「信号のハツカ」
四千文字を超えております
余力がありましたらよろしければ読んでいってね
髪が直ってきて、歳の割には幼い外見をした少女の顔がやっと現れた頃の事。
二人は、学校を目前に並ぶ綺麗に整列した10組の信号機の前にて。
車も通らぬ道路に大きく時間を削られて、立ち往生しているのであった。
待ちくたびれて、少女ハツカの方は小山座りをして、信号の順番を待っている。
少年、煎浬の方は微笑んだ表情を崩さぬまま、少し額から汗が垂れていた。
「……イケメンでも、汗は掻くんだね」
ハツカも少し汗を流す中、軽く朦朧としているのか、小さな声でつい思った事を述べた。
一応昔から彼は運動競技もたしなんでいた為、暑苦しいと感じる競技で
汗を掻く事には慣れているが、運動中の煎浬をまじかでその顔を見るものは少ない。
だから、ハツカにはそれが新鮮さ、そして軽いイメージ崩壊に繋がっていく。
「ん?驚いた?男は汗を掻くんだよ?」
「……え、うん! そうだね」
ハツカは、当たり前の事を言われてしまい、言葉につまる。
そうこうしているうちに、やっと信号機は青の番に周ってきた。
「行こうか、このまま走って突っ切れば、一気に到着だよ」
ここの信号は連動型で直結しており、他の1基が青ければ全てが青に変わるのだ。
しかし、青に切り替わるまでに少し時間が掛かるのが難点である。
「はい、先輩!……あれ、あの人……」
渡ろうとしたその時。
3番目の信号機の前で、青になったとゆうのに一人佇んでいる人の姿が目に飛び込んだ。
「……煎浬先輩、あの人老人みたい!」
ハツカはそれがどうしても気になるのか、一気に3番目の信号機まで走っていった。
「あ、待って」
煎浬もそれに釣られてついて行く、一応老人の存在には気がついているようだ。
そして、横断歩道まで行くと、二人は足を止めて佇む人物を見た。
見ればその人はハツカのゆう通り、性別は良く分からないが外見からして髪は全て無く、目蓋がたれさがり目を隠している5歳児くらい背の低い、かなりの老齢のお年寄りだった。
「あの……!もしかして此処が通れないのかな……?」
もしかしたら、目蓋のせいで前が見えていないのかもしれない。
「誰か、待っているんですか?」
「………………」
ハツカは何を考えたのか、タイムリミットが残りわずかな中老人に声をかけた。
しかし耳も遠いのだろうか、返答は返してくれない。
ハツカは信号機を一度だけ見つめる、少しだけ考えるような表情をした。
考え終わると老人の方を見てこう言った。
「……じゃあ、貴方の行きたい所まで連れてってあげる!」
「……あと、2分で信号が赤になるから、残り時間はあと3分だよ」
いきなりのハツカの言動を転換を心配したのか、煎浬は時間切れまでの残り時間を教える。
するとハツカは、あっとゆう表情をして煎浬の方に向き直った。
ちょっと困ったような顔、父親と同じような目つきになって苦笑う。
「もうそんなに立ったんだ……ごめん」
少し申し訳ないとゆうような表情で、目で老人と片思いの先輩の顔を交互に見た。
「それなら、どうする?」
優しい声で、ゆったりとした口調で喋るけれど、時間は刻々と過ぎていく。
返答に迷っている暇は無い、ハツカは直ぐに答えを出した。
「じゃあ……!先輩は先に行っててください!私はこの人を、今行きたいところ指してるし、終わったら行くね」
それを聞いた少し後、煎浬の顔から微笑みが薄れると、少し真剣な色が浮かぶ。
「……それで、良いのかな?」
「はい!」
真っ直ぐにハツカは煎浬を見た、煎浬はそれを聞くと、またいつもの微笑み顔に戻る。
そして。
「じゃあね」
