第四章:ある華やかなる街にて
そこは王城から騎馬で半日程度離れた小都市、鉄騎騎団の上級騎士の統治する地だ。そこは王都に近く、また周囲を豊かな耕地帯を抱えており、フォーサイトの諸都市の内でも有数の繁華を誇っている。
この表通りを歩く、二人の旅装の者がいた。一人は腰に剣を佩き、一機の古びたドールホースを連れている女性――その背はすらりとした精悍な気配を漂わせ、フードから見え隠れするその容貌は、見る者を引きつける美しさがある。
もう一人は、かなり小柄な身をマントとフードで過剰に被っている。何かを背負っているのか背に幾らかの膨らみが窺えるが、その身のこなしは子供っぽい闊達さがあり、そのマントから覗くのは浅黒い手足であった。道行く人は、彼の者を西方の蛮族の “黒き民” の子供であろうと思ったことだろう。
そして二人は、表通りより少し奥まった宿屋に宿を求めた。彼等は個室に入るまでマントやフードを取ることはなかった。訳ありの旅人を詮索しない程度には宿の主に分別があった為、二人を誰何する者はいなかったのだが……
部屋に入った二人は、部屋の外に人の気配がなくなったのを確認してから、フードを取り、マントを外した。
「……ふしゅぅぅぅ――」
マントを脱いだ少女は、背に縮めていた翼を大きく広げ、幾翔きをしてみる。この少女こそ、ハーフグレムリンの少女、ポル=ポリーである。
「ポル……あまり騒がないでね。ここは今までの街とは違って、騒ぎがすぐにも王都に伝わってしまうだろうから……」
大きく背伸びをしていたポルは、シェアナの言葉に振り向き、暫く眼を瞬かせた後に、首から下げた石板に石墨を滑らし、彼女に見せる。
-それって、何時もとどう違うの?-
シェアナは苦笑を漏らした。
“リラーズ渓谷会戦” の後、シェアナはショーネルから逃れた後、森林に紛れ潜んだ後に夜陰に乗じてホルトの谷に帰還した。彼女たちを迎えたファルト老は、早速損傷した魔鎧や鋼馬の修復を行った。
魔鎧の損傷は、見掛けに反して内部の損傷も軽く、装甲の一部の交換で済む事となり、シャーフィールの損傷は以前ともの異なり、オーバードライブで消耗した内部薬液と伝達系部品幾つかの交換で済んだ。
一時の休息を過ごした彼女は、魔鎧とシャーフィールの修復を待って、傷の癒えたポルと伴に再び旅に出ることにした。今度はボルラ卿に暗殺を命じた者の手掛かりを求め、避けていた王都付近へと足を運んでみることにしたのだった。
この都市を統治するのは、鉄騎騎団の上級騎士でボルラの縁戚であったと記憶している。彼に問い質すことで何かしらの手掛かりが得られるやも知れぬ……そう思い、彼女はこの都市を訪れたのだ。
部屋の中央辺りに立ち、思索に耽っていたシェアナ。……不意にその目の前が真っ暗になる。
「……にゅぅ! みぅ~~ゅ……」
「あっ! ポル――」
真っ暗になった原因である、急に抱き付いてきたポルに驚いて思わず狼狽えてしまう。流石に風の妖精の少女だけあって、重さは差程でないものの……
「ポル、前が見えない……」
肩の辺りから、頭全体を抱え込むように抱き付かれては、流石に困った状態と言えるだろう。
「うにゅ~にゅみゅっ!」
「……ポルう~」
困り果てた彼女は情けない声で、頭上の少女に声をかけた。
「きゅにゅみゅにゅるぅ~~っ!」
「…………」
シェアナの言葉も聞こえぬように、ポルはそれから暫くの間彼女の肩の上にいた。




