第一話・「はい、今開けます」
遅刻するのは、生まれて初めてだった。
あわてて高校の制服を着、鏡も見ないで家を飛び出そうとする。靴の紐がうまく結べず、もどかしくなる。好きなデザインの靴だが、あいにく在庫がこれしかなかった。少し大きめのサイズでもいい、と我慢した結果がこのざまだ。靴の紐をきつく締めないと、走っている途中で脱げてしまう。
「ファッションは我慢だ、か。……身にしみるよ」
そう言った親友の顔が思い出される。
靴の紐を結び終え、ようやく出発できるとなったとき、呼び鈴が鳴った。
「……?」
すでに遅刻の徒である俺の家に、誰が訪れるというのであろうか。
実家からかなり遠い高校に通う俺は、過保護の両親からアパートを与えられていた。入居当初は、勧誘その他がたくさんあって、いい加減うんざりだったが、最近は静かなものだ。そんな俺の家を訪れるのは、友人しかいないはず。
しかし、同じ高校に通う友人が、遅刻している俺の家を訪れるはずがない。
……とするといったい誰だというのであろうか。
遅刻しているのも忘れて思案する。その間も、ドアの向こうには確実に人の気配があり、ドアに寄りかかったり、うろうろしたりしているようだった。
尋ね人がいないのに帰ろうとしない客。
そんな客がいるであろうか。ましてや、俺が学校に通っていることを知っている人間なら、そもそもこの時間に訪れようなどとしないはずだ。
開けるに開けられないドア。
何の躊躇もなくドアを開けて、客を追い払ってしまおうかとも考えたが、さすがにそんなことはできない。やはりここは、意を決しドアを開け、懇切丁寧に対処し、帰ってもらうしかないだろう。それが一番だ。
「はい、今開けます」
俺は、のぞき穴に眼を通さず、おもむろに外開きのドアを開けた。
興味を持ってくださった方、読んでくださった方、ありがとうございます。そして、申し訳ありません。
色々な経緯があって再掲載です。
変更点として、主に誤字、脱字、不自然な文章を修正しました。
また、平行して、この本編では語られなかった平行時系列の「スクール・オブ・ザ・デッド」を連載します。不定期(一週間に一度くらい)になりますが、よろしければお付き合いください。
評価、感想、栄養になります。