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第1話 決着、そして始まり


 剣を握る手が、ひどく落ち着いていることに気づいた。


 本来なら、震えていてもおかしくない。

 これから向かうのは、魔王の城。

 命を落とす仲間が出ても不思議ではない戦場だ。


 それでも、心は静かだった。


 理由は分からない。

 ただ――なぜか、

「ここまで来ることは知っていた」

 そんな感覚だけがあった。


 隣を歩く赤髪の少女が、軽く肩を叩いてくる。


「ねえ、ルナリ。終わったらさ、何しよっか」


 何気ない問いかけ。

 未来の話。


 ルナリは一瞬だけ言葉に詰まり、

 それから、いつも通りの声で答えた。


「ああ。終わったら、考えよう」


 そのとき、胸の奥で小さく何かが軋んだ。


 ――それが、最後まで消えない違和感になることを、

 この時の俺は、まだ知らなかった。

 


 ♦︎♦︎♦︎

 魔王城の最奥は、異様なほど静かだった。

 崩れた天井から落ちる瓦礫の音と、荒くなる自分の呼吸だけが耳に残る。


 ――ここまで来た


 ルナリは刀を握り直した。指先に感覚はほとんどない。足はとうに限界を超えていて、一歩踏み出すたびに視界が揺れる。それでも前に立つ巨躯から、目を逸らすことはできなかった。


 魔王は、まだ立っていた。


 黒く歪んだ大剣を床に突き立て、こちらを見下ろしている。その呼吸も荒い。互いに、もう後がないことは分かっていた。


「終わりだ、人間」


 低く響く声と同時に、魔王が剣を引き抜く。

 反射的に身構えたが、足が動かない。


 ――避けられない


 そう悟った瞬間、視界の端で赤い影が閃いた。


「ルナリ!!」


 叫びと同時に、身体が押しのけられる。

 次の瞬間、轟音と衝撃。地面が揺れ、空気が裂けた。


「……セラ?」


 視線の先で、彼女が膝をついていた。

 軽鎧は裂け、胸元を押さえる指の隙間から血が滲んでいる。それでもセラは、魔王から視線を逸らさなかった。


「まだ……終わってない」


 震える腕で剣を振るい、魔王の胴に浅い傷を刻む。

 だが次の瞬間、剣圧に弾かれるように吹き飛ばされた。


「セラ!!」


 返事はない。


 魔王もまた、よろめいていた。

 大剣を支えに立ってはいるが、その動きは鈍い。今なら――。


 ルナリは落とした刀を拾い、壊れかけの足で踏み込む。

 

 技はない。魔力も尽きている。ただ、全身を使った一振り。


 刃は、不思議なほど静かに魔王の首元へ吸い込まれた。


 重い音とともに、すべてが終わった。


 魔王の身体が崩れ落ち、城に静寂が戻る。

 勝利の実感は、どこにもなかった。


 ルナリはすぐに振り返り、倒れている彼女のもとへ駆け寄った。


「セラ、しっかりしてよ……!」


 抱き起こすと、体温が驚くほど低い。

 それでも彼女は、かすかに目を開いた。


「……勝った?」


「ああ……勝ったよ」


 その言葉を聞いて、セラは小さく笑った。


「そっか……よかった」


 彼女は震える手を持ち上げ、自分の耳からイヤリングを外す。


「これ……持ってて。……忘れないで……」


「やめろ、そんなこと言うな……!」


 喉が詰まり、言葉にならない。

 どれだけ呼びかけても、返事は次第に弱くなっていく。


「一緒に……旅できて……楽しかった……」


 それが、最後だった。


 腕の中で力が抜ける。

 ルナリは彼女を強く抱きしめ、声も出さずに震え続けた。


 魔王は倒れた。

 けれどこの瞬間、彼にとって世界は、確かに終わっていた。

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