プロローグ
「こちらには落ち度はないのに。申し訳ないお話だわ」
父の友人の奥様は、大変な同情をよせて父の相談に力強く乗ってくださいました。
そして一夜のうちに大人たちの話し合いはすっかり終わっていて、マリユスは今をときめくベルクール公爵家へ小姓として上がることが決まったのでした。
「そ、そんな、ベルクール様のお屋敷へだなんて!」
びっくりしてお話を断ろうとしたら、奥様が親しげにうなずき、そのまなざしをしっかりとこちらに注いで、ささやいてくださったのです。
「大変なことだということは、わたしたちもわかっているの。だけれども、あなたはこのまま引き下がってよいの? あなたには何の不足もない、むしろふさわしいということを、知ってもらえないままでよいの?」
そう言われ、マリユスは考え込んで口をつぐんでしまいました。
「あなたが手をこまねいて何もしないなら、あなたは諦めを受け入れなければならないだけ。でもあなたがほんの少し勇気を奮い起こせば、何かが起こるかもしれない」
何かが起こるかも……。
その言葉がマリユスの心の奥に潜んでいた宝石に、小さな光を投げかけたようでした。宝石は一瞬きらりと輝き返しました。
「わたしを信じて」
マリユスの宝石の輝きよりもさらに鮮やかな輝きが、奥様の瞳に宿っていました。
「ただ諦めるのと、自分にできることをやってみてその結果を受け入れるのは、まったく別のことよ」
奥様がマリユスを勇気づけるようにうなずきました。
「自分のできることに、自分を賭けてみない?」
この物語は、2000年代に個人サイトにアップしていたものを加筆修正し、PCを処分するにあたり個人的な保存も兼ねて、こちらに登録したものです。
時代設定はざっくりとメロヴィング朝、カロリング朝あたりのフランスを想定していますが、ストーリーの都合を優先しており、歴史や史実にはまったく忠実ではありません。




