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第150話 信ずる何かのために

「えっ、奢ってくれるの?」


 上月はまだお昼を摂っていなかったので、俺は上月と近くのファストフード店へと向かった。


 そして上月に奢ることを伝えると、上月は少し腫れていた目をきょとんと丸くした。


「この前から、親父のことで迷惑ばっかりかけてるから、その、お詫びだよっ」

「迷惑って、あたしが余計なことばっかりしてるだけなのに」


 カウンターの前でそんな会話ばかりしていたので、店員から注文を催促されてしまった。


「そんなことはいいから、早くメニューを決めてよ」

「そんなことって、お前――」


 上月が俺のシャツの半袖を引っ張るので振り返ると、後ろに行列ができていた。真後ろにいるおばさんは腕組みして、早く注文しろというオーラを放出しまくっている。


 プロレスラーみたいに太い二の腕で首を絞められたら、俺の細い首は一瞬で引きちぎられるだろう。大惨事になる前に、さっさと注文を済ませてしまおう。


「お前は何にするんだ?」

「あんたと同じでいいわよ。いいから早くっ」


 上月もおばちゃんたちの殺気にビビリまくっているみたいだ。


 じゃあ考えるのが面倒だから、照り焼きバーガーのフライドポテトのセットをふたつ注文しよう。早急に注文して、後ろのおばさんに次を譲った。


 上月は自分が食べる分の代金を出すと言い張ったので、結局奢らずにハンバーガーのセットを持ち帰った。


 いつもはファミレスなんかに行くと、奢れとしつこく捲くし立ててくるくせに、いざ奢ると言うと遠慮されるんだよな。


 上月との付き合いはそれなりに長くなってきたが、こいつのその辺りの考え方は未だによくわからない。


「持ち帰らないで、お店で食べていってもよかったんじゃないの?」


 上月にしては珍しく呑気なことを言った。


「いや、この時間はだれが見てるかわからないから、店で食べない方がいいだろ」

「注文してるときにたくさん見られてたと思うけど」


 他人の目を忍ぶなら、デリバリーにすべきだったかな。


 デリバリーと言えば、最近はファストフード店やファミレスでデリバリーを開始しているが、利用客はいるのだろうか。


 割高のデリバリーでハンバーガーを頼むくらいだったら、近くのコンビニで弁当でも買った方がコストパフォーマンスは高いと思うが。


 どうでもいい思慮は路肩の隅にでも退けておいて、ハンバーガーのセットを持って帰宅した。


 リビングのテーブルに包み紙に包まれたハンバーガーとポテトを並べる。時間はお昼の十二時をすぎてしまった。


 ハンバーガーにかぶりつきながら、テレビのリモコンを操作する。テレビをつけるとお昼のバラエティ番組が放送されていた。


 どうやら毒舌で人気を博している芸能人が食レポをしているみたいだ。最近話題になってるっぽいスイーツを食べて、本音のような批評をしているみたいだけど、最近は毒舌で腕を鳴らす芸能人が増えたよなあ。


「そっか。今日って平日なんだっけ」


 ソファに座っている上月がテレビを見てつぶやく。このテレビ番組は平日の昼に放送されている番組だったな。


「最近は毒を吐く芸能人が増えたよな。こういうの俺はあんまり好きじゃないけど」

「そうね。あたしもそんなに好きじゃないかも」


 その後も取り留めのない会話をして、簡単な昼食を済ませた。


「お父さんとはこれから会うの?」


 セットでついてきたオレンジジュースの残りを飲みながら上月が聞いてきた。


「いや、今日は会わない。会うのは明日にしようと思ってる」

「そうなんだ」


 上月が異論せずに相づちを打つ。


「親父よりも弓坂の方を優先させたいんだよ」


 言いながら俺はテーブルに置いたスマートフォンを操作して、雪村の電話番号を表示する。その画面を上月に見せると、上月が驚いて声を上げた。


「えっ、それ、どうやって調べたの?」

「桂が山野の同中おなちゅうだからさ、あいつに頼んで教えてもらったんだよ」

「ああ、そうだったんだ。パソコンでも駆使して電話番号を盗んだのかと思った」


 そんなサイバー犯罪じみたことを俺がするわけないだろ。俺の情報処理技術力的な観点で考えても不可能だ。


 俺はスマートフォンの画面を消してテーブルに戻した。


「とりあえず夕方あたりにでも電話してみて、雪村がどう思っているのか確かめてみるつもりだ。彼女が山野とやり直したいと思っているんだったら、仕方がない。弓坂には諦めてもらうしかないんだろうが、そうではないんだったら、弓坂にもチャンスはあるかもしれない」

「そうね」

「雪村の気持ちがわからないことには、手の打ちようがないからな。彼女がどう思っているのかを率直に聞いてみるつもりだ」


 それ以前に、知らない電話番号からかかってきた電話なんて受けてくれないかもしれないが。


 上月は空になったオレンジジュースの容器を置いて、俺をじっと正視している。俺が余計なことをしていると思っているのだろうか。


 滔々と流れ落ちる滝の水のように責められる前に言い訳をしておかなければ。


「山野と雪村を引き裂くようなことはしないから、心配するな。そんなことをしたら、山野が嫌な思いをすることくらい、俺だってわかってるんだから」

「別にあんたが変なことをするだなんて、思っていないわよ」


 上月が呆れてため息をつく。窓の向こうの空を見上げて言った。


「あんたは、自分が大変なのに、よくそこまでする気になるわね。バカっていうか、真面目っていうか」


 真顔でバカって言うな。


「弓坂の恋愛に首を突っ込んじまったし、あいつらにはいつも助けられてるからな。だから、できることなら力になってやりたいんだよ」

「そうね。今のままだと、あのふたり、なんとなく気まずくなって終わっちゃいそうだもんね」


 まさしく上月の言う通りだと思う。


「そうだよな。そうならないように俺たちがサポートしてやらないといけないよな」

「うん。首を突っ込みすぎるのもどうかと思うけど、今はふたりを助けてあげた方がいいと思う」


 上月がうなずいて言った。


「あんたの思う通りにやってみなさいよ。あたしと雫もサポートしてあげるから」

「ああ。すまねえな、なんか」

「別に謝らなくてもいいわよ。あんたが悪いことをしてるわけじゃないし、未玖とエロメガネのためなんだから」


 上月と妹原も山野と弓坂のことを心配している。


 俺たちはふたりに幸せになってほしいと願っているが、山野と雪村がどうしたいと思っているのかまだわからないから、よくない結果に転ぶかもしれない。


 まわりが必要以上に介入して、当人たちの恋愛感情を不正に操作したところで、だれも幸せにならないのだから。


 ああ、恋愛って難しいんだな。妹原に一目惚れしたときは、そんな深いところまで考える余地がなかったけど、身を持って思い知らされる。


 俺や上月が介入したところで、結局邪魔になるだけなのかな。俺も窓の外の青空を見上げて思った。


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