじを引く桂を、松原と木田がたしなめる。こいつの落ち着きのなさをだれか治療してくれないだろうか。


「んじゃ、次はライトっちゃんだよん」

「お、おう」


 ぼんやりしているうちに俺の順番がまわってきた。うう、緊張するぜ。


 抽選箱に手を突っ込み、中のくじを触る。手の感触だけでは、どれが当たりなのかまるで検討がつかない。


 妹原のプレゼントじゃなくても、とりあえず女子の用意したプレゼントがほしいよな。その方がもらったときに嬉しいし。


 間違っても、木田や桂が用意したへんてこなプレゼントは嫌だぞ。木田なんか「私が用意したトレーディングカードセットは――」と先日に口走っていたからな。


 二、三度箱の中を漁って、これ以上漁っても無意味だと悟り、俺は底のくじを引いた。さあ、吉と出るか、凶と出るか。


 木田、松原、上月とまわり、最後に幹事の弓坂と山野がくじを引いて、くじ引きが静かに終了した。緊張感からか、無言の空気がしばらく流れる。


「じゃあ一番からプレゼントを渡していくぞ。一番のくじを引いたのはだれだ?」

「あ、あたしだぁ」


 一番のくじを引いたのは、どうやら弓坂のようだ。携帯ゲームソフトのパッケージくらいの箱が渡される。


 プレゼントを開ける前に全員に配って、自分のプレゼントが当たったやつはいなかったらしい。


 俺のくじは八番だ。金色のリボンがついた紙袋はとても軽い。トレーディングカードセットではないことは確実だった。


「ああ、可愛いボールペンだぁ」

「あ、それ、わたしのっ」


 弓坂のプレゼントが、どうやら妹原の用意したボールペンだったようだ。ボールペンと言っても、その辺のデパートや文房具屋で売っていなそうな、黒の高級そうなボールペンだ。


 妹原があんな渋いプレゼントを用意していたのは意外だったが、弓坂め。いいなあ。


「じゃあ、わたしのは……きゃっ!」

「あ、それ俺んだあ!」


 妹原が少し大きめの箱を開けた途端に驚いて後ろへたおれる。桂が用意したのはびっくり箱……って、お前は再び小学生かっ。


 桂の獲得したプレゼントは、俺のと同じで紙袋に入っているが。


「俺のはすんげえ重てえぞ。これ、何が入ってんだ?」


 桂が嬉しさをひた隠しに中身を取り出すが、


「はあ!? 何これ、ハム!?」

「はい、それはあたしのね」


 松原が用意したのは、お歳暮で送るハムだったようだ。


「っていうか、あれ、家にあったやつだろ」

「急に呼ばれたから、プレゼントを用意する時間がなかったのよ」


 プレゼント交換が早くもぐだぐだになりつつあるが、気を取り直して、上月がもらったのは、弓坂の用意したタンブラーだったようだ。


 次に木田がもらったのは、山野が用意したヘアトリートメントだ。


「うわ、なんだよこれ。超いらねえ」

「何言ってるんだ。それは薬局で市販されてない、プロ用のトリートメントなんだぞ」


 山野がいつもの無表情で力説するが、トリートメントなんてもらっても嬉しくないだろ。


 俺の用意したペンダントは、山野の手に渡っていた。俺が用意したものだと判明したときには、桂と木田に大笑いされたが、お前らのへぼプレゼントなんかより全然いいだろっ。


 木田のトレーディングカードセットは松原の手に渡り、松原の怒りが木田へ全力で注がれた。だからカードなんてやめとけと忠告したんだ。


「んじゃ、最後はライトっちゃんじゃね?」

「あ、ああ」


 俺のこのプレゼントは、だれからのだ? 今までの結果を分析すれば、答えはおのずと導き出せるはずだが、緊張しているから頭がはたらかない。


 ええい、ごちゃごちゃ考えるのは面倒だ。さっさと中身を確認してしまえ。


 若干自棄になりながら紙袋から中身を取り出す。出てきたのは、男性用の茶色の手袋だった。


「あ、手袋だぁ」

「可愛い」


 プレゼントの重量から衣類だろうと予想していたが、手袋だったんだな。ちょうど俺が欲しがっていたものだ。


 右手に手袋をつけてみる。中は羽毛がふかふかしていて、とても温かい。この時期にぴったりなプレゼントだった。


「なんだよ、手袋とか、つまんなくねえ?」

「きみのふざけたプレゼントよりましだろう?」

「あんたらの、でしょ」


 松原の容赦ない突っ込みが桂と木田に入れられて、俺や妹原は思わず大笑いしてしまった。


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