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記録
白い世界が閉じた、その“外側”。
どこにも属さない空間で、古びた石板が淡く光っていた。
神々が世界を管理するために用いる、記録装置のひとつ。
石板の表面に、文字が浮かび上がる。
――
個体名:ルナリ
事象:時間逆行
分類:例外
――
補足対象:セラフィナ・シルヴァード
……記録不能
――
誰かが、困ったように息をつく気配がした。
「……やっぱり、そこは引っかかるか」
女神の声だ。
だが、先ほどよりもほんの少しだけ低い。
石板に手を触れようとして、彼女はやめた。
「君は“戻った”んじゃない」
独り言のように、そう呟く。
「正確には――“ズレた”だけだ」
石板の光が、ふっと消える。
記録は修正されないまま、闇に沈んだ。
「まあ、本人が気づくのは……まだ先でいいか」
いつもの軽い笑顔に戻り、女神は親指を立てる。
「未来は、まだ固定されてないんだから」




