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“影の騎士”の物語  作者: 夜夢
第五部 “影と鋼達の戦場”
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第一章:敵軍来る


 シェアナたちがトルヴシティ侵攻の報に慄然となる数日前、王都フォーサイトに、危急を告げる一騎のドールホースが駆け込んできた。

 「トルヴシティ軍動く」の報を携えて……


 他国と異なり、フォーサイト軍の全騎士にドールホースがいき渡っていることの本領がこの時発揮された。ドールホースの疾走は並の馬より速く、またその身が機械ゆえ、「疲れ」というものを知らず、潰れることもない。

 しかしそれを操るのは、所詮人である……トルヴシティ侵入を逸早く察知した国境砦の一つより、いち早く急報を知らせた騎士は、国境から王都までの数日間を不眠不休で駆けた為、報を知らせた直後、極度の疲労に昏睡してしまったという。


 そして、最初の使者が到着した翌日の夕刻、もう一騎の使者が続報を手に王都へと駆け込んできた。

 その報によると、敵トルヴシティ軍――陸戦騎士五万、空戦騎士四万、機械人形群七十万、傭兵二万――推定八十万以上の大軍が、国境南東部のリラーズ渓谷に布陣を始めているとのことであった。

 これには、宮廷中が慄然とならざるを得なかった。敵軍の陣容は、トルヴシティ全軍のほぼ半数を占めるものであり、トルヴシティの力の入れようを窺い知れた。

 更に言えば、布陣しているリラーズ渓谷は、両国の国境線に当たる領域の内、森林や岩壁によって複雑な地形を形成している箇所である。平原では無敵の機動性を誇るフォーサイトにとって、そこはその機動性を著しく損なう地形と言える。対して、トルヴシティは山国、複雑な地形での機動に有利なドールを多く産出し、諸王国でも珍しく正式な空戦部隊が編成されてもいる。

 そして、リラーズ渓谷を北上すれば、“陰の騎士の遺跡” は目と鼻の先だ。彼等の狙いは自明であろう。

 その陣容や布陣の状況に、多くの者は絶望の念を抱かざるを得なかった。


 この侵攻に宮中の者たちは間の悪さと、そこに潜む策略の影を感じずにはいられなかった。それは、王命による “陰の騎士の遺跡” の警護の為、騎士団主力の鉄騎騎団の過半数からなる、遺跡からホルトの谷近辺に至る対セクサイト警戒網完成直後に、この侵攻が起こされたことによる。トルヴシティ軍の布陣は、この警戒網のちょうど後背を突く絶好の位置となった。

 しかしこの警戒網を、対トルヴシティ軍に再編はできない。物理的には可能だが、それを行えばセクサイトに後背を晒すことになり、その侵攻の呼び水になりかねない。


 この事態に宮中の多くの者たち――特に文官たちは、恐慌に走る誘惑に襲われたが、騎士団総団長フォルタス=ゲルシュトムや親衛騎士団長ドレイル=ヴァルターの一喝もあり、大きな混乱は未然に防がれた。

 侵攻の第一報がもたらされて三日後、時の国王トラム=フォン=フォーサイトは宣言する。

「予、トラム=フォン=フォーサイトは、トルヴシティ軍の不貞な行いに対し、予自らの手でこれを撃滅する事を宣言する。」

 この宣言より、ドレイル=ヴァルター卿率いる親衛騎士団を中核とする親征軍の編成の為、多くの使者により各地の騎士たちにこの檄は伝えられた。

 シェアナとショーネルが聞いた報も、これら使者の一人によるものである。


 ……宣言がなされて一巡りしないうちに、親征軍主力はリラーズ渓谷西方の丘陵地帯に陣を構えた。

 そして、“リラーズ渓谷の会戦” の火蓋は切って落とされようとしていた。

 この時のフォーサイト軍は、騎士八万、ドール群四十万、傭兵二万の総勢約五十万……数の上では、かなり不利と言わざるを得なかった。



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