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上手くいくはずの日


 その日は、何事もなく始まった。


 ルナリは目を覚ました瞬間に、胸の奥で小さく息を吐いた。

 嫌な夢を見たわけでもない。ただ、起きる前から「今日は越える日だ」と分かっていた。


 ――三日後、街道で起きる盗賊の襲撃。

 ――新人冒険者が一人、命を落とす。


 前の世界では、そうだった。


 だから今回は、朝のうちに動いた。

 セラを連れて街道に出る前に、ギルドで情報を流し、巡回を増やさせた。


「今日は依頼、変えよう」


 セラは少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。


「うん。ルナリがそう言うなら」


 その言葉に、胸が少しだけ痛む。

 “信じられている”ことが、今は重かった。


 結果は、完璧だった。


 盗賊は現れなかった。

 街道は静かで、風の音だけが続いていた。


 新人冒険者たちは、無事に街へ戻った。

 誰も死なない。

 誰も傷つかない。


 ――成功だ。


 ルナリは、確かにそう思った。


 


 異変は、帰り道で起きた。


「……ルナリ?」


 セラの声に振り向くと、彼女は道端に膝をついていた。


「どうした?」


「分からない……急に、息が」


 顔色が悪い。

 怪我はない。魔力反応も異常なし。


 それでも、セラの呼吸は浅く、指先が冷えていた。


 通りかかった治癒師に診せても、答えは同じだった。


「原因が、見当たりません」


 病でも、呪いでもない。

 ただ――“消耗している”。


「……戦ってもいないのに?」


 治癒師は困ったように首を振った。


 


 宿に戻ったあとも、違和感は消えなかった。


 セラは眠っている。

 穏やかな寝顔で、苦しそうには見えない。


 なのに。


 (前は……こんなこと、なかった)


 ルナリは、頭を抱えた。


 未来を回避した。

 正しい行動を取った。

 誰も犠牲にしなかった。


 それなのに、帳尻が合わされるみたいに、何かが削られている。


 


 夜、ルナリは一人で外に出た。


 星を見上げても、答えはない。


「俺が……余計なんじゃないのか」


 声に出して、初めてその考えが形になった。


 セラは何もしていない。

 間違っていない。

 選んでもいない。


 変えたのは、俺だ。


 


 ふと、聖教会の鐘が鳴った。


 夜半の祈りを告げる、静かな音。


 その余韻の中で、ルナリは気づく。


 鐘楼の壁に刻まれた文字。

 古い聖句の一節。


――選ばれなかった可能性は、世界に影を落とす。


 前の世界では、見た覚えがない。


 誰かが書き換えたのか。

 それとも、最初からあったのか。


 分からない。


 分かるのはひとつだけ。


 この世界は、

 「守れば正解」ではなくなっている。


 


 宿に戻ると、セラが目を覚ましていた。


「……ごめん、心配かけたね」


 弱々しい声。

 それでも、彼女は笑おうとする。


 ルナリは、何も言えなかった。


 守ると決めたはずなのに。

 正しい未来をなぞるつもりだったのに。


 その決意が、

 誰かを静かに削っている気がしてならなかった。


 


 ――このやり方は、続けられない。


 ルナリは、初めてはっきりと思った。


 それが、次の選択を呼び寄せるとも知らずに

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