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Ex.記録の外で



 夜明け前の風は、いつか訪れたかもしれない朝のように冷たかった。


 剣を納めたセラが、ふっと息を吐いた。

 戦いが終わった実感は、まだなかった。


「……行こっか」


 振り返らずに言う声は、いつもと変わらない。

 英雄でも、犠牲者でもない。ただの冒険者の声だった。


 ルナリは何も答えず、彼女の背中を見ていた。

 勝ったとも、救ったとも言えない。

 それでも、世界は崩れていない。


 二人の少し後ろ。

 少し離れた場所に、女神は立っていた。


 白と黄金のドレスは、いつも通り整っている。

 微笑みも、軽さも、何一つ変わらない。


 ただ――

 彼女はもう、世界を見ていなかった。


 未来でも、可能性でもなく。

 目の前を歩き出す二人の背中を、ただ眺めている。


 セラが一歩踏み出す。

 草を踏む音が、静かな朝に溶ける。


 ルナリも、それに続いた。


 一拍。


 女神は、ほんの少しだけ間を置いてから口を開いた。


「……参ったな。

 これは、もう私の仕事じゃない」


 それは感想でも、敗北宣言でもなかった。

 ただの事実確認のような声だった。


 風が吹き抜ける。


 ルナリが、何かを感じて振り返る。

 けれど、そこにはもう誰もいなかった。


 最初から、いなかったかのように。


「……?」


 小さく首を傾げたセラが、ルナリを見る。


「どうしたの?」


「いや……なんでもない」


 そう答えて、ルナリは首を振った。

 説明する言葉は、最初からなかった。


 セラは気にした様子もなく、前を向く。


「早く行かないと、宿の朝ごはん無くなるよ」


「それは困るな」


 並んで歩き出す二人の足音が、草原に重なる。


 誰にも記録されない。

 誰にも選ばれなかった。


 それでも確かに続いていく、ただの時間。


 ルナリは、その背中を見ながら思った。


 ――それでいい。


 夜明けの空は、静かに色を変え始めていた。

 

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