選ばれない言葉
森を抜けた先で、二人は小さな村に立ち寄った。
特別な用事があったわけではない。
補給と、少しの休息。
それだけのはずだった。
夕暮れの村は穏やかで、
子どもたちの笑い声と、鍋の煮える匂いが混じっている。
「平和だねえ」
セラは気の抜けた声で言い、背伸びをした。
「こういう場所に来るとさ、
このまま旅、終わってもいいんじゃないかって思う」
「……突然だな」
「冗談だよ」
彼女は笑ったが、
その笑いは、どこか柔らかすぎた。
宿を取ったあと、
ルナリは一人で外に出た。
理由はなかった。
ただ、胸の奥に溜まるものが、
部屋の中では重すぎた。
夜空は澄んでいた。
星は多く、静かだ。
――ここでなら。
そんな考えが、ふと浮かぶ。
何を、とは考えなかった。
それでも、**「何かを選べる場所」**である気がした。
声は、聞こえなかった。
あの、感情の抜け落ちた声も、
導くような気配もない。
それなのに――
選択肢だけが、確かにそこにある。
ルナリは、ゆっくりと目を閉じた。
奇跡を使えば、どうなるか。
使わなければ、どうなるか。
どちらも、もう知っている。
だからこそ、
答えは簡単には出なかった。
「……ルナリ?」
振り返ると、セラが立っていた。
「部屋、空いてるよ。どうしたの?」
「少し、風に当たっていただけだ」
「ふーん」
彼女は隣に並び、同じ空を見上げる。
「ねえ」
「なんだ」
「もしさ」
一拍、間があった。
「この先で、すごく嫌なことが起きるって分かってたら」
星を見たまま、彼女は言う。
「それでも、進む?」
ルナリは答えなかった。
答えられなかった、ではない。
答える必要がないと、分かっていた。
セラは小さく息を吐く。
「ま、いいや。難しいこと考えるの、得意じゃないし」
そう言って、先に歩き出す。
「ほら、明日も早いよ」
「ああ」
彼女の背中は、変わらない。
軽やかで、無防備で、信じきっている。
――だからこそ。
ルナリは、その背中を見失わないように歩いた。
夜は、静かに更けていく。
声は、最後まで聞こえなかった。
それでも、
「選ばれなかった言葉」だけが、
胸の奥に残り続けていた。