煎浬は微笑むと、青信号の横断歩道をスタスタと歩いていく、ハツカの横を通り過ぎた。
その後走りだして、信号機4基のあたりを通り過ぎる先輩の姿が目に映った。
それをハツカは目で追うが、でも直ぐに視線を老人に移して歩きましょうと敬語で促した。
「ふ、ふぶ……」
老人が何を言っているか分からないが、何となく感謝しているようにも謝っているように聞こえなくも無い。
もしかしたら馬鹿にされているのかもしれない。
だとしてもハツカは老人を一歩一歩ゆっくり歩道を歩かせていった。
「もう少しよ!がんばって!」
その間にも時間は風よりも早く過ぎていく。
先ほど煎浬が通っていった、4基目の信号機までの道のりが遠い。
ハツカの表情はしだいに、切なく少し曇り気の入った表情になっていく。
「……っな~んてね、俺も行くよ」
耳の近くから、いきなり細く優しい、ハツカの知っている声が響いた。
「……っひゃあん!!」
驚きのあまり、ちょっと可愛い声を上げてしまった。
振り向くとそこには、先に行ってしまったはずの煎浬が、笑いながら隣に立っていた。
「もう、遅刻になるよ!優等生が馬鹿な事したら学校の人達全員が困っちゃうよ!」
「問題、優等生の称号がついた者は、どちらの道を選ぶでしょうか?」
ハツカの質問に言葉を返した、そして。
「正解は、俺が一人では横断歩道を渡れないから、君を手伝うよ。ふふ、正解です」
楽しそうな顔で言って、細く優しい声に、さらに涼やかさが足されたようだ。
「そうなんだ……でもありがとう、煎浬先輩!」
それから煎浬の協力もあり、一歩づつ、少しづつ着実に進んで行く。
「わっ!!」
ハツカは、前ばかり見ていたために
地面の白いコンクリートに足が引っかかってこけそうになった。
「おっと、こけないでね……」
そのたびに、煎浬はそれ直ぐ反応してハツカを受け止める。
「う、うん……」
「ふぎゅん……」
恥ずかしそうにも、手助けを続けるハツカの方を見ているのか。
何となく相槌をうつ老人。
そんなやりとりがありながらも。
二人で運んだ結果、思った以上に短い時間で
ハツカの言う目的の、次の横断歩道まで辿りついた。
「ついたぁ!」
ハツカは嬉しそうに両手でビクトリーのポーズを取る。
煎浬の方もいつもよりも笑顔に見える、そうして二人で達成感を分かち合う中
今まで黙っていた、とゆうか、人語を解さなかった老人が喋りだした。
「ありがとう、優しいお二方、これで私も、開放されるんじゃなぁ」
「……ん?どうゆう事なのですか?」
煎浬は、老人の意味心な言葉に、喋った事への驚きより、疑問が先行した。
「……開放って何がですか?」
ハツカも遅れて質問をした、だが、老人は少し顔を背けてしまった。
触れてはいけない事だったのだろう、二人は顔をあわせて深入りは止めた。
「しかし……お礼はせんとのぉ、老人の性じゃあ」
そう言って老人は、手の平の上に乗る、氷のオブジェクトを煎浬に差し出した。
それは、とても繊細に細やかさを追求して作ったのであろう、薄蒼色に輝く龍のオブジェクトであった。
「龍の氷の彫像?これを俺にくれるの?」
老人はこくりと頷く。
しかし何故か、ハツカの方には何も渡さなかった。
「私は?あの……」
「五月蝿い、君には持ち合わせが無いんじゃ、のちのち渡しちゃる」
軽い文句を吐いて、老人は垂れ下がった目蓋を上げハツカを見つめる。
「何でしょう……?」
ハツカは少し緊張した顔をするが、老人は二人にこう言った。
「あと、1分じゃぞ」
時間は進んでいるのに、変な間が生まれ、そして。
「……あ、そうだったぁ!!」
「いけない、俺も忘れてたよ」
思い出した瞬間、信号の方を見て、まだ青だと確認しすると一気に走りだした。
