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第14話 上月の小悪魔が炸裂!

 上月はうるさいやつだし、人を平気で殴ったりするけど、ご飯だけはいつもつくってくれる。


 今日もうちのシステムキッチンを占有して肉じゃがをつくっているが、上月にしても、山野にしても、よく俺に協力してくれたと思う。


 俺の恋が成就しても、金もレアカードも手に入らないのにな。


 でも上月がご飯をつくるのにはそれ相応の理由があって、どうやらご飯をつくる替わりに親から小遣いをもらっているようなのだ。


 前にあいつに聞いたら、「だから、変なこと考えないでよっ」と念を押されたからな。


 だから上月がご飯をつくるのは、小遣い稼ぎというか、バイト感覚に近いのだろう。そうじゃなければ、俺なんかのためにわざわざ夕飯なんてつくらないだろうよ。


「透矢。肉じゃができたから、持っていって」


 上月ができた肉じゃがをキッチンのカウンターに置いたので、それをダイニングのテーブルへ置く。


 それでも上月のつくる料理はうまいから、不定期でもつくってくれるのはありがたいんだよな。俺の要望をほぼ百パーセント聞き入れてくれないのが難点だが。


 冷凍餃子を焼いたのと、サラダ。くわえて味噌汁と白米をよそえば今晩のメニューが完成だ。


 リビングのテレビのチャンネルを適当にまわして、いただきます。でも今日は面白くないクイズ番組しかやっていない。


「そういえば昨日、山野と電話でどんな話をしたんだ?」


 若布わかめの味噌汁を少しすすりながら切り出してみると、上月は白米を箸で少しつまんだ。


「別に。今日の昼休みにあんたと突撃しにいくから、準備しとけって。それだけ」


 本当にそれだけかよ。それなのにあんなにスムーズに会話できるのかよ。


「山野と直に話すのは今日が初めてだったんだろ? それなのによくしゃべれるな」

「しゃべるって言ったって、あんなの適当に合わせてるだけじゃない。そのくらいだったら、だれだってできるわよ」


 俺だったらたぶんできないけどな。弓坂と会話するのだって未だに緊張するからな。


 上月が俺をチラッと見てから、肉じゃがのじゃが芋を箸でぶっ刺して言った。


「ま、あんたみたいなダメ人間じゃ、雫と仲良くしゃべれるのは十万光年くらい先なんだろうけどね」

「う、うるせえ」


 十万光年は言い過ぎだ。せめて一万光年くらいにしておけ。


 しかし、こいつにしても山野にしても、会話のうまいやつがうらやましいぜ。どうすれば山野みたいにスラスラと会話できるようになれるのだろうか。


「山野はいいよな。女子と会話できて。ああいうやつはきっと女子にもてるんだろうな」


 すると上月が口をもごもごさせながら、


「そう? あたしはタイプじゃないけど」


 実に興味なさげに即答されてしまった。


「山野、ダメか? 美容師志望だし、伊達メガネだがそれ以外はそれなりにイケメンだし、もてるタイプだと思うが」

「まあ、見た目はあんたより数倍マシだと思うけどね」


 そんなにはっきりと言うな。


 上月が醤油しょうゆをつけた焼き餃子を一口でほうばる。


「だってあいつ、何を考えてるのか全然わかんないんだもん。すかしてるのか知らないけど、全然笑ったりしないし。普通にしゃべりにくいわよ、あんなんじゃ」


 そのわりには普通に会話してたじゃないか。


 しかし山野はダメなのか。あいつはもてる方だと思っていたが。


「まあその、何を考えてるのかわかんない感じはあるけど、いいやつだぞ。色々と協力してくれるし」

「そうなの? 別にどっちでもいいけど」


 上月は本当に興味ないんだな。話に全然食いついてこない。


「じゃあ、お前のタイプって、どんなだよ」


 すると上月がサラダを取り分ける箸を止めて、むっと俺をにらんできた。


「別に、どんなだっていいじゃない。……強いて言うなら、加川かがわ選手みたいな男子ひとだったら、付き合ってもいいけど」


 つまりスポーツ万能野郎かよ。上月らしい回答だが。


「あと好きな子にF1とか絶対に言わない人ね」

「う、うるせえ!」


 さらりと流されたところで、夕飯終了。食器を洗ってからだらだらしていると、夜の九時になった。


「ほら、SUNはじまったわよ。耳の穴かっぽじって、よく見ときなさいよ」


 言葉の使い方が間違っている気がするが、妹原一押しのドラマだからチェックしないとな。


 インターネットで調べておいた情報によると、SUNというドラマは、とある女子高生を主人公にした学園ドラマであるらしい。


 運動音痴で勉強もできないが性格は底なしに明るい女子高生、木崎きざきサンが、学校のアイドルである月島つきしま勇斗ゆうとに恋をするという、どこにでもありそうなストーリーなのだが、月九のドラマだから俳優陣はなかなか豪華なようだ。


 でも俺はドラマなんて観ないから、オープニングのシーンで登場する有名人の顔を見てもなんの感情も沸かないな。


 画面が切り替わって、高校とは思えないようなハイセンスな教室で木崎サン役の女子と月島役の男優が少しぎこちない演技をしているが、面白くはないな。


 これならインターネットのプレイ動画を観ていた方が数倍は楽しいと思うが。


 そういえば、ゲームのプレイ動画を見ようと思っていたけど、見てなかったな。そう思ってテーブルのノートパソコンに手を伸ばすと、上月がすかさず俺の腕をつねってきた。


「いててて! や、やめろ」

「何飽きてパソコンやろうとしてんのよ。耳の穴かっぽじって見ろって言ったでしょ」


 だから言葉の使い方が間違ってるって言ってるだろ。それより早く手を離せ!


 俺が赤く腫れた手を擦ると、上月が怒りを通り越して、心から軽蔑しているような目で見てきやがった。


「開始五分で脱落って、何? あんた、本当にやる気あんの?」

「やる気はあるよ。パンパンに盛り盛りの、超メガ盛りくらいにな!」

「メガって……ギャグが微妙に古いのよ。あんたは」


 上月は俺の微妙なギャグに閉口していたが、突然何かを閃いたのか、小悪魔な笑みを浮かべだした。


「ふーん。超メガ盛りぐらいにパンパンだっていうなら、証拠を見せてほしいわね」

「はあ? 証拠?」


 激しく嫌な妖気をビンビンに感じるが。


 上月がいたずらする気満々の悪い顔で、「そうね」ともったいつけて言葉を続ける。


「今日から毎週、SUNを欠かさずに観ること。それも全シーン、間のCMまできっちりね。できなかったらそのパソコンは没収よ」

「なんだよそれ!? そんなふざけた要求呑めるわけねえだろ!」

「聞けないの? あっそ。じゃあもう協力してやんない」


 ぐっ、この野郎……。


 しかし上月はさらに悪辣な顔でせせら笑って、


「盛り盛りの超特盛なんだから、月九のドラマ一本を観るのなんて簡単でしょ? それとSUNの放送時間中は、パソコンとゲームは禁止だからね」


 余計な条例までさらりと追加しやがった。


 やっぱ、こいつに相談するんじゃなかった。テレビに映っているカメラのCMを茫然と眺めながら思った。

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