決着、そして…
――また、ここに来たのだ。
剣を握る手に、かつてほどの迷いはなかった。
前と同じように進み、前と同じように戦い、
それでも、前とは違う結末に向かっていることを、
彼自身だけが理解していた。
背後で、セラの剣が魔物を斬り伏せる音がする。
軽やかで、無茶で、変わらない戦い方だった。
「無理しすぎるな」
「分かってるって」
笑いながら返ってくる声も、記憶通りだ。
――だからこそ、胸の奥が静かに締め付けられる。
戦いは長くは続かなかった。
だが、その「わずかなズレ」は、確実に訪れた。
セラの動きが、一瞬だけ遅れる。
それだけで十分だった。
魔王の最後の足掻きが脇腹を裂き、彼女はその場に膝をつく。
「……あーあ」
困ったように、彼女は笑った。
「ちょっと、やりすぎたかも」
「セラ」
名前を呼ぶと、彼女は顔を上げる。
意識ははっきりしていた。
治癒魔法は使えた。
条件も、距離も、揃っていた。
――それでも、ルナリは動かなかった。
手を伸ばせば、同じことができる。
奇跡を使い、時間を引き延ばし、
また「やり直し」に縋ることができる。
そのときだった
どこからともなく、声が聞こえた気がした。
「まだ、手は伸ばせるよ」
振り返らなかった。
その声が誰のものか、確かめる必要はなかった。
ルナリは、ただセラを見つめた。
セラは何も聞かなかった。
問い詰めることも、不安を見せることもなく、
ゆっくりと息を整えながら、穏やかに言った。
「ねえ、ルナリ」
「なんだ」
「……この旅、楽しかった」
それは遺言のような言い方ではなかった。
次の街の話をするみたいな、自然な声だった。
「またさ、落ち着いたら――」
言葉は、そこで途切れた。
セラは小さく瞬きをして、
それから、ゆっくりと視線を逸らした。
呼吸が、止まった。
世界は、何も変わらなかった。
風は吹き、空は澄み、
魔物の気配だけが、静かに消えていく。
ルナリは、彼女を抱き寄せなかった。
名前も呼ばなかった。
ただ、そこに立っていた。
しばらくして、再び声が響く。
「それでいい」
感情のない、短い言葉だった。
ルナリは何も答えなかった。
答える必要はなかった。
振り返ったとき、そこには何もなかった。
彼はセラの剣を拾い、整え、
地面にそっと置いた。
そして、ゆっくりと背を向ける。
空は、淡く明るくなり始めていた。
――夜が、終わる。
彼女は、最後までここにいた。
それで十分だと、私は思えた。
だから、前を向いた。
一応これで本編完結にしようと思います。
今後はループの始まりについて、過去編を通して深掘りしていきます。
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