そんな二人の後姿を、老人は笑いながら見送った。
「お礼はいずれ渡すぞぉ、きひひひひ……」
しかし案の定、信号機は6番目の信号で赤になってしまった。
「まずいね……」
煎浬も、暑さとは違う何かで額から汗を掻き始める。
ハツカはそんな煎浬を見て、少しづつ表情が強張っていく。
「私のせいだね、老人さんを勝手に手伝って、時間を使ったりしたから……」
「君は悪くないよ、俺が勝手に協力したんだから」
「ごんなさい!でも、どうすれば……」
ハツカは弱音を吐く、それを見つめて煎浬は言った。
「それは、君が決めて」
彼にとってはどうか知らないが、ハツカにとっては残酷な一言だった。
例えるならば、死刑台に立たされた片思いの彼を、自分の意思で処刑しなければいけないような。 そんな妄想が、少女の頭の中で爆発しそうになっていた。
その時、その光景は丁度、門の前に立つ国語の教師にも見えていたのだった。
「ハァ……まさか、あのような老人を助けて、遅刻してしまう者が現れるとは……この赤麻中学校始まって以来の、快挙だな」
皮肉交じりの発言をし、時計を見ながら男はため息をつく。
「しかも、残りはお前達だけ……あと38秒、以上だ」
妄想の爆発が頭の中で起こりかけている。 表情が髪に隠れて見えない。
それからハツカはゆっくりと顔をあげる、何か不思議な雰囲気を漂わせていた……。
瞳孔が信号機の赤色をしっかりと見つめ、瞳の真ん中が赤く染まる、そして小さく呟いた。
『全部、今すぐ青信号になれば良いのに……』
そうだねと、諦めた表情で呟く煎浬。
その時、自分達の背に向かう信号機の、赤くもれる光が消えた。
その代わり、青い光が右端から漏れ出す。
そして、綺麗に整列した信号機が、まるで踊りだすかのように。
赤の信号が次の瞬間、10組全てが青信号になってしまった……。
「………………凄い」
流石に驚きを隠せないか、煎浬は顔が釘付けになった。
そしてもう一人、驚くハツカの顔を見て、楽しそうにはしゃいだ。
「凄いよ、壊れたのかな?全部本当に青になったよ!」
「……そんな事はどうでも良い!……行くよ先輩!!」
最後のチャンスと思ったか、はしゃぐ煎浬をよそに一気にハツカは走り抜ける。
煎浬も、信号機を見上げながら器用について行った。
それを遠めから、学校側にいる者では唯一、男はその瞬間を目撃してしまった。
「……信号機が……おかしい、1億ボルトの雷撃にも耐性を持っているとゆうのに……」
だが信号機の青い光に、男も一瞬だけ目を奪われた、何故か少しだけ口元がにやけて。
「……あっ」
男は正気に戻ると、キツイ目つきでこちらにダッシュで駆け込んでくる
二人の生徒を見た。
だが、男は少し残念そうな表情をしてため息をつく。
再び時計の針を見て。
「俺的にも残念だが、もう遅い……あと、1秒……」
距離からして、二人はもはや校門まで届くわけが無かった。
男は、何かを覚悟したような表情をして、目をつむった。
そしてカウントダウンが、終わりを告げようとした。
「………………ぜ……」
「到着ぅううう!!」
「うん、ギリギリセーフだったね」
男が何か言おうとしていた頃、出席人数は、規定値に達した。
「………………」
「あ、国せんせい!!おはようございます!」
「おはようございま……す……はぁ、トリセラ先生、疲れた……」
片方の生徒は楽しそうに、もう一人の生徒は疲れきった状態で。
校門の内側でお茶を濁す、一方その頃。
トリセラ先生は、頬を淡い桜色に染めて、目をつむり続けた。
何でもいきなり決め付けるのは危険だよね。
車が全然走っていなかったから、迷惑にならなくて良かったよ
以上信号のハツカでした