余章:時の先にて……
「……と、いう話なんです。……どうです、面白いでしょう?」
そう得意げに語ってみせる義弟の話を聞きつつ、“虹の瞳” の異名をもつ女性は膨らみ始めたお腹を摩る。
「……よくそこまで、調べることが出来ましたね――」
身重となり、神殿より休息を言い渡された彼女に、久しぶりに帰って来た義弟はこの物語を語って聞かせたのだった。それは、彼女が聞き知る “影の騎士” 伝説とは些か異なるものであった。
「……あっ、疑ってるな。……これでも、西方大陸まで足を運んで、フォーサイト王国へ行って聞き込んだり、ミゼルさんやミゲラス孤児院とかも周って、調査をしたんだから――」
彼女の反応に不満があるのか、義弟は頬を膨らませて言葉を続けた。
「……そうなんですか。ご苦労様…………で、本当の事なんですか?」
彼女はそんな義弟を宥めるように相槌を打つ傍らで、虚空に向けて問い掛けた。彼女の守護聖霊に向けた言葉だ。義弟の目に映らぬ彼の聖霊は、やや華美な装いを纏い、手の内の手琴を爪弾きながらはぐらかすような答えを返した。
『……まぁ、よく調べてますね――と評しておきましょうかね……』
「あら、曖昧なお返事ですね。」
『……そりゃ、伝説の書き手としましてはね……。“伝説は伝説のままに” というのが私の信条なんですよ……こういうことされると私の立場も、ねぇ――』
「……なるほど、伝説の紡ぎ手、“竜瞳の” リュッセルさんが、そう言うところを見ると――」
そう言って彼女は微笑んだ。